絵本作家インタビュー

vol.79 絵本作家 なばたとしたかさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『こびとづかん』で人気の絵本作家・なばたとしたかさんです。独特の“コビト”ワールドで、子どもから大人まで幅広い層を魅了するなばたさんに、少年時代の思い出からコビト誕生の経緯、コビトにかける思いまで、じっくりと伺いました。コビトの魅力満載のインタビュー、キーワードは「想像力」です!
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・なばた としたかさん

なばた としたか

1977年、石川県生まれ。イラストレーター、絵本作家。主な作品に『こびとづかん』『みんなこびと』『こびと大百科』『いーとんの大冒険』(いずれも長崎出版)などがある。独特のコビトの世界は、子どもから大人まで幅広い層に反響を呼び、グッズやDVDにもなって人気を集めている。
こびとづかんホームページ http://kobito-dukan.com/

『こびと大百科』『こびと観察入門(1)』制作秘話

こびと大百科 こびと観察入門(1)

『こびと大百科 ~びっくり観察フィールドガイド~』『こびと観察入門(1)~捕まえ方から飼い方まで~』(いずれも長崎出版)。コビトの観察方法、生態、捕獲の仕方などが細かく解説されています

UFOの本とか探検隊のテレビ番組とか、ああいういかがわしい感じのするものって、僕の小さい頃にはいっぱいあって、僕はそういうのに夢中になっていたんです。あやしい魅力がいっぱいで、想像力をかき立てられたんでしょうね。

コビトの世界も、今の子どもたちにとってのそういう存在になればいいなと思って。『こびとづかん』の「づ」も、デザイン的な座りの良さというのもあるんですけど、1つ字が違うだけで、なんだかいかがわしい雰囲気も出せるってことで、あえて「づ」にしているんです。おちょくってるって、ときどき怒られるんですけどね(笑)

『こびと大百科』や『こびと観察入門〈1〉』は、図鑑が大好きだった僕にとって、もともとやりたかった形の本。だから、制作にも自然と熱が入りました。

公園で生肉をつるして、その下に紙粘土でつくったコビトを置いて撮影したり、波にさらわれるかもしれないような海辺の岩場で撮影したり…… 一人でやってたんで、すごくあやしい人だったはず(笑) でも、そのぐらいしないと熱って伝わらないんじゃないかと思って。撮影場所は石川県。僕が生まれ育ったところです。もともと『こびとづかん』に出てくる風景も故郷の自然を思い出して描いたので、地元で撮影するのが一番イメージに合ったんですよね。

粘土での立体制作、撮影、写真の合成など、全部自分でやったので相当時間がかかったんですけど、サイン会などで、子どもたちがぼろぼろになった『こびと大百科』を持ってきてくれたりすると、すごくうれしくて泣けてきます。僕自身も、図鑑をぼろぼろになるまで夢中になって見ていたので、自分もそういう本がつくれたんだなぁと思うと、感慨深いですね。

全国から寄せられる、子どもたちからの便り

みんなこびと

▲全国から寄せられたコビトの目撃情報や質問に博士が答えてくれる『みんなこびと』(長崎出版)

全国の子どもたちから、コビトについてのお便りをたくさんいただくんですけど、これがすごく興味深くて。「こんなの見ましたけど、これはコビトですか?」とか「今度一緒にコビトを捕まえに行ってもらえませんか?」とか、「コビトって本当にいるんですか?」とか…… 空想と現実の間をゆらゆらと動いているような感じなんですよね。幼稚園児もいれば小学校高学年の子もいるんですけど、みんなそれぞれにおもしろがってくれているようで、うれしいです。

幼稚園からもらうお便りの中には、お遊戯会や運動会でコビトを使わせてもらいました、みたいなものもあって。写真を添えて送ってくれるんですけど、すごくかわいいんです。小学校からのお便りでは、学校の授業でコビトを考えてみましたといって、クラス全員分のコビトの絵を送ってきてくれたり…… みんな自由に楽しんでくれているっていうのが、すごくいいですよね。

ただ、ひとつみんなに言っておきたいのは、コビトは魔法とかは使えないんだよってこと。「こんなコビトを考えました」というお便りを見ると、特徴として「こんな魔法が使える」なんて書いてあったりもするんですけど、コビトは超常的な力とかは持っていないんです。昆虫や動物、人間と同じように、ただそこに存在している生き物なんだよってところは、わかってもらえたらいいなぁと思っています。

想像力さえあれば、無限に楽しめる

絵本作家・なばたとしたかさん

僕がつくったコビトの世界には、余白がまだまだあります。だから、いろいろ想像して楽しむことができるんです。

サイン会やイベントでは、子どもたちからいろいろと質問されます。「コビトってトイレするんですか?」とか「何歳まで生きるんですか?」とか、僕のことを“こびと博士”だと思って、何でも聞いてくるんです。こっちはもう、あたふたしちゃって…… たいていは「研究中です!」って答えてるんですけどね(笑)

そういう想像力って、すごく大切だと思うんです。実際に見つけることができなくても、どこかにコビトがいるんじゃないかと思うことで、普段気にかけていなかったことを気にかけられるようになる。そうすると、いつもの風景がまた違ったものに見えてくる。何気ない日常が楽しくなってくる ―― 想像力さえあれば、何もなくても無限に楽しめちゃうんですよね。

コビトはいわば、想像力の窓口。コビトをきっかけに、昆虫博士とか植物博士みたいになる子もいるかもしれませんよね。そんな風に何かのきっかけになることができたらいいなって思っています。

今後も、コビトはライフワークとして続けていくつもりです。一過性のブームでは終わらせたくないし、終わらせたらかわいそうですからね。もっとコビトの居場所をつくってあげたいなと思っています。

今はそれ以外でも、新しい作品に取りかかっているところです。キャラクターはすでにいろいろできているんですけど、まだ物語が浮かんでいなくて、勝手に動き出すのを待ってる状態。ストーリーづくりはやっぱり難しいですね。

僕はもともと、絵本作家になりたかったわけではないんです。自分の中に浮かんでくるおもしろいものを発表したくて、それに適した媒体が絵本だったというだけ。だからこれからも、絵本という枠にとらわれずに、いろんなことをやっていきたいですね。


ページトップへ