絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『えんぴつのおすもう』などの絵本でおなじみの絵本作家・かとうまふみさんです。今年、絵本作家デビューから10周年を迎えられたかとうさんに、絵本作家になられた経緯や、デビュー作にまつわる思い出、新作の制作エピソードなど伺いました。現役子育てママ作家さんならではの、お子さんとの楽しいお話も必見ですよ!
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら)
1971年、福井県生まれ、北海道育ち。北海道教育大学卒業。絵本のワークショップ「あとさき塾」を経て、『ぎょうざのひ』(偕成社)で絵本作家デビュー。主な絵本に『えんぴつのおすもう』『ぜったいわけてあげないからね』(偕成社)、『のりののりこさん』(BL出版)、『たまごのおうさま』(ビリケン出版)、『ゴロリともりのレストラン』(岩崎書店)、『トッキーさんのボタン』(イースト・プレス)などがある。
▲ボタンのひたむきな気持ちがいとおしい絵本『トッキーさんのボタン』(イースト・プレス)
大学時代の先輩で京都に住んでいる方がいて、今も仲良くしてるんです。彼女を見ていて思いついたお話が『トッキーさんのボタン』です。
なんというか、毎日をとても丁寧に生きている人なんですよ。編み物や刺繍などの針仕事が得意で、ちくちくときれいに縫ったものを、ときどき私にもプレゼントしてくれたり、手紙ひとつにしても、思いを込めて丁寧に書いてくれたり…… 本当に素敵な人なんです。
以前、その人のお宅に遊びに行ったんですけど、その帰りにふと思ったんです。もし、この人のつくったカーディガンのボタンがとれてしまったとしても、そのボタンは絶対この人のもとに帰りたくなるだろうなって。こんなに愛情を込めてつくって、大切にしているんだから、きっとボタンは帰ってくるはず…… そんな思いから、カーディガンから落ちてしまったボタンのお話ができました。
絵については、その人のイメージから、カラフルな色を使うのはちょっと違うなと思っていたんですね。できるだけシンプルな色合いの方が合うんじゃないかなと思ったので、色をおさえて描きました。本当はリトグラフという技法でつくりたくて、リトグラフの教室に通ったりもしたんですけど、私にはとても難しくて断念。結局、木版と鉛筆で描きました。
「トッキーさん」という名前は、その人の名字をアレンジしてつけました。私もその人のように、真摯に自分と向き合って、丁寧に暮らしていきたいなと思っています。
▲不思議なレストランが舞台の、ちょっと怖くて愉快な絵本『ゴロリともりのレストラン』(岩崎書店)。ご自身の絵本をお子さんに読まれることもあるそうです
わが家には今、2歳の男の子がいます。読み聞かせを始めたのは、少しまとまって寝てくれるようになった3ヶ月の頃から。まだ早いかなと思ったんですけど、絵本をじっと見ておとなしく聞いてくれたので、毎日読むようになりました。
読み聞かせをするようになって驚いたのは、親子一緒に読むというのは、自分一人で読むのとこんなに違うのか、ということ。絵本をつくるときも声を出して読んではいたんですが、息子のために読むとなると、全然違うんですよね。より伝わるように、より楽しんでもらえるようにと思うせいか、自然と感情を込めて読むようになっていたんです。
声の強弱や声色次第で、息子の反応が全然違ってくるんですよ。それが本当におもしろくて。ここでこうくるか!と、思いも寄らない反応が返ってくることもあります。なんだか、絵本の楽しさを改めて知ったという感じです。
最近の息子のブームは、西村繁男さんの『チータカ・スーイ』(福音館書店)。とにかく「チータカ、チータカ、スーイ、スーイ」と進んでいく絵本なんですけど、「今日は何読む?」と聞くと毎日のように「チータカ・スーイ!」。こんなに好きになっちゃうんだ!と驚きました。息子と一緒に何度も見ていると、「あ! ここにこんなものが描いてあった!」なんて発見もあるので、それも楽しいですね。
大人になると、こんな風に続けざまに何回も読むことなんてなかなかないですよね。そういう意味では、親になったからこそできる絵本の楽しみ方だなという気がしています。
子どもとの日々は変化の連続ですよね。笑うようになって、お座りするようになって、歩けるようになって、言葉を話すようになって…… どう対応したらいいかわからないようなこともたくさん起きるので、その都度どうすればいいだろう?って、手探りで子育てしています。最近はもうギャングみたいになってきちゃって、ほんと大変ですよ(笑)
でも、子育ての楽しさと大変さを天秤にかけるとしたら、楽しさの方が勝っている気がします。息子との日々は、すごく楽しいですから。ただ、忙しくなってくるとついつい鬼みたいになってしまって、自己嫌悪に陥ることも(苦笑) なるべく鬼にならないようにと心がけながら対応しています。
お母さんになって一番びっくりしたのが、絵本を読むお母さんは意外と少ないんだということ。いろんなお母さんと話していると、絵本よりもDVDっていう方が多いですね。DVDを見せておけばその間に家事とかいろいろできるので、DVDに任せておきたいって気持ちもわかります。でもやっぱり、それだけになっちゃうとさみしいなと思うんですよね。
一緒に絵本を読むのってすごく楽しいし、親にとってもいい体験だと思うんです。子どもの一生を考えると、一緒に絵本を読める時期ってすごく短いはず。そんな風に思うと、なんだかさみしくなっちゃうぐらい、幸せな時間なんですよね。だからぜひ、もっともっとたくさんの親子に絵本を楽しんでほしいなって思っています。
子育てをしながら絵本をつくっているので、マイペースではあるんですが、今後も絵本作家としての活動は続けていきます。秋には新作も出る予定なので、楽しみにしていてくださいね。