絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『うんこ!』で人気沸騰中の絵本作家・サトシンさんです。もともと広告の世界でお仕事をされていたというサトシンさん。なんと! 専業主夫のご経験もあるそうです。絵本作家になられた経緯や絵本の制作エピソード、「おてて絵本」「ソング絵本」といった活動について、たっぷりと語っていただきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら)
1962年、新潟県生まれ。広告制作プロダクション勤務、専業主夫、フリーのコピーライターを経て絵本作家に。「お話の力の復権」を目指し、「おてて絵本」「ソング絵本」といった活動にも力を入れている。主な絵本作品に『おったまげたとごさくどん』(絵・たごもりのりこ、鈴木出版)、『ヤカンのおかんとフトンのおとん』(絵・赤川明、佼成出版社)、『うんこ!』(絵・西村敏雄、文溪堂)などがある。
絵本作家サトシンHP http://www.ne.jp/asahi/satoshin/s/
▲うんこくん一世一代の大冒険を描く『うんこ!』(文溪堂 )。絵は西村敏雄さん
「おてて絵本」の活動を始めてから、すでに1500以上の話を子どもたちから採取してきたんですけど、その中で圧倒的に多いのが、うんこの話。「うんこ」って言葉として口に出すだけで心が解放されるんでしょうね。ドカーンと笑えてスカッとする。だから子どもたちはうんこの話が大好きなんです。
それなら僕も、子どもたちに負けないうんこの話をつくってやろう!と。そうしてできあがったのが、『うんこ!』です。うんこを題材とした絵本って、しつけ本とか科学本が圧倒的に多くて、ユーモア系のものもあるんだけれど、うんこそのものが主人公でドカーンと笑えるものって、意外とないんですよ。だから僕はその超ウルトラストレートでいくことにしたんです。せっかくなんで、子どもが好きなだじゃれもたくさん盛り込みました。
プレゼン時、「あまりにもストレートなので、子どもは喜ぶだろうけどお母さんは買わないんじゃないか」ってたくさんの編集さんにも言われたりもしたんですけどね。でも、子育てをしてるお母さんたちにとって、うんこってすごく身近で、避けては通れないものじゃないですか。僕も専業主夫やってたからよくわかるんですけど、特に赤ちゃんがいると、うんこと触れるのも日常茶飯事でしょう。だからお母さん方もそれほど抵抗ないというか、むしろ喜んでくれるくらいなんです。
幼稚園・保育園や小学校の先生たちからは、感謝のメールをもらうこともあるんですよ。うんこの話は食育や命の循環の話にもつながってますからね。小学校になると、学校でうんこするとからかわれたりして、したいのに我慢して体調を崩したりとか、ありますよね。もっとオープンにすればそういうこともなくなるんじゃないかな、とも思うんですよ。『うんこ!』をきっかけに、「オープンうんこ」を広めていきたいですね。
▲ソング絵本第一弾CDは、「うんこの大冒険」「わたしはあかねこ」(作詞:サトシン 相田毅 作曲:上野義雄)。絵本作家サトシンHP経由で購入できます。
最近は素話をしてくれるおじいちゃんおばあちゃんもいなくなってきてるし、本を読んでくれるお母さんも減りつつあるし、本も売れなくなってきている……出版社や書店の方たちからそんな話をよく聞きます。それはつまり、お話の力が弱まってるってことだな、と思うんですよ。
お話って、想像力を育んでくれるし、聞いたり聞かせてもらったりする中でコミュニケーションを楽しむこともできるし、人間にとってすごく大事なものだと思うんですね。それで、僕なりにお話の力を再生できないものか、と考えたんです。
絵本をつくるというのもひとつの方法だけれど、それだけでは難しい。だったらお話を楽しめるチャネルをもっと広げれば、その分いろんな人に楽しんでもらえるんじゃないか、と。その中のひとつが「おてて絵本」なんですけど、ほかにももっとできるはず……そこで思いついたのが、歌の力を借りることでした。
それで、J-POPのヒットソングを手がけている歌の世界のクリエイターの人たちと組んで、「ソング絵本」というのをつくり始めたんです。まず僕がお話としておもしろいものをつくって、それをもとに作詞家さんと僕とで詞を仕上げ、できあがったら絵を描いてもらうように音を乗せる。「歌的な絵本」という発想です。
『うんこ!』も実は、「うんこの大冒険」という歌を先につくってたんですよ。歌をつくる時点でお話をしっかりつくってるから、絵本としてもいけちゃった。「うんこの大冒険」のCDに同時収録している「わたしはあかねこ」という歌も、「絵本になる時は僕に描かせてくれませんか?」と西村敏雄さんが言ってくれ、来春絵本として刊行が決まりました。楽しみにしていてくださいね。
僕は今、名刺の肩書きのところを「絵本作家など。」としてるんですよ。絵本をつくりつつ、おてて絵本とかソング絵本とか、絵本から派生した別のプロジェクトも動かしてますので。でも、いろいろやっているようで、僕の中ではひとつの芯があるんです。それは、コミュニケーションと表現の楽しさを、僕の活動や表現を通していろんな人に感じてもらいたいってことです。
たとえば、おてて絵本を続けていくことで、子どもたちは表現することの楽しさに目覚めていく。そして、子どもの話に耳を傾けることで、日常会話では見えなかった子どもらしさが垣間見えたり、子どもの表現のおもしろさ、子どもそのもののおもしろさに気づいたりして、大人も変わってくるんです。子どもとかかわることで大人も変化するっていうのが、結構大事なんですよ。そうするうちに、親子のコミュニケーションが、ぐんと楽しくなってくるはずです。
おてて絵本は、ゆくゆくは日本だけではなく、世界中に広めていきたいですね。アメリカのお父さんもインドのお母さんも、寝る前には「Let's play OTETE!」なんて言いながら楽しめるようになるといいなぁと思ってます。
やり始めた当初、「おてて絵本はおもしろいけれど、そういうのを楽しむようになると、よりいっそう本が読まれなくなるのでは?」と言った編集さんもいましたが、それは違います。おてて絵本をやることによって、お話の楽しさに気がつくと、ネタを仕入れるために本を読みたくなる。それはつまり、楽しみ方のフィールドが広がるっていうことなんですよね。ひいては、絵本業界とかにも貢献するんだよってことで。
絵本って親にとっては、すごくいい手抜きツールだと思うんですよ。お話が苦手な人でも、普通に読むだけで子どもと一緒にお話世界で仮想体験できるし、読むだけでコミュニケーションが楽しめる。高いって言うけど、子どもは同じ話を何回も読んでって言いますから、読むごとにコストパフォーマンス高くなるし。そういう意味で本当にいい媒体。ぜひともたくさんの人に楽しんでほしいです。