絵本作家インタビュー

vol.52 絵本作家 スギヤマカナヨさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』などでおなじみの絵本作家・スギヤマカナヨさんです。現役子育てママでもあるスギヤマさんのお話は、お子さんとの楽しいエピソードも満載! 人気絵本の制作エピソードや、スギヤマさん流の読み聞かせ、絵本に対する熱い思いなど、たっぷりと伺ってきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・スギヤマカナヨさん

スギヤマ カナヨ

1967年、静岡県生まれ。東京学芸大学初等科美術卒業。『ペンギンの本』(講談社)で講談社出版文化賞受賞。主な作品に『K・スギャーマ博士の動物図鑑』『K・スギャーマ博士の植物図鑑』(ともに絵本館)、『ゾウの本』『ネコの本』『てがみはすてきなおくりもの』(以上、講談社)、『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』(以上、アリス館)、『あかちゃんがうまれたらなるなるなんになる?』(ポプラ社)、『ほんちゃん』(偕成社)、『いっしょにごはん』(くもん出版)などがある。

コミュニケーション絵本『いっしょにごはん』

『いっしょにごはん』

▲向かい合って読む、新しいタイプのコミュニケーション絵本『いっしょにごはん』(くもん出版)

息子のこれまでを振り返ると、絵本との一番最初の出会いは、書棚から背表紙の上の方を指でくいっとやって、引っ張り出すことでした。

引っ張ると本が出てくるっていうのがおもしろくて、どんどん出しちゃうので、出しては戻し、出しては戻しのいたちごっこ(笑) そこから少しずつ指が器用になってきて、めくるという作業ができるようになると、あぁ、これは中がこんな風になってたのかって発見がありますよね。

めくるのが楽しいっていう段階になると、じゃあ少しずつ読んでみようかってことで、読み聞かせが始まるわけです。そして、お父さんやお母さんが読みながら楽しい空気をつくってくれてるなっていうのがわかってくる……子どもと絵本との関係って、そうやってステップを踏んでできてくるものだと思うんですね。だからどんな絵本であれ、とにかく絵本が身の回りにあるっていうことが一番大事だと思っています。

でも、育児の現場からは、赤ちゃんのうちから絵本をとすすめられても、いつから読んだらいいのかわからない、反応がないからどうしたらいいかわからない、といった声もよく聞くんですよ。

絵本ってやっぱりコミュニケーションのためのもので、慣れてる人はどんな絵本でも子どもとのコミュニケーションを楽しむことができるんですけど、なかには戸惑ってしまう人もいるんですよね。それなら、どう考えたってコミュニケーションをとるしかないような、本当の意味でのコミュニケーション絵本をつくろう! そんな思いでつくったのが、『いっしょにごはん』です。

うちでも息子と私で、この絵本を間に置いて向かい合って、あむあむと食べっこしてるんですよ。「これ食べる?」なんて言っておかずをひとつあげたり、プリンとヨーグルトをとりかえっこしたりして、すごく盛り上がります。絵本ってこんな風に遊べるんだ、こんな可能性があるんだって思ってもらえたらうれしいですね。

本を読むのは楽しいこと

『ほんちゃん』

▲「将来は立派な図鑑になりなさい」と言われている本の子ども・ほんちゃん。いったいどんな本になるのかな? 本が主人公の絵本『ほんちゃん』(偕成社)

昔と今と比べると、本の位置づけって随分変わってきてるんですよね。昔は本が娯楽だったんですけど、今はゲームとかテレビとかたくさんの娯楽があるので、子どもにとって本は娯楽というポジションではなくなってきてるじゃないですか。

だからなおさらのこと、大人が「読書しなさい」って言うんでしょうけど、子どもにとっては、大人が教育的にいいと思っていることをやらされているような感じで、なんだかちょっと気が滅入ってしまう。もちろん、読書が好きな子もいますが、私たち本をつくる側としては、もっとたくさんの子どもたちに「本は楽しいんだよ」っていうのを伝えていきたいな、と。

「音楽」という言葉は、「数学」と違って「がく」に「楽しい」っていう字を使うでしょう。できれば音楽を聴くような感覚で、本を楽しんでもらえたらいいなって思うんですよ。だから、「読書」じゃなくて、「本楽」とか「書楽」とか言ったらどうかなと思って(笑) もっと楽しい雰囲気の中で本とかかわっていけるよう、つくり手としても呼びかけていきたいですね。

読み聞かせにしても、言葉を覚えさせるためとか、本好きの子にするためとかではなくて、もっと親子のコミュニケーションを楽しむために絵本を使ってもらえたらなと思うんです。

絵本の読み聞かせをしながらの親子のやりとりは、子どもの中にちゃんと残っていくと思います。たとえすぐに思い出せなくても、体はきっと覚えてるんです。だから、何かのきっかけでふとあふれ出てくることも。でも、何もしなければゼロじゃないですか。本を読んだり、話しかけたりっていうことは、必ずいつかあふれ出てくる何かの“一滴”になっているんだってことを、お母さんたちにも、心の中に持っていてほしいですね。そうすれば、望むような反応が返ってこなくても、いつかねって長い目で見てあげられるんじゃないかな。

読み聞かせで積み重なる“懐かしい”という気持ち

絵本作家・スギヤマカナヨさん

私が忙しい毎日の中で、わずかでも時間をつくって読み聞かせを続けている一番の理由は、子どもに「懐かしい」という気持ちを味わってもらいたいからなんです。

子どもの頃の「懐かしい」って気持ちは、大人になってからではつくってあげられないじゃないですか。子どもが成長したとき、昔読んだ絵本を手にとって「これ、お母さんに読んでもらったんだ。懐かしい!」なんて思えると、生きていく力につながると思うんですよ。私自身、大人になった今、古本屋なんかで懐かしい絵本を見つけると、昔の友達に再会したようで、わくわくします。

私は子どもの頃、ピエール・プロブストの「カロリーヌ」シリーズが大好きだったんですね。今、そのシリーズを改めて全巻そろえて、娘と一緒に読んでるんです。私の「懐かしい」って気持ちを、いつか娘も感じてくれたら楽しいなぁと思って。

今は大変だと思うこともあるかもしれないけれど、絵本の読み聞かせは子どもたちの心の栄養になっていくはず。「懐かしい」をつくってるんだと思って続けていけたらいいですよね。私もそんな気持ちで、今やれることをやっています。親が子どもにしてあげられることって限られていますけど、絵本の時間はこれからも大切にしていきたいですね。


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