絵本作家インタビュー

vol.67 絵本作家 かさいまりさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ぼくとクッキー さよならまたね』や『あえたらいいな』など、やわらかであたたかいタッチの絵でおなじみの絵本作家・かさいまりさんです。楽しい、うれしい、さみしい、悲しい……といった“心の揺れ”を描くお話をたくさん生み出されているかさいさんに、絵本づくりや子育てについて、たっぷりと伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・かさいまりさん

かさい まり

北海道生まれ。小樽女子短期大学英文科、北海道芸術デザイン専門学校卒業。広告代理店勤務を経て、第3回サンリオ絵本グランプリ優秀賞受賞を機に、絵本作家に。主な作品に『ぼくとクッキー さよならまたね』(ひさかたチャイルド)、『なまえはなあに?』(アリス館)、『いつもいっしょ』(くもん出版)、『こぐまのクーク物語』(角川書店)、『ばあちゃんのおなか』(絵・よしながこうたく、教育画劇)などがある。
かさいまり公式ホームページ http://kasaimari.com/

子どもの喜びを表現『うれしくてうれしくて』

以前、『ぼくとクッキー さよならまたね』のくまが毛布とたわむれている様子の絵を使ったポストカードがあったのね。それを見た編集者と、こういう子が出てきてちょっと動くような絵本をつくろうかってことになって。それで、いろんな子がお気に入りのものを抱えて幸せそうな表情をしている『いつもいっしょ』ができたんです。

続編の『うれしくてうれしくて』は、うれしくてじっとしていられない子どもの様子を描いたの。『いつもいっしょ』が“静”だから、こちらは“動”にしたいなと思って。

いつもいっしょ
うれしくてうれしくて

▲動物さんたちのかわいい“ねんね”の絵本『いつもいっしょ』と、うれしい気持ちを体であらわすかわいい動物さんたちの絵本『うれしくてうれしくて』(いずれもくもん出版)

この2冊に出てくるピンクの生き物は、“ぴんちゃん”っていうんです。どうして生まれたのか、自分でもよく覚えていないんだけれど……『いつもいっしょ』のラフの段階から描いてたのよ。ぴんちゃんは、くまさんやうさぎさんたちには見えない、別次元のところにいるのね。だから最初は白い背景のところにいて、見えないところから動物たちの動きを見ているんだけど、自分も最後には一緒に同じことしたくなって、色のある世界に入っていくの。

ぴんちゃんの存在なしでも絵本としては成り立っているから、ぴんちゃんのことを気にせずに楽しむこともできるんだけど、ユーモアのわかる人は「わぁ、かわいい!」って言ってくれるみたい。

遊び心で描いた生き物だから、『いつもいっしょ』では何も触れなかったんだけど、やっぱり名前ぐらいは記した方がいいねってことで、『うれしくてうれしくて』の最後で“ぴんちゃん”っていう名前を紹介しました。でも、どういう生き物で、なんでそこにいるのかっていうのは、今も内緒なのよ(笑)

ほかの作家さんと組むことで生まれる、新たな世界

ばあちゃんのおなか

▲かさいまりさん×よしながこうたくさんのタッグで生まれた、パワフルなおばあちゃんの絵本『ばあちゃんのおなか』(教育画劇)

私はほかの作家さんに絵を描いてもらって絵本をつくることもあるんだけど、これってすごくおもしろい。自分でつくるお話って、無意識に自分が描きやすいようにつくってしまうところがあるんだけど、ほかの方に絵を描いてもらうのなら、お話にも幅が出る。だから、私の絵よりほかの作家さんの絵の方がいいって思ったときは、とっととほかの作家さんに描いてもらうことにしてるのよ。

『ばあちゃんのおなか』は、お話をつくっているときにすでに、絵は『給食番長』のよしながこうたくさんしかいないって思ってたんです。彼に描かせたら、すごくいいものができるはずって、ピンときたのね。ただ、『給食番長』はすき間なく描き込みすぎていて、文章が埋もれてしまっている印象があったから、『ばあちゃんのおなか』の絵を頼むときは、「描きすぎないでね」ってお願いしました。私の文章が入るところには、絵を描かないでねって。

だけど、できあがったのを見たら、やっぱり全部描き込んでて……(笑) 文章は短いんだけど、それでも無理やり入れると絵も文章も死んでしまう。それはよくないから、結局下に帯をつけて、絵と文章を分けることにしたんです。でも逆にそれがよかったみたい。絵と文章、どちらも引き立ったから。

でも、基本的に絵を描いてもらうときは、どんな風にしてほしいっていうのは、一切言わないようにしてる。文章だけ渡して、あとはお任せ。こちらがいいと思って頼むのだから、信じて待つだけ。自分の絵は自分で想像できるけど、誰かに描いてもらうと、どんな絵ができるかなってドキドキワクワクするわけ。

作家というよりむしろ、編集者の気持ちになっちゃうのよね。自分の絵本をつくりたいっていう思いより、いい絵本を届けたいっていう思いの方が強いからかな。

子育てには無駄も必要 ゆったりとした気持ちで

絵本作家・かさいまりさん

親が読みたい本と子どもが読みたい本って、違うでしょう? でも、だからこそ、家の中にはいろんな種類の絵本を置いておくべきだと思う。子どもの好みっていうのもあるから、親から見て「この絵本はちょっと…」と思うようなものでも、揃えておくのが大事。親がいいと思う絵本も一緒に並べておけば、手にとることもあると思うんです。

「この絵本にしなさい!」なんて親の意見ばかり押しつけていたら、子どもはどんどん本から遠ざかっちゃう。子どもの思いを汲み取りながら、絵本を選ぶべきよね。

絵本のことだけに限らないけれど、これは無駄かなって思うようなことも、いっぱい与えておくといいって私は思うんです。私は長男が6ヶ月の頃から、ベビーカーで美術館や画廊に連れていってたのね。それを続けていたらそのうち、私がいいなって思う絵と同じ絵を、息子もいいねって言うようになって。自然と見る目が養われたのよね。

お芝居でも映画でも、何でも見せてあげるといいと思う。そのときは「つまんなーい」なんて言うかもしれないけど、いろんなものを見て自分の中の引き出しを増やしておくことで、本当にいいものに出会ったときに気づけるようになるはずだから。忙しい毎日を過ごしていると、その子にとっていいものだけを、最初から効率よく与えようとするじゃない? でも、引き出しが何もない中でいいものと出会っても、わからずに逃してしまうかもしれない。そういう意味では、無駄もまったく無駄じゃないのよね。

それから、子どもをゆっくり見ることも、とっても大切。子どもが自分で自分のことを大事に思えるようになるには、親が愛情をもって、ゆったりとした気持ちで、子どもの心を満たしてあげないと。子どもたちには、いろんなことに悩んだり苦しんだりしても、最後には自分のことを肯定できる子になってほしいなって思います。


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