絵本作家インタビュー

vol.62 絵本作家 tupera tuperaさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『かおノート』『どんなおと?』など、カラフルで楽しい絵本で人気を集めるご夫婦ユニット・tupera tupera(ツペラツペラ)のお二人です。絵本のほかイラスト、立体作品、アニメなど、さまざまな分野で活動しているお二人が、創作活動や子育ての中で大切にしていることとは? 新作の制作エピソードも伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・tupera tuperaさん

tupera tupera(ツペラツペラ)

1976年、三重県生まれの亀山達矢と、1978年、京都府生まれの中川敦子によるユニット。2002年より活動をスタート。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、立体作品、アニメーション、雑貨など、さまざまな分野で活動中。主な作品に『しましまじま』(ブロンズ新社)、『かおノート』(コクヨS&T)、『どんなおと?』(教育画劇)、『やさいさん』『くだものさん』(学研)などがある。
http://tupera-tupera.com

手づくりおもちゃのアイデアが絵本に!『やさいさん』

やさいさん くだものさん

▲野菜や果物の鮮やかな色とユニークな表情、ダイナミックなしかけが楽しいファーストブック『やさいさん』『くだものさん』(いずれも学研)

中川敦子さん(以下、敬称略) 娘が一時期、財布からカードを抜き取る遊びにはまっていて、ちょっと困ってたことがあったんです。その様子を見て、カードを引き抜くってことが楽しいのかなって気づいて。それで、箱の穴に差し込んだ野菜のカードをすぽーんと抜いて遊ぶっていうおもちゃをつくったんです。だいぶ前のことなんですけどね。

亀山達矢さん(以下、敬称略) それとは別に、片側のページが上や下、横に開いたりするしかけ絵本をつくろうって話をいただいて、おっ!と思ったんです。野菜を抜く動きがしかけ絵本にも使えるなって。

おもちゃをつくったときは、野菜だけじゃなくて小判とか地底人とかも抜けるようにつくっていたので、絵本にも地底人とか入れたいなって思ってたんですけど、その衝動は抑えておきました(笑)

中川 もぐらは入れたんですけどね。ページ数も限られているので、あまりにもいろんなものが入ってくると、もはや何の本なのかわからなくなっちゃうので。

亀山 2冊同時に出版しようという話だったので、もうひとつは『くだものさん』にしました。ぽろんと落ちる様子をしかけで表現できるなってことで。

中川 野菜も果物も、葉っぱがついている状態のものを知るって、いいことだと思うんですよ。ファーストブックなので、めちゃめちゃリアルにはしてないですけど、葉っぱの形や質感などは、雰囲気をこわさない程度に本物を意識してつくりました。

顔がないと、普通に美しい絵本なんですけどね。そこにあえて変な顔をつけることで、そのギャップをおもしろがってもらえたらと思っています。

遊び感覚でおもしろい絵本をつくっていきたい

『タコさんトコトコどこいくの?』

▲海からあがったタコさんが、トコトコ向かった先はどこ? 2010年9月に出版予定の新作『タコさんトコトコどこいくの?』(絵本館)

亀山 絵本をつくるときに心がけているのは、その都度、新しいものをつくるってこと。やり方を決めたくないんですよね。毎回ひとつずつ、実験していきたい。だってその方が楽しいでしょ? 大変な思いをしてつくる絵本には、大変さが出てきちゃう。それはそれでいいんですけど、楽しくつくる方が楽だし、僕たちにはそういうつくり方の方が合ってるなと思うんです。

中川 世の中にはいろんな絵本がありますけど、私たちはあまり、メッセージを込めた絵本とか、何かに役立つ絵本っていうのは目指していないんですよ。

『やさいさん』を読むことで野菜が好きになる子もいるかもしれないし、それはそれで結果としてはいいんです。赤ちゃん向けのファーストブックだと、分類する人がいればそれもそれでいい。でも、私たち自身はそこを狙ってつくるのではなく、ただ純粋におもしろがってつくるってことを続けていきたいなと思うんです。

二人で「これおもしろいね」とコミュニケーションをとる中で、絵本やイラスト、立体作品など、いろんな作品ができあがっていく。その遊び感覚は大事にしていきたいですね。

亀山 いたずらしたい、笑わせたいっていうのが僕たちの原動力なんですよ。そのためにも、僕たち自身できる限りストレスのない生活を送って、くだらないことばかりやっていたい。その中から作品をつくって、いろんな人に向けて「おもしろいでしょ?」って投げかけていきたいんです。だから、僕たちは部屋にこもって悶々と考えてアイデアを練る、みたいなつくり方はしてないんです。アイデアは、いろいろと遊んだり、二人で話したりしているうちに、ぽっと出てくる感じです。

中川 あと、色や形の単純な美しさも追求していきたいですね。内容とは関係なく、ぱっと見ただけで心ひかれるものってあると思うので、その辺はすごく意識してつくっています。

絵本も子育ても、ゆるりと楽しもう

絵本作家・tupera tuperaの中川敦子さん

中川 私たちは3年ほど前に結婚して、今2歳の娘がいます。二人とも家で仕事をしているので、制作の途中で洗濯したり、ごはんをつくったり、子育てしたりという毎日です。

亀山 子どもがいると生活のリズムも子どもに合わせることになりますけど、僕にとってはそれが意外とよくて。子どもが生まれてからの方が、仕事の能率があがった気がしてるんです。

子どもが生まれるまでは、夜中の2時3時まで仕事してたりしたんですよ。でも今は、4時半には保育園に迎えに行かなきゃいけないから、それまでにいったん仕事を終わらせて、夕飯をすませて、お風呂に入れて、9時には寝かしつける。そこからまた仕事をするんですけど、次の日も朝7時半には起きなきゃいけなくて、7時間は寝たいから、12時半には寝る。そういう風に時間が決められているから、計画的にテキパキ動けるようになって。自分としてはすごくありがたいですね。

中川 最初は慣れないことばかりで、仕事もあるのに大丈夫かなって不安もあったんですけど、今はすごく楽しいです。娘を見ていると、しぐさから何から本当に愉快で、笑っちゃうんですよ。だから家の中も和むし、ストレスもほとんど感じません。

亀山 子育てについては基本的に、子どもは勝手に育つので見守っていれば大丈夫って思っていて。机に油性ペンで落書きしちゃだめっていうのは、机を汚されたくないっていう大人の都合じゃないですか。子どもだったらはみだして思いっきり描きたいはずだし、ときには納豆を手に持って壁にべーん!ってつけて遊んだりもしてみたいはず。

壊されたり落書きされたくない大切なものもあるから、一方的にダメと怒るのではなく、「気持ちははわかるけど、これは僕にとって大切なものなんだよ」と伝えることが必要だと思っています。

中川 もちろん、本当に悪いことや危険なことは、やめさせないといけないんですけどね。でも、「ちゃんとしつけなきゃ」ってことで頭をいっぱいにしてしまうと、親の方がつらくなっちゃうんじゃないかな。だから、思いも寄らない行動に困ってしまうこともあるけれど、本当にだめなこと以外は、子どもってそういうものだよなって客観的に見て、おもしろがってるんです。毎日を楽しく過ごすっていうことが、何より一番大切なので。

絵本についても、この本はどう役立つのか、何を伝えたいのかといったことを深く考えたりせずに、ゆるりと楽しんでほしいなと思います。

亀山 ナンセンス絵本とか、もっと楽しんでほしいですよね。ばかだな~って思いながら、ただ楽しむ。そうすると心が軽くなって、楽になるんじゃないかな。


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