絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『すっぽんぽんのすけ』『ふってきました』などでおなじみの絵本作家・もとしたいづみさんです。2人の女の子のお母さんでもあるもとしたさんに、絵本作家になられるまでのさまざまな経験や、仕事と子育てで苦悩した日々のこと、人気絵本の制作エピソードなど、たっぷりと伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1960年生まれ。絵本作家・翻訳家。2005年『どうぶつゆうびん』(絵・あべ弘士、講談社)で、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、2008年『ふってきました』(絵・石井聖岳、講談社)で、日本絵本賞、講談社出版文化賞絵本賞を受賞。そのほか、主な絵本に「すっぽんぽんのすけ」シリーズ(鈴木出版)、『めかくしおに』(ほるぷ出版、絵・たんじあきこ)、幼年童話に「おばけのバケロン」シリーズ(ポプラ社)などがある。
ブログ「もとしたいづみのだからどうした」 http://ameblo.jp/kenkoukotu/
もともと出版関係の仕事に興味があったので、学生時代には「本の雑誌」という雑誌社にボランティアのような感じで出入りしていたんです。校正作業や配本を手伝ったりして、そこで出版にまつわる経験をさせてもらいました。
子どもの本のおもしろさを実感したのは、大学の児童文学の授業がきっかけです。『クマのプーさん』や『メアリー・ポピンズ』、宮沢賢治の作品など、改めて読んでみたらすごくおもしろくて。
でも、大学卒業後は本の仕事ではなく、サンリオで商品の企画・営業などの仕事をしていました。そこで、あるキャラクターの背景となるストーリーを考える仕事を任されたことがあったんですね。やってみたら、わりとするすると書けてしまって。今思えば、それが私にとって一番最初に書いたお話かもしれません。
その後は、月刊「MOE」の編集部で働いたり、フリーランスで編集やライターの仕事をしたりしていたんですが、あるとき、私の文章を読んだことのある方が、絵本の翻訳をしてみないかと声をかけてくれたんです。
▲もとしたさんがずっと翻訳に携わっている、ポリー・ダンバーさんの絵本『あそぼ! ティリー』、『しあわせヘクター』、『かくれんぼタンプティ』、『おしゃれなプルー』(いずれもフレーベル館)
初めて翻訳した絵本は、『おれは長ぐつをはいた猫である』(架空社)。実は私、英語が全然だめなんですけど、「下訳(※大まかな訳のこと)があるから大丈夫」と言われて。それで、下訳と英文を見ながら真面目にやったら、そういうのは求めてない、むしろ原文をいったん忘れていいから、絵を見てお話を考えてごらんって言われたんです。
それで、一人称でなかったのを一人称にしてみたり、原文にはない文章を入れてみたりと、自分なりの翻訳をしました。何年か後に、翻訳家の方たちにその話をしたら、「ありえない!」「原文を尊重すべきだ!」と総攻撃されましたけど(笑)
児童書の世界では、翻訳というのは、創作絵本を出す前の名刺代わりみたいなところがあるんですよ。文章だけの作家の場合は特にそうだと思います。その後は翻訳もしつつ、創作の仕事もするようになりました。
子どもが生まれてからは、専業主婦として子育てに専念していたときもあったんです。フリーで仕事をしていた頃に子どもができたんですが、当時は妊娠したことを告げると「じゃ、ご苦労様でした」っていうところが多くて。子どもがいたら仕事はできないのかと、愕然としましたね。
子育ては本当に大変で、育児ノイローゼにもなりました。家で悶々としているとよくないからと、子どもをベビーカーに乗せて外出したりもしたんです。でも、あるときバス停で、ベビーカーを持ち込むためにまず荷物をまとめようと手間取っていたら、バスに行かれてしまったことがあって……そのときはなんだかとても悲しくなって、泣きながら家に帰りました。
先輩編集者からは、「社会とつながりを持っておいた方が復帰しやすいよ」とアドバイスされたんですが、仕事復帰を決断するまでは、かなり悩みましたね。子どもとの時間を大切にしておかないと後悔するんじゃないか、でも今後も子育てだけに没頭できるのか―― そんな風にいろいろ考えてしまって。
子どもが3歳の頃、初めて託児サービスに預けてみたんですけど、そのときのことは今でもよく覚えています。子どもは突然知らない集団の中に置いていかれて、呆然と立ちつくしてて……。その間、私は講演会を聴きに行っていたんですが、子どものことが気になって気になって、もう講演どころじゃありませんでした。
でもそのとき、これじゃいけないなと思ったんです。たとえ離れている時間があったとしても、しっかりとした絆で結ばれている、そんな親子関係を築かなければ、と。その後、子どもを保育園に預けるようになって、仕事を再開させました。
こんな風にいろいろと思い悩んだ時期があったので、子育てをしている人たちを応援したいという気持ちは、人一倍強いですね。あの24時間態勢の緊張感あふれる労働は、今思い返しても本当に大変でした。でも、そんな日々はずっとは続きません。だからお母さんたち、がんばってくださいね。
子どもって、大人から注意されることが多いでしょう? ああしなさい、こうしなさいっていつも大人から言われて、結構窮屈だろうなって、自分の子どもを見ていて思ったことがあったんです。だから、せめて絵本の中だけでも、のびのびと楽しく、開放感を味わってほしい。そんな思いから生まれたのが『すっぽんぽんのすけ』です。
裸で駈けまわる男の子というのは、別に誰をイメージしたわけでもないんです。うちの子は2人とも女の子ですしね。前に知り合いの編集者から指摘されて気づいたんですけど、自分の中のどこかに元気な男の子―― べらんめえ調で、どこか時代劇がかった男の子がいるみたいなんですよ。それで、絵本をつくろうとすると、その子が出てくるんじゃないかなと。誰かに語らせるようなお話をつくると、自然と一人称が「ぼくは」「おれは」という感じになるのも、そのせいなのかなと思っています。
▲裸で駆けまわる、正義の味方の痛快アクション絵本『すっぽんぽんのすけ』、『すっぽんぽんのすけ せんとうへいくのまき』、『すっぽんぽんのすけ デパートへいくのまき』(鈴木出版)。のびのびと描かれた荒井良二さんの絵も魅力的です
勧善懲悪のストーリーというのは、昔の無声映画の影響もありますね。以前、活動弁士の勉強をしていたので、無声映画をたくさん見ました。無声映画って老若男女だれでも楽しめるように、すごくわかりやすく丁寧につくられているんですよ。城に向かう悪者を、正義の味方がありえないスピードでぴゅーっと追い抜かしていく……みたいな、ちょっとツッコミを入れたくなるようなシーンもたくさんあるんですけど、見ててすごく気持ちいいんです。みんなでアハハと笑って、楽しみを共有できる。『すっぽんぽんのすけ』もそんな風に楽しんでもらえたらいいですね。
保育園の先生からは、『すっぽんぽんのすけ』を読み聞かせすると子どもたちが全然服を着てくれなくて困るって、よく言われるんですけどね(苦笑)
……もとしたいづみさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)