絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『だいじょうぶ だいじょうぶ』でおなじみの絵本作家・いとうひろしさんです。ユーモラスで温かみのある絵本や幼年童話をたくさん生み出されているいとうさんに、人気絵本の制作エピソードや子育てについて思うことなど、たっぷりと伺いました。お話の中には、毎日を楽しむためのヒントがいっぱいつまってますよ!
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら)
1957年、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業。大学在学中より絵本の創作をスタートし、1987年、『みんながおしゃべりはじめるぞ』でデビュー。主な作品に『くもくん』、「ルラルさん」シリーズ(以上、ポプラ社)、『だいじょうぶ だいじょうぶ』(講談社)、『ねこのなまえ』、「あかちゃんのおさんぽ」シリーズ(以上、徳間書店)、『へびくんのおさんぽ』(鈴木出版)、『ゆっくりのんびり』(絵本館)などがある。日本絵本賞読者賞、絵本にっぽん賞、路傍の石幼少文学賞、講談社出版文化賞絵本賞など、受賞多数。
▲いとうひろしさんの人気絵本『だいじょうぶ だいじょうぶ』(講談社)。おじいちゃんの「だいじょうぶ」の言葉に支えられ、ぼくは成長していきます
『だいじょうぶ だいじょうぶ』を読んで「癒やされました」って感想をくれる方、結構いるんです。そういう風に受け止めたいんだなって気持ちは、すごくわかる。でももう一歩踏み込んで考えてみると、『だいじょうぶ だいじょうぶ』の内容って、結構一筋縄ではいかないんですよ。
「大丈夫」ってある意味、すごく無責任な言葉ですよね。何を根拠に「大丈夫」なんて言ってるんだよってなっちゃうから。それでも子どもに「大丈夫」と言う、その裏側にあるのは、大丈夫だと思えるような環境をつくらなきゃいけないってこと、そういう責任を引き受けるだけの覚悟が必要だっていうことなんです。
僕の父親が入院していたときのことなんですけどね、容態の悪くなった父を、お医者さんや看護婦さんたちがすごい勢いで処置をしていたとき、看護婦さんの一人が姉の方をぱっと見て、「大丈夫ですよ、大丈夫ですよ」とにっこり笑って言ったそうなんです。
そういうの、すごく大事なことだと思うんですよ。その場の様子を見ていれば、これ大丈夫じゃないよねってわかるんだけれど、それでも患者の家族に対しては「大丈夫ですよ」ってにっこり笑って言う。親もそうあるべきだと思うんです。どんな状況にあっても、子どもに余計な不安をかけさせない。それだけの覚悟を持って、「大丈夫だよ」って言ってほしいなと。
僕の絵本は全部、一筋縄ではいかないようなつくりにしてるんですね。『だいじょうぶ だいじょうぶ』も、ひとつの方向から見れば、おおらかな、ユーモラスなお話だけど、反対側から見たら、すごく厳しいこと言ってるんだなと読めるはず。表現の単純さは、そのまま内容の単純さってことではないですからね。いろんな角度から読んでみてほしいなと思います。
子どもたちには、与えられた楽しみだけじゃなくて、自分から楽しみを見つけていけるようになってほしいですね。
テーマパークのアトラクションなら、座ってるだけで十分楽しませてもらえるけど、世の中そんなもんじゃないでしょう? でももしも、何にもないところから自分で楽しみを見つけられたら、世界中どこにいたっておもしろくて、退屈なんてできないと思うんですよ。アンテナが細かくなった分、いやなものもいっぱいひっかかってしまうけれど、いいこともいっぱいひっかかるはず。だから子どもたちには、もっともっと楽しみ方のトレーニングを積んでほしいなと思うんです。
そのトレーニングのひとつとして、絵本はとてもいいですよね。絵本は自らかかわって、自分でつくりあげていくもので、その行為自体が絵本の一番の楽しさですから。
音が出たり動いたりする、アトラクション的な絵本もあるけれど、そういう楽しみは絵本じゃなくても得られることが多いんですよ。テレビの方がよっぽどおもしろいですからね。でもそうじゃなくて、自分から絵本の世界に入ってつくりあげていく楽しみを覚えたら、はまっちゃいますよ。それってすごく、幸せなことだと思います。
ただ子どもって、楽しみに対して大人以上に保守的なところがあるんですよね。たとえば、テレビでよく見ているキャラクターの絵本を選んだりするように、手っ取り早く知ってるもので楽しもうとする。新しい何かを楽しむためには、新たなトレーニングが必要なんですよ。そのためにも、親の方でいろんな絵本を選んで、見せてあげるべきだなと思います。
子どもの日常は初めてのことの連続で、そのたびに笑ったり泣いたり、いろんな反応をするでしょう? 親はその様子を見ながら、人生を追体験できるんですよね。
僕は、息子が初めてチョコレートを食べたときの、あの顔が忘れられないんです。「食べてごらん」って言ったときの、すごく嫌そうな顔。そして、こわごわと口に入れたあとの「こんなおいしいものが世の中にあったのか!!」っていうような、うれしそうな顔。そうだよね、これってすごくおいしいんだよねって、見ていてすごく幸せな気分になりました。
子どもとの毎日には、そういうようなすごく小さな喜びが、いくつもあるんです。そしてそれは親にとっても、生きてく中での力というか、大事なものになるんですよね。
仕事が忙しくて、なかなか子どもとかかわれないっていうお父さんもいると思うけど、子どもの小さい頃っていうのは一番おもしろい時期だから、かかわらないのはすごくもったいない。寝顔しか見れなくたってかまわないから、ちゃんと見てあげてほしいですよね。毎日見ていれば、子どもの成長に気づくはずだし、お父さんって、そうやって子どもとかかわっていくことで、本当の「お父さん」になってくんだと思うんですよ。
人の一生が80年間くらいあるとするならば、子どものためにものすごく時間を使う期間って、そのうちの5年とか7年とか、その程度だと思うんです。そういう期間があるってことはすごく幸せなこと。僕自身振り返ってみて、すごくよかったなと思ってますよ。