絵本作家インタビュー

vol.72 絵本作家 青山邦彦さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『たのしいたてもの』などの作品でおなじみの絵本作家・青山邦彦さんです。建物をテーマにした絵本を多く手がけているのは、前職が建築家だから。緻密に描き込むことで絵本の中の世界をつくりあげていく青山さんに、人気絵本の制作エピソードや絵本作家になられた経緯、お子さんへの読み聞かせなどについて伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・たしろちさとさん

青山 邦彦(あおやま くにひこ)

1965年、東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修士課程修了。建築設計事務所勤務を経て、1995年に独立し、絵本作家となる。2002年ボローニャ国際絵本原画展ノンフィクション部門入選。主な作品に『ドワーフじいさんのいえづくり』『いたずらゴブリンのしろ』(フレーベル館)、『おおきなやかたのものがたり』(PHP研究所)、『むしのおんがくがっこう』『クモおばさんのおうちやさん』(あかね書房)、『たのしいたてもの』『てんぐのきのかくれが』(教育画劇)などがある。

絵本の中の世界を存分に堪能してほしい

むしのおんがくがっこう

▲音楽学校に憧れるテントウムシが主役の『むしのおんがくがっこう』(あかね書房)

『むしのおんがくがっこう』は、学校を舞台にした絵本を、という依頼を受けてつくりました。こんな風に編集者から依頼を受けて描くのは、大学時代に取り組んだ課題と通じるものがあるんですよ。大学でも、光を表現せよ、とか、自分のパンフレットをつくりなさい、とか、絵を描くような課題が結構あったんですね。だからこのときも、課題を与えられたときのようなノリでつくりました。

まず、学校といっても、普通の学校ではおもしろくないなと思ったんですね。それで、通っているのは誰なのかというところから考えたら、虫というのが浮かんできて。生徒が虫なら、鳴く虫もいるから、音楽学校がおもしろそう。でも、主人公は音楽ができるのかどうか……? そんな感じで考えていったら、生まれつき音楽ができない虫が、音楽学校に入りたがるというストーリーを思いついたんです。ストーリーを形にするまでは、わりと時間がかかりましたね。

主人公のテントウムシをはじめ、クツワムシ、スズムシ、バッタ、コオロギなど、たくさんの虫を描きましたが、これが結構難しくて。もともとそれほど虫に興味があるわけでもなかったので、資料を集めてそれを参考に描くんですが、資料を探すのが大変だったんですよ。虫が立って話すシーンではおなか側を描かないといけないんですが、たいていの図鑑は背中側の写真ばかり。おなか側の資料がなかなか見つからなくて、苦労しました。

わりとリアルに描いているので、虫が苦手な方には気持ち悪がられちゃったりもするんですけど、虫たちの大合奏のシーンなど、かなり細かく描き込んでいるので、じっくり見て楽しんでもらえたらうれしいですね。

絵本をつくっていて思うのは、とにかく読む人に楽しんでほしいということ。それだけです。絵本の中に広がる世界を、存分に堪能していただきたい。だから、舞台設定としての世界は、どうしても描き込んでしまうんです。私にとっては、それが読者への愛情表現なんですよ(笑)

まるで声優!? わが子への読み聞かせ

保育園で『むしのおんがくがっこう』を読み聞かせする青山さん

▲娘さんの通っていた保育園で、楽器の生演奏つきで『むしのおんがくがっこう』を読み聞かせしたことも

子どもが生まれてから、毎日寝る前に絵本の読み聞かせをするようになりました。子ども向けのテレビ番組で、タレントさんが絵本の読み聞かせをするのを見て、うまいなぁって刺激を受けたんですよね。『きかんしゃトーマス』を森本レオさんを真似て読んでみたりもしてました。

子どもは今、小学6年生と2年生なので、もう11年ぐらい読み聞かせを続けています。小さい頃は絵本を読んでいたんですが、成長するにつれて、だんだん複雑な物語になってきましたね。「怪人二十面相」や「ハリー・ポッター」のシリーズは結構読みました。

文章が多いと読むのが大変だと思う方も多いかもしれませんが、それだけ読み甲斐もあって、勉強になるんですよ。この人物はこの状況だとこういう心情だろう、だからこんな話し方になるぞ、みたいな感じで、物語の登場人物になりきって、感情を込めて読んでます。11年も続けてきたから、わりとうまくなったんじゃないかな。下手すりゃ声優できるんじゃないかっていうくらい(笑)

一字一句間違えないように、まじめに読む方もいますけど、もっと自由に、好きなように読むといいと思うんですよ。より感じが出るのであれば、文章を足したり変えたりしたっていい。読み手だってその方が楽しいはずですから。

親になってから絵本を読むのは、子どもの頃に読んでいたときの繰り返しとはちょっと違うんですよね。それがまた楽しいんです。親として読む絵本の楽しさを感じながら、子どもとの絵本の時間を過ごしてほしいですね。

飽きずに続けられることを見つけよう

絵本作家・青山邦彦さん

子どもって結構飽きっぽいんですよね。どんなにやりたかったこと、おもしろがってたことでも、数日で飽きてしまったりする。飽きるってことはつまり、やる気がないということ。やる気がないことは、無理矢理やらせてもだめです。そういうのを何年やらせたって、上達しないと思うんです。

だから、飽きない何かを見つけて続けるってことは、大事ですよね。私の場合はそれが絵を描くことだったんです。小学生の頃、漫画を描いていたら、それを見たまわりのみんなが「俺も描こう」「一緒に描こうぜ」なんて盛り上がって描き始めるんですけど、たいてい最後まで描くのは私だけ。みんなは描きあげるまでに飽きて、外に遊びに行っちゃうんですよ。才能っていうのは、飽きるか飽きないかで決まるようなところもあるのかなって思いますね。

今後も、描きたい絵本のアイデアはいろいろあります。建物がらみの絵本がやっぱり多いんですが、クリスマス戦線に介入してみようかな、なんてことも考えてるんですよ。クリスマスの絵本っていろいろありますけど、自分ならこういうのを描くよなっていうアイデアがあって。去年のうちに描くつもりが、全然描けなかったんですけどね(苦笑) ゆくゆくは、もう少し低年齢向けの、絵本としての機能を究極的に考えた遊びの要素の強い絵本にも、チャレンジしてみたいですね。


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