絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』などでおなじみの絵本作家・スギヤマカナヨさんです。現役子育てママでもあるスギヤマさんのお話は、お子さんとの楽しいエピソードも満載! 人気絵本の制作エピソードや、スギヤマさん流の読み聞かせ、絵本に対する熱い思いなど、たっぷりと伺ってきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1967年、静岡県生まれ。東京学芸大学初等科美術卒業。『ペンギンの本』(講談社)で講談社出版文化賞受賞。主な作品に『K・スギャーマ博士の動物図鑑』『K・スギャーマ博士の植物図鑑』(ともに絵本館)、『ゾウの本』『ネコの本』『てがみはすてきなおくりもの』(以上、講談社)、『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』(以上、アリス館)、『あかちゃんがうまれたらなるなるなんになる?』(ポプラ社)、『ほんちゃん』(偕成社)、『いっしょにごはん』(くもん出版)などがある。
▲スギャーマ博士が“魂の冒険”をしたノーダリニッチ島には、不思議な動物がいっぱい!『K・スギャーマ博士の動物図鑑』(絵本館)。続編に植物図鑑も。
『K・スギャーマ博士の動物図鑑』は、もともと大学の卒業制作でつくったものだったんです。それが本になったのが、私の絵本作家としての最初の一歩でした。その後はステーショナリーのデザインの仕事をしたり、夫と二人でニューヨークに遊学したりしながら、絵本の仕事を続けてきたんですが、2000年に娘を授かりまして。それまでにも赤ちゃん絵本をつくったことはあったんですが、実際に子どもと接してみると、想像していたよりはるかに新しい発見がいっぱいだったんですね。それがすごくおもしろくて。
子どもが生まれてからも仕事を休むわけにはいかなかったんですけど、できるだけ子どもとは一緒にいてあげたい。なので、仕事の資料―― たとえばミツバチの生態や習性について書かれた本とかを、寝転がって子どもに見せながら読んでいました。ミツバチの写真を指差して、「たくさんいるね」なんて話しかけながら。娘はそれを目を見開いて見ていたんです。
驚いたのは、娘が2歳くらいになって、言葉を発せられるようになったときのこと。ミツバチの本を持ってきて、「この本、赤ちゃんのとき読んだよね」って言ってきたんです。これは本当に目から鱗でした。赤ちゃんはアウトプットできないだけで、ものすごくたくさんのことをインプットしているんだな、と気付いたんです。
私たちは言葉によるコミュニケーションに頼っているので、言葉のやりとりがないとコミュニケーションは成り立っていないと思いがちですけど、そんなことはないんですよね。言葉の話せない頃の赤ちゃんでも、語りかけられたことや見たものというのは、ちゃんと吸収しているんです。この時期のコミュニケーションの大切さを身をもって実感した瞬間でした。
今うちの子どもたちは、娘が小学3年生、息子が2歳半。時間が自由になる仕事をしているので、上の子も保育園には入れませんでしたし、下の子もあえて保育園には入れていません。昼間は仕事が全然できないので、睡眠時間を削って夜中に仕事。大変ではあるんですけど、来年には幼稚園に入るので、息子と一日中一緒にいられるのも今年で最後になるんですよ。人生というスパンで考えれば一瞬のことだと思って、そのひとときを大事に過ごしています。
子どもたちには、赤ちゃんの頃からずっと絵本を読んでいます。特に意識しているのは、満遍なくいろんなジャンルの本を選ぶということ。日本の昔話や世界の話、言葉遊びの絵本、科学の絵本、写真絵本など、とにかくいろんなものを読んでいるうちに、その子の好みができてきますから。
娘は小さい頃、人体図鑑が大好きでした。大人からすると人体解剖図なんてちょっとこわいイメージかもしれないですけど、子どもは先入観がありませんからね。本の中の図と自分の体の部分を指差しながら「これ、ここの骨?」とか、脳みその絵を見て自分の頭を指差して「これ、ここに入ってるの?」って。特に膀胱が大好きで、よく絵を描いていました。玉ねぎみたいな丸っこい形がかわいいって言って(笑)
絵本は、小さいうちから何でも与えてみるといいと思います。全部読まなくても、最初の方だけちょっと読んでみて、どうも違うなって感じたらやめればいいんです。良書悪書みたいに分けられたりもしますけど、基本的には何でもありだと思うんですよ。だから、むしろ気楽に楽しんでほしいですね。
見た目がそのままお弁当箱の絵本がつくってみたい―― そんな思いからつくったのが、『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』です。幼稚園に通う娘のために、私自身、毎日お弁当をつくっていた頃のことです。
▲ページを開けば、そのままお弁当。 隣の子のお弁当はどんなかな? 2冊並べて読むとさらに楽しい! 左・中央が『ぼくのおべんとう』、一番右が『わたしのおべんとう』(いずれもアリス館)
もともとは、男の子のお弁当の方だけ一冊つくる予定で進めてたんですけど、編集者さんから「隣に座ってるのはきっと女の子だよね」って言われたんですね。それで思いついて、さささっとラフを描いて「隣の子のお弁当はこんな感じ?」とファックスを送ったら、「それもつくりましょう!」と。私が今までつくった絵本の中で、一番最短でつくりあげた絵本です。
『ぼくのおべんとう』と『わたしのおべんとう』を並べて2人で読み聞かせする、というのは、読み聞かせのボランティアさんたちの活動から草の根的に広がっていったようです。この二冊、途中でリンクしてるんですけど、そんな風に読み聞かせるってことは考えていなかったので、なるほどな!と感心しちゃいました。
『わたしのおべんとう』に出てくる納豆のサンドイッチは、私ではなくて母のアイデア。うちの母は、結構いろいろとおもしろいことをやってくれる人だったんですよ。中学時代、お弁当のときに牛乳が出てたんですけど、牛乳とご飯って組み合わせがいやなんだよねと話したら、お弁当箱いっぱいにコーンフレークが入ってたことがあったりして(笑) お弁当にはいろんな思い出がありますが、母が毎日毎日、父と私と弟2人の4人分もお弁当をつくってくれていたことを思い返すと、なんだか感慨深いですね。
……スギヤマカナヨさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)