絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『しごとば』『続・しごとば』で人気急上昇中の絵本作家・鈴木のりたけさんです。子どもたちに人気の仕事の現場をじっくりと取材し、大人までも釘付けにするおもしろさで描く鈴木さん。実は新幹線運転士の経験があるとか…!? 取材の模様や作品に込めた思いなど、たっぷりと伺ってきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1975年、静岡県生まれ。絵本作家。2006年、第27回読売国際漫画大賞入選。TOKYO illustration 2007入選。文芸社ビジュアルアート出版文化賞2006絵本部門個性派賞受賞。絵本に『ケチャップマン』(文芸社ビジュアルアート)、『しごとば』『続・しごとば』(ブロンズ新社)がある。猫1匹と女の子1児の父。
http://noritakesuzuki.com/
僕はもともとグラフィックデザインの仕事をしていたんですけど、仲間の机まわりを見ていると、同じグラフィックデザイナーでもかなり様子が違うんです。わりとみんな自由なレイアウトで、おもちゃとかをいろいろ置いたりしてて。そういうのを見ていると、そこで働いている人の個性が垣間見えて、おもしろいなと常々思っていたんです。
でもこれはきっとほかの職業でも同じで、どんな職場でも、それぞれの職業の性質や働いている人の性格が表れるんじゃないか。それをいろいろ並べて見せたらおもしろそうだな―― 『しごとば』は、そんな発想から生まれました。
▲美容師、新幹線運転士、すし職人、グラフィックデザイナーなど、わくわくするような仕事の現場を描いた鈴木のりたけさんの人気絵本『しごとば』(ブロンズ新社)
職業選びのポイントは二つあります。一つ目は、子どもに人気のある職業かどうかということ。“つきたい職業 今年のトップ10”みたいな情報も参考にしました。二つ目は、一枚の絵でおもしろく見せられる仕事場かどうか、ということ。何かそこでおもしろいことが始まりそうな雰囲気の仕事場を選ぶように心がけています。
職業が決まったら、アポイントをとって取材に向かいます。一回の取材で200~300枚の写真を撮りますね。いろんな道具をひとつひとつ、「これ何ですか?」と聞きながら、パシャパシャと撮っていくんです。仕事場全体の様子も、いろんなアングルで撮っておきます。カメラは外部記憶装置みたいなもので、『しごとば』の取材には欠かせないツールです。取材後に写真をパソコン上で拡大したときに、こんなものがあった!と発見することもあるんですよ。
『しごとば』では新幹線運転士も取り上げていますが、実は僕、グラフィックデザイナーになる前にJR東海に勤めていたんです。そのときに、新幹線の運転も半年ほど経験したことがあります。絵本に出てくる乗務スケジュールも、実際に僕が経験したことに基づいているんですよ。
グラフィックデザイナーと新幹線運転士は経験したことがありましたが、それ以外の職業はどれも、僕にとっても未知の世界。緊張しつつも、好奇心でわくわくしながら取材に臨みました。
取材では、道具や仕事の手順などを一通り聞いたあとで、「仕事をしていて一番やりがいを感じるのは何ですか」とか「大失敗したことはありますか」といったことを聞きます。「お昼ごはんは何を食べますか?」「休みの日は何をしてますか?」というパーソナルな質問もしますね。それらすべてを描くわけではないんですが、そういうことも聞いておくと、その方の人間性の輪郭が僕の中ではっきりしてくるんです。
『しごとば』といっても、ただ仕事場の様子や仕事の手順だけを見せるのではなく、その仕事に就いている方の人となりがあぶりだされるような絵本にしたいな、と思っていたんですね。職業って、ものができたりサービスが行われたりってことだけではなくて、そこに人が介在して、いろんな思いも絡まってくるものなので、そういったこともしっかり描いていこう、と意識してつくりました。
▲続編となる『続・しごとば』(ブロンズ新社)では、プロ野球選手、ファッションデザイナー、漫画家、とうふ職人、宇宙飛行士などの9つの仕事を紹介。最後のページにはそれぞれの「休みの日」も描かれています
一番大変なのは、取材で集めた情報をひとつの画面に構成していく段階。どうすればひとつの画面にすべてを網羅できるか、どのアングルから描けばその職業の性質がぱっと一目でわかるか、頭をフル回転させて考えながらレイアウトしていきます。あと、道具を描くときは、ひとつひとつに存在感をもたせて、いい仕事をする道具に見えるように心がけて描いてますね。使い込まれて味のある道具ばかりなので、ただ並べるだけじゃなく、いきいきとしたものたちの集合として描くようにしています。
『しごとば』はもともと、どんな風に楽しんでほしいかとか、対象年齢は何歳くらいかといったことを、あまり決めつけずに描いたんですね。いくつもの職業、いろんな道具などをばーっと全部フラットに見せてあげることで、それぞれが自分なりに興味のあるもの、どう使うんだろう?と気になったものを見つけられるような状態にしておきたかったんです。
そこから何を読み取ってどう遊ぶかは、読む人の自由。僕の友達は、子どもと一緒に寿司職人のページを見て、「どこに魚がいるでしょう?」なんて問題を出して遊んでいると言っていました。この絵本で勉強してほしいとはあまり思っていないので、そんな風に自由に楽しんでもらえるといいですよね。
読者ハガキを見ると、年齢層もかなり幅広いんですよ。子どもはもちろんですが、子どもに自分の仕事のことを説明できてうれしかった、というお父さんたちからの声もいただいていますし、先日は、90歳のおじいちゃんからも感想をいただきました。
子どもも大人も楽しめるというのは、絵本の魅力のひとつですよね。僕は絵本って舞台みたいなものだと思うんですよ。描かれているものを、自分の意志で目を動かして見ることができる。どこをどう見るか、どう感じるかは人それぞれで、見終わったあとに描かれていたことについて話し合うこともできる。文章だけの本は結構パーソナルなものだと思うんですけど、絵本はコミュニケーションにつながるんですよね。つくり手としても思いが込めやすいですし、すごく自由度が高くて、おもしろい媒体だなと感じています。
……鈴木のりたけさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)