絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『たのしいたてもの』などの作品でおなじみの絵本作家・青山邦彦さんです。建物をテーマにした絵本を多く手がけているのは、前職が建築家だから。緻密に描き込むことで絵本の中の世界をつくりあげていく青山さんに、人気絵本の制作エピソードや絵本作家になられた経緯、お子さんへの読み聞かせなどについて伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1965年、東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修士課程修了。建築設計事務所勤務を経て、1995年に独立し、絵本作家となる。2002年ボローニャ国際絵本原画展ノンフィクション部門入選。主な作品に『ドワーフじいさんのいえづくり』『いたずらゴブリンのしろ』(フレーベル館)、『おおきなやかたのものがたり』(PHP研究所)、『むしのおんがくがっこう』『クモおばさんのおうちやさん』(あかね書房)、『たのしいたてもの』『てんぐのきのかくれが』(教育画劇)などがある。
もともと漫画が好きで、小学1年の頃から漫画家を目指していました。憧れは手塚治虫。中学、高校時代もずっと漫画を描いていて、新聞や雑誌に投稿した作品が何度か掲載されたこともあったんですよ。
高校3年の頃には、イラストレーターとしてアメリカで活躍する長岡秀星さんの特集をテレビで見て、精密なタッチで描かれた宇宙や未来都市のイラストに衝撃を受けました。受験勉強の合間に、中学校で使っていた絵の具を取り出して、真似事で描いてみたりしていましたね。
ただその先の進路として、美大は考えていませんでした。漫画やSFイラストは芸術とは違うように感じていたので、美大にはちょっと違和感があったんです。数学が得意だったので、理系で絵も描けるところはどこかなと考えて、建築学科を選びました。
大学では、実際に絵を描く機会がたくさんありました。先輩の課題制作の手伝いで、平面図から実際の建築物の外観を立体的に描きおこす“パース画”をたくさん描くようになったんです。パース画は、1点を起点に放射状に線を延ばして描いていくんですが、その方法そのものがとても新鮮だったんですよね。気づいたらパース画にのめり込んでしまって、肝心の設計の方はいまひとつだったりして(苦笑)
緻密なパース画を描くのが得意なだけで、建築には向いてないのか?とも思ったこともあったんです。でも、一度離れた漫画の道に戻る気にはなれなかったし、図面から形のあるものをつくりあげていく建築は好きだったので、そのまま大学院に進んで、その後、建築事務所に就職しました。
▲リゾートホテルの建築現場で毎日描き続けたスケッチ
建築事務所に就職して3年目、九州のリゾートホテルの設計・施工の仕事を任されて、1年ほど現地に赴任することになったんです。そこで毎日続けていたのが、現場のスケッチ。事務所の所長に勧められて始めました。
所長は10日ぐらいで終わるだろうと思ってたらしいんですけど、結局1年間、雨の日も欠かさず描き続けたんですよ。完成したものは製本して、今も本という形になって手もとに残っています。
同じ頃、腕試しと思って応募した建築雑誌のコンペで入選したんです。絵本のようなテイストの絵を出したんですけど、ほかの入賞作品はなんだかもっとシステマティックで、自分のだけ浮いてたんですね。そうか、自分のやりたいのは建築ではないんだと気づいて、4年間勤めた事務所を辞めました。30歳になる年の元旦のことです。
その後、知人の勧めで絵本コンペに応募しました。『ピエロのまち』という、鳥瞰的な視点でピエロたちが住む町を描いた、文字のない絵本です。安野光雅さんの「旅の絵本」シリーズが好きなので、その影響も大きいですね。
結果は佳作。入賞はしたけれど、出版はされない。なんとか出版にこぎつけねばと思って、次に描いたのが『こびとのまち』。建築現場にいた頃なんとなく思いついたストーリーをもとにして、勤めていた建築事務所を舞台に描いた絵本です。これがデビュー作となって、絵本作家として活動していくようになりました。
私の場合、最初から絵本作家を目指していたわけではなかったんです。自分の描きたい世界がまずあって、それに適した媒体はどれだろうと探っていった結果、たどりついたのが絵本だった―― そんな感じですね。私にとって絵本は、自分の考えたストーリーを発表できる、一番いい媒体なんです。
▲建物ができあがっていく過程が楽しめる『たのしいたてもの』と『てんぐのきのかくれが』(いずれも教育画劇)
デビュー後4、5作目くらいからは、出版社からの依頼を受けて絵本を描くようになりました。前職の関係で、やはり建物がらみの絵本を依頼されることが多いですね。
『たのしいたてもの』は、以前から建物の絵本をつくりたかったという編集者さんからの依頼でつくった絵本です。あまり複雑にはせずに、単につくるだけのストーリーを、ということだったんですが、大工さんが家を建てるような話はほかにもあるんですよね。どうせつくるなら、ちょっと違う角度でやってみたらどうかと思ったんです。
それで、建設途中でほったらかしになった建物を舞台に、花屋さんやお菓子職人、時計職人、ピエロなど、いろいろな人が集まって、それぞれ思い思いの部屋をつくるというストーリーにしました。同じ殻でも住む人によってこんなに違うものになるんだっていうのが、おもしろいかなと。
『てんぐのきのかくれが』も、同じ編集者さんとつくりました。たくさんの妖怪とツリーハウスを描いた絵本です。
建築の仕事と絵本の仕事は、全然違うことのようで、共通することもいろいろあるんですよ。まず、一緒につくるということ。建築の仕事では、いろんな人と一緒に建物をつくりあげていくわけですが、絵本の場合は編集者がいますよね。
編集者は子どもの本のプロフェッショナルで、こちらは絵を描くプロフェッショナル。編集者にも「こういう絵本がつくりたい」という企画があるし、こちらも描きたいことがあるので、お互いの意見をすりあわせながら、ひとつの絵本をつくりあげていくんです。だから、一人でつくっているという意識はあまりないですね。
……青山邦彦さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)