絵本作家インタビュー

vol.80 絵本作家 かとうまふみさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『えんぴつのおすもう』などの絵本でおなじみの絵本作家・かとうまふみさんです。今年、絵本作家デビューから10周年を迎えられたかとうさんに、絵本作家になられた経緯や、デビュー作にまつわる思い出、新作の制作エピソードなど伺いました。現役子育てママ作家さんならではの、お子さんとの楽しいお話も必見ですよ!
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・かとうまふみさん

かとう まふみ

1971年、福井県生まれ、北海道育ち。北海道教育大学卒業。絵本のワークショップ「あとさき塾」を経て、『ぎょうざのひ』(偕成社)で絵本作家デビュー。主な絵本に『えんぴつのおすもう』『ぜったいわけてあげないからね』(偕成社)、『のりののりこさん』(BL出版)、『たまごのおうさま』(ビリケン出版)、『ゴロリともりのレストラン』(岩崎書店)、『トッキーさんのボタン』(イースト・プレス)などがある。

絵本作家を夢見て、北海道から東京へ

絵本作家・かとうまふみさん

私は福井県生まれですが、小学4年生のときに北海道に引っ越して、それからずっと北海道暮らし。大学を出たあとは、縁あってディスプレイの企画制作の仕事に携わっていました。

子どもの頃に一番好きだった絵本は、『おおきなきがほしい』(偕成社)です。自分の家にあった絵本ではないんですけどね。友だちの家に行くといつもその絵本を読んでいました。自分のうちにあった絵本で、母によく読んでもらったのは、岩波書店の絵本のシリーズ。『ききみみずきん』とか、今でも覚えています。

絵を描くのも昔から好きで、よく描いてました。たぶん何か表現するのが好きだったんでしょうね。大人になってからも、自分の小さい頃の思い出をテーマに、写真をコラージュして作品を制作したりしていたんですね。言葉も好きだったので、コラージュに言葉を添えたりして。それが、あるとき絵本を見て、ビジュアルと言葉という組み合わせは絵本も同じだな、と気づいたんです。それがきっかけで、絵本作家になりたいと思うようになりました。

北海道には絵本の出版社がないので、どうしようかなと思っていたとき、雑誌で絵本のワークショップ「あとさき塾」のことを知ったんです。生徒募集という文字を見て、プロの編集者に見てもらえるチャンスがあるならと、応募しました。それで28歳のとき、上京。1、2年勉強したら帰ってこよう、という軽い気持ちだったんですけど、結局それからずっと東京に住んでいます。気負いすぎなかったのがよかったのかもしれませんね。あのとき思い切って東京に出てきて、本当によかったなと思っています。

子ども時代の幸せな思い出を絵本に『ぎょうざのひ』

ぎょうざのひ

▲かとうまふみさんのデビュー作『ぎょうざのひ』(偕成社)。残念ながら絶版なので、図書館などで探してみてくださいね!

最初の絵本では、自分の子ども時代のことを描いておきたいって思っていたんですね。その中で真っ先に思い浮かんだのが、“ぎょうざの日”のことでした。

わが家では何か特別な日などに、「今日の夕飯何がいい?」と聞かれると、決まって「ぎょうざ!」と答えてたんです。そんな日は学校から急いで帰って、弟、妹と一緒にぎょうざをつくりました。具をこねたり、いろんな形に包んだり…… その作業がとっても楽しくて。できあがったぎょうざを家族で取り合うようにして食べるのも、楽しかったんですよね。

絵本では、その思い出をほぼそのまま描きました。弟と妹の名前もそのまま使っちゃってます(笑) 日々いろんなことがあっても、ぎょうざの日は、みんな笑顔だったんですよね。子ども時代の一番幸せな思い出です。

絵本をつくるのはこのときが初めてで、どうやって進めるのか何もわからなかったんです。あとさき塾でいろいろとアドバイスをもらったり、みんなのやり方を見たりしながら、2年がかりで『ぎょうざのひ』をつくりました。本屋さんに並んでいるのを初めて見たときは、感動で胸がドキドキして…… 自分自身の話なので、ちょっぴり気恥ずかしさもあったんですけどね(笑)

何気ない日常の中でふと浮かぶアイデア

えんぴつのおすもう

▲舞台は真夜中の机の上『えんぴつのおすもう』(偕成社)

『ぎょうざのひ』で自分の家族のことを描いたので、次はもっと違う題材にしたいなと思っていたんです。でも、なかなかアイデアが浮かばなくて…… どうしたらいいんだろうって思い悩む日々がしばらく続きました。

そんなあるとき、机の上に鉛筆を出しながら考え込んでいたら、鉛筆立ての中から、ちっちゃな鉛筆が出てきたんです。2センチもあるかないかの、本当にちっちゃな鉛筆でした。これほど削られるまでには、いろんなことがあったんだろうね、よくがんばったね、なんて考えていたら、ふと鉛筆たちがお相撲をしている1シーンが思い浮んだんです。

もし鉛筆たちのお相撲が毎晩行われているとしたら、きっと経験豊富なこの鉛筆が一番強いはず、短いと安定感もあるし…… そんな想像が自然と湧いてきて、なんだか楽しくなってきて。その様子を一枚の絵にして展覧会に出したら、それを見た編集者さんが「お話にしたら?」と言ってくださったんですね。それでそこから話をふくらませて、一冊の絵本にしました。それが『えんぴつのおすもう』です。

たいていは、日常の中でふと浮かんだことを絵本にしていますね。でも、毎日の暮らしの中で「これは絵本になるかな?」みたいなことを常に考えているかというと、そんなことはないんです。いつも考えていると、ろくなことがないというか……(笑) 考えてない方が、ふと浮かぶような気がします。

絵本作家になってもう10年近く経つんですけど、絵本づくりは今も毎回手探り。でもだからこそ、ちゃんと探ろうと思うんです。しっかりと探りながら、一冊一冊丁寧につくっていきたいなと思っています。


……かとうまふみさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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