絵本作家インタビュー

vol.54 絵本作家 鈴木のりたけさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『しごとば』『続・しごとば』で人気急上昇中の絵本作家・鈴木のりたけさんです。子どもたちに人気の仕事の現場をじっくりと取材し、大人までも釘付けにするおもしろさで描く鈴木さん。実は新幹線運転士の経験があるとか…!? 取材の模様や作品に込めた思いなど、たっぷりと伺ってきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・鈴木のりたけさん

鈴木 のりたけ(すずき のりたけ)

1975年、静岡県生まれ。絵本作家。2006年、第27回読売国際漫画大賞入選。TOKYO illustration 2007入選。文芸社ビジュアルアート出版文化賞2006絵本部門個性派賞受賞。絵本に『ケチャップマン』(文芸社ビジュアルアート)、『しごとば』『続・しごとば』(ブロンズ新社)がある。猫1匹と女の子1児の父。
http://noritakesuzuki.com/

見つけるとさらに楽しい! 絵本の中の遊び心

『しごとば』の絵は細部まで描き込むので、描きあげるのにかなり時間がかかるんですね。途中で集中力を切らさないためにも、ちょっとしたスパイスとして絵の中に遊びを入れてみよう―― そんなつもりで描き始めたのが、絵の中に潜ませたパロディやダジャレです。

最初は自分だけの楽しみのつもりで、こっそりと遊びを入れてたんですよ。たとえば、革職人の仕事場にある予定表に、僕の娘の誕生日を書き込んでみたり。歯医者の仕事場にある歯の模型にメダルを噛ませているのなんかは、わかりやすいと思うんですけどね。

これが第一作で意外と好評で、読者のみなさんが喜んでくださったので、『続・しごとば』ではもっとわかりやすい形で盛り込むようにしました。書店員のページなんかは特にボケどころがたくさんあったので、考えるのが大変でしたよ(笑) そんなところも楽しんでもらえるとうれしいですね。

『続・しごとば』を10倍楽しむ解説書

▲『続・しごとば』には、まだまだ気づいていない驚きがいっぱい! ブロンズ新社のサイトで『続・しごとば』を10倍楽しむ解説書がダウンロードできるので、絵本とあわせてチェックするとさらに楽しいですよ!

それから、新幹線運転士がすし職人のお店でおすしを食べていたり、グラフィックデザイナーが美容師にパーマをかけてもらったりと、“つながり”も意識して描いています。どの仕事もほかの人の役に立っているんだってことを、こんなところから感じてもらえたらと思っています。

僕自身、いろいろな仕事場を取材して、社会の“つながり”を実感したんですよ。たとえば、毎日着ている服。僕はそれまで服を売り物としてしか見ていなかったんですけど、ファッションデザイナーを取材したら、糸の種類とかポケットの形、位置といった細かいところまで、ひとつひとつ吟味に吟味を重ねてつくっていることがわかったんです。

どの職業でも、そんな風にして完成度の高いものが世に出るんだと思うんですけど、改めて自分の身近にあるものでそれを実感できたことは、僕にとっては結構衝撃でした。

絵本で描いていきたいこと

絵本作家・鈴木のりたけさん

子どものころ大好きだったのは、かこさとしさんの絵本。「かがくの本」のシリーズが特に好きで、図書館の隅っこで穴が開くほど見つめていました。図鑑も好きでよく見ていたんですが、かこさとしさんの絵本は、図鑑っぽいところもありながらストーリーもついていて、読み終えたあとにカタルシスが味わえるんですよ。そんなところがよかったんじゃないかな、と。『しごとば』をつくるときにも、かこさんの絵本には少なからず影響を受けましたね。

先日亡くなった井上ひさしさんの言葉で、“むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをゆかいに ゆかいなことをまじめに”というのがありましたが、絵本もそんな風にシフトして見せていくことができるといいなと思っているんです。『しごとば』も、仕事の難しい部分を楽しく見せるようにしていますが、それ以外の絵本でも、たとえば「生きるってどういうこと?」みたいなことをおもしろく描くとか、そういうことにも挑戦していきたいですね。

『しごとば』は、取材して編集して絵に詰め込んでいくという過程がものすごく自分に合っているなと感じているので、今後も続けていきたいと思っています。今、第3弾の仕事選びや取材を進めているところです。

それ以外では今、夏に向けて、淡水魚を題材にした図鑑的な絵本の制作を進めています。実際に魚と出会ったような気持ちになる絵本にしたいと思ってるんですね。なので水の中からの視点で、隣をオイカワがぴゅーーっとすり抜けていって、眼下ではヨシノボリがちょこちょこ動いている……みたいな、立体的な絵を描いています。6月にはお風呂の絵本も出る予定です。ほかにも、絵本にかかわらずいろんなことをやっていきたいですね。

あふれる情報よりも、わが子をしっかり見ていきたい

絵本作家・鈴木のりたけさん

僕の娘は今1歳半なんですけど、1歳半の子どもってそんなに走るの!?ってくらい、よく走り回っているので、本当ににぎやかですよ。スローで見たら宙浮いてるんじゃないかな(笑)

絵本はよく僕が読み聞かせしています。僕の読む『三びきのやぎのがらがらどん』(福音館書店)は、すごいですよ。「だれだ、おれのはしを がたごとさせるのは!! がががー!!!」みたいな感じで、大声をあげるんです。読んでいる自分の方が盛り上がってしまって、娘も最初はきゃっきゃと喜んでるんですけど、3回目には耐えられなくなって泣き出しちゃったりして(笑)

子育てについては、“子どもをよく見る”っていうことを大事にしています。子育ての情報って本当にたくさんありますけど、全部見ていたらきりがないし、情報に惑わされてしまうこともあるじゃないですか。

もちろん情報は参考にしていいんですけど、その情報が正しいか正しくないかっていうのは、自分の子どもをよく見て、子どもの状態と照らし合わせながら判断していきたいなと思うんです。絵本を選ぶときも同じで、子どもをよく見ていれば、どの絵本のどんなところに反応しているか、わかると思いますしね。

子どもの生きる力や表現力を信じてあげたいし、自分たちにも親として、育てる力が絶対備わっているはずだから、自信を持って子どもと接していきたいですね。そうすることで、いろいろ迷うこともなくなるんじゃないかなって思っています。



ページトップへ