絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ぼくとクッキー さよならまたね』や『あえたらいいな』など、やわらかであたたかいタッチの絵でおなじみの絵本作家・かさいまりさんです。楽しい、うれしい、さみしい、悲しい……といった“心の揺れ”を描くお話をたくさん生み出されているかさいさんに、絵本づくりや子育てについて、たっぷりと伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
北海道生まれ。小樽女子短期大学英文科、北海道芸術デザイン専門学校卒業。広告代理店勤務を経て、第3回サンリオ絵本グランプリ優秀賞受賞を機に、絵本作家に。主な作品に『ぼくとクッキー さよならまたね』(ひさかたチャイルド)、『なまえはなあに?』(アリス館)、『いつもいっしょ』(くもん出版)、『こぐまのクーク物語』(角川書店)、『ばあちゃんのおなか』(絵・よしながこうたく、教育画劇)などがある。
かさいまり公式ホームページ http://kasaimari.com/
私はもともと、北海道の広告代理店でデザイナーとイラストレーターとして仕事をしてたんです。結婚を機に東京に引っ越してきて、それからしばらくは専業主婦で。それが、子どもが生まれる前だったかな、ある日突然、思ったのよ。絵本作家になりたいなぁって。
絵本の魅力に気づいたのは、25歳の頃。モルディロの『クレイジーカウボーイ』という一冊との出会いで、絵本ってなんてすばらしいんだろうって思って。文字のない絵本なんだけど、色彩が美しくて、ページをめくるたび、次はどんなページが出てくるんだろうってドキドキしたの。そういう絵本との出会いが、絵本作家になりたいという思いにつながったんでしょうね。絵本はいわば、舞台みたいなものでしょう? 脚本、演出、大道具、小道具……そのすべてがある総合芸術。そこがおもしろいなって思ったの。
どうやったら絵本作家になれるんだろうと考えてたときに、たまたま雑誌で絵本グランプリの情報を見つけて、これだ!って思って。そこで優秀賞をとって、雑誌の中の5~6ページの絵本の仕事を1回やったんです。
その頃、自分の手づくり絵本を子どもが幼稚園のときのお母さんたちに見せたら、「わぁ、すごく上手ね」なんて褒めてもらったんだけど、「でもいくら上手でも、私たちに見せてたって何にもならないのよ。出版社に持っていったらどう?」とも言われたの。それはそうだな、やっぱり自分の絵本を出したいな、と思って、初めて作品を出版社に持ち込んだら、すぐ出版が決まって。そんな風にまわりからの後押しもあって、絵本作家になることができたんです。
▲大切な友だちとの別れを描く『ぼくとクッキー さよならまたね』と、新しい土地での出会いを描く『あえたらいいな』(いずれもひさかたチャイルド)
私の場合、人と人との出会いや、誰かと話しているうちに感じたことをもとにして、お話が生まれることが多いかな。『ぼくとクッキー さよならまたね』も、そんな風にして生まれたお話なんです。
あるとき、お母さんと二人暮らしをしている友人から、会社を辞めて海外に行くって知らせをもらったのね。そのとき私が考えたのは、彼女のお母さんの気持ち。彼女がいなくなったら、残されたお母さんはどうなるんだろう? 心にぽっかり穴が開いちゃうんじゃないかなって。
それで、残される人の気持ちに焦点を合わせたお話をつくりたいなって思って、『ぼくとクッキー さよならまたね』ができたんです。
講演会などでこの絵本を読み語りすると、必ず泣く人がいるの。友だちとの別れとか、家族との別れとか、恋人との別れとか……大事に思っている人との別れって誰にでも訪れるものじゃない? だから、心に響くものがあるんでしょうね。
『さよならまたね』の読者から続きを見たいという要望をたくさんいただいて、続編をつくることになったんだけど、最初は残された“ぼく”の方を主人公にした絵本をつくろうと思ってたのね。でも、なかなかできなくて……それならひとまず、旅立った方のお話からつくろうってことになって、続編の『あえたらいいな』が生まれたんです。
今度はいつか、残された“ぼく”の方の続きを描きたいなぁと思ってます。
▲友だちのいない、恥ずかしがりやのねずみのお話『ねずみのふわふわけいと』(教育画劇)
私の絵本のつくり方は、何を描きたいかということよりも、何を伝えたいのかが先に来るんです。たとえば、けんかしちゃったときとか、大事な人と別れちゃったときとか、そういうときって胸がきゅんとなるでしょう? そのつらさや悲しさを伝えたい……そんな思いからお話が生まれるの。
私自身は実は、最後にニヤッとしてしまうような、ブラックユーモア的な絵本が大好きなのね。でも、自分でつくるとなると、どうも苦手で。伝えたいテーマを軸に心情を描くような絵本の方が、私にはいいみたい。
楽しい、うれしい、さみしい、悲しい……といった心の揺れを、自分の中に一度入れ込んで、それが読者にどう伝わるのかというところまで考えながら、お話をつくっていく―― これが、絵本を通じて私にできること。心の揺れは誰にでもある普遍的なものだから、きっと通じるはず。実際、講演会などでたくさんの人の前で読み語りをしていると、絵本の力をすごく感じるの。絵本で元気になったり、癒やされたりする人が、たくさんいるんです。
講演活動や、読み語りのオリジナルCDを制作しているのも、絵本の力をより多くの人に感じてほしいっていう思いがあるから。これからも、つくり手の責任として、行けるところはどこへでも行って、伝えていくつもりです。
……かさいまりさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)