絵本作家インタビュー

vol.76 絵本作家 大島妙子さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『わらっちゃった』や『ジローとぼく』などの作品でおなじみの絵本作家・大島妙子さんです。家から足がにょきっと生えてしまう奇想天外なお話『たなかさんちのおひっこし』をはじめ、温かくてユニークな絵本の数々を生み出されてきた大島さん。あっと驚くようなお話は、どのようにして生まれてきたのでしょうか?
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・大島妙子さん

大島 妙子(おおしま たえこ)

1959年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、1993年『たなかさんちのおひっこし』(あかね書房)で絵本作家デビュー。主な作品に『ジローとぼく』(借成社)、「猫吉一家物語」シリーズ(金の星社)、『わらっちゃった』(小学館)、『おかあさん おかあさん おかあさん…』(佼成出版社)、『最後のおさんぽ』(講談社)、『ブチョロビッチョロはどこ?』(学研)、『孝行手首』(理論社)、『歯がぬけた』(文・中川ひろたか、PHP研究所)、『こわくないこわくない』(文・内田麟太郎、童心社)などがある。

出版社勤務を経て、絵本作家に

たなかさんちのおひっこし

▲たなかさんのおうちに大きな足がはえて歩き出した! 大島妙子さんのデビュー作『たなかさんちのおひっこし』(あかね書房)

結婚を機に仕事を辞めてから、自宅で仕事ができたらいいなと思って、建物の完成予想図を描く仕事を始めてみたんですね。自宅で高収入っていうのを見て(笑) プロの方のところに弟子入りして働くようになったんですけど、きっちりと描くことを求められるので、どうも性に合わなくて。才能ないなぁなんて挫折しかかってたときに、近所で絵本講座を見つけたんです。なんとなく興味を覚えて通い始めたら、すごく楽しくて。絵本を見るようになったのは、それからですね。

そんなとき、たまたま児童書の出版社の募集があったんです。だめもとで応募してみたら、受かっちゃって。そこで、幼児向けの雑誌の企画や短いお話を考える仕事をするようになりました。学校に行っているような感じで、いろんなことを学ばせてもらいましたね。

当時は、お話は自分でつくって、絵はどなたか絵描きさんに依頼して描いていただいてたんですけど、2回ほど「描いてみれば?」と言ってもらったことがあったんです。自宅で描いてきていいと言われたのでそうしたら、その自宅勤務がすごくよくて……こんな風に絵を描いて暮らせたらいいなぁと思うようになりました。

結局1年半ほどで退社したんですけど、その後もその出版社からの依頼でイラストを描いたり、短いお話を考えて、採用になったら絵を描かせてもらったりといった形で仕事していました。

あとさき塾という絵本塾にも通いました。ただ、それまで短いお話ばかり考えてきたので、絵本1冊分のお話を考えるのはとても難しくて……もういいやとあきらめたこともあったんです。でも、親しい人からの励ましや編集者さんのアドバイスなどもあって、やっぱりがんばろうと考え直して。1年ぐらいかかって、なんとか『たなかさんちのおひっこし』でデビューすることができました。

身近なところからアイデアがわく

絵本のアイデアは、身近なところからわいてくることが多いみたいですね。

犬や猫の登場する絵本が多いのも、子どもの頃から身近に犬や猫がいたから。『ブチョロビッチョロはどこ?』は、“ブチョロビッチョロ”という名前の猫と、飼い主のチコちゃんのお話なんですが、実際私も子どもの頃、“ブチョロビッチョロスタムイコフ”という名前の猫を飼ってたんですよ。姉と一緒にふざけてつけた名前なんですけどね。当時飼っていたもう1匹の猫は、“コケジアドルフ”って名前でした。大人になってからだったら、逆にこういう名前はなかなか出てこなかったでしょうね(笑)

ブチョロビッチョロはどこ? ジローとぼく
最後のおさんぽ いがぐり星人グリたろう

▲大島妙子さん作の、犬や猫が登場する絵本『ブチョロビッチョロはどこ?』(学研)、『ジローとぼく』(偕成社)、『最後のおさんぽ』(講談社)。『いがぐり星人グリたろう』(あかね書房)は、ご主人の落書きからヒントを得てできあがった絵本とか。

犬のジローと主人公の“ぼく”が中身が入れ替わってしまう『ジローとぼく』は、夫の子どもの頃の写真がヒントになってつくった絵本です。夫が子どもの頃に飼っていた犬の名前が“ジロー”で、ちょっと凶暴な顔をしてたんですよ。そのジローと、子どもの頃のパジャマ姿の夫が写った白黒の写真があって、それがすごくいい写真で……見たとたん、なんだか胸のあたりがざわざわしたんです。あ、お話できそう!って。それでこんな、ちょっと懐かしい雰囲気の漂う絵本ができあがりました。

特に思い入れの強い絵本は、『最後のおさんぽ』。これは私にとって、すごく大切な絵本なんです。愛犬が死んでしまって、天国までの最後のお散歩に私が付き添うというお話なのですが、これも実際に私の家で飼っていた犬の死をきっかけに描いたもので……その犬を飼っていたことの証が本という形で残って、ものすごくうれしかったですね。

ふくらんだ妄想を削ぎ落として絵本に

数年前、母が心臓を患って手術したことがあったんですね。もう快復して今は元気なんですけど、当時は本当に具合が悪くなってしまって……母のことが心配で、はらはらする日々が続いたんです。

そんな経験から、子どもがお母さんを心配するっていう角度から考えたらどうかなと思ってできたのが『おかあさん おかあさん おかあさん…』です。お母さんを心配するのだから、子どもはしっかり者かな? お母さんはちょっとずぼらでそそっかしい感じかな?……という風に、登場人物のキャラクターができあがっていきました。

お母さんを心配するあまり次々と妄想がふくらんでいくシーンは、ある古典落語からヒントを得たんですよ。現実にはそんなことは全然起こってないのに、頭の中の妄想だけがどんどんふくらんで暴走しちゃうような展開がおもしろいなと思って。母を心配する気持ちと、妄想の暴走をかけあわせてできあがった絵本です。

おかあさん おかあさん おかあさん…
わらっちゃった
七福おばけ団

▲止まらない妄想から生まれた、大島妙子さんの絵本の数々。『おかあさん おかあさん おかあさん…』(佼成出版社)、『わらっちゃった』(小学館)、『七福おばけ団』(童心社)

私自身、いつも妄想がどんどんふくらんでしまうんですよね。もっとシンプルなお話をつくってみたいという気持ちもあるんですけど、考え始めると頭の中がすごいことになっちゃうんです(笑) それをなんとか削ぎ落として、一冊の絵本にまとめていくのが、楽しいんですけど、ものすごく大変な作業ですね。

どうにもまとまらなくて、わけがわからなくなってしまったときは、しばらく寝かせておくこともあります。ちょっと時間を置いてからまた引っぱり出してくると、案外すっとまとまったりすることもあるんです。

7人のみなしごおばけたちが活躍する『七福おばけ団』は、実はもともと『わらっちゃった』のときに考えていたお話の1つなんですよ。『わらっちゃった』でおばけのお話を考えていたら、暴走して2つ3つ浮かんでしまって。結局おばけ寄席のお話にしたんですけど、そこで使わなかったものをしばらく寝かせておいたんですね。それを引っぱり出してできたのが、『七福おばけ団』なんです。


……大島妙子さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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