イチ押し絵本情報

日常に風穴あける ほげたさんのやまのかいしゃ(ロングセラー&名作ピックアップ Vol.202)

2018年9月27日

毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。

 日常に風穴あける ほげたさんのやまのかいしゃ

今回ご紹介する絵本は、スズキコージさんが作、かたやまけんさんが絵を手がけた『やまのかいしゃ』。長年愛され続けているユニークなナンセンス絵本です。

ほげたさんは朝起きるのがとても苦手。もう昼なので支度もそこそこに電車に飛び乗りますが、電車は会社のある町ではなく山の駅に到着してしまいます。ほげたさんは「こうなったら今日はやまのかいしゃに行こう」と思い立ちます…。

見開き

会社がある日に昼まで寝ていて、駅に向かいながら支度をして、会社と反対方向の電車に乗ってしまう。奥さんがにぎってくれたおむすびは持ってきたけれど、靴もカバンもメガネもない…。ほげたさんは、サラリーマンとしてダメな要素だらけ。

でも、ほげたさん自身は、あまり気にしていないようです。「おかしいな」とか「ガッカリ」などと思いながらも、素晴らしい山の景色をぼんやりと見ているのです。

「やまのかいしゃに行こう」と思ってからが、ほげたさんの真骨頂。登山で体を動かしたからか、頬はピンク色、口元に微笑み、表情が生き生きとしてくるのです。途中で同じ会社のほいさくんに出会い、空気がおいしくて景色もいい「やまのかいしゃ」に到着。そこで、社長に電話して「まちのかいしゃ」のみんなを呼んで、ここで仕事をしようと誘います。昼まで寝ていた人と同一人物とは思えない積極性です。

この「会社」ということばからは想像もできないナンセンスでユニークな物語は、「会社員経験のないスズキコージさんが、友人の会社社長やサラリーマンから話を聞いたり、ボブ・ディランの歌の歌詞に刺激されて」(福音館書店)生まれたそう。

またスズキさんは毎日新聞のインタビューで、「ほげたさんがしでかすことは、僕にとって生活の延長線上にあること」と語ります。「日常を楽しいことで打ち破る」ことはスズキさんの生活ではしょっちゅうなのだそう。そんな日常生活に風穴を開けるような物語だからこそ、長く人々の記憶に残り続けているのでしょう。

この物語の楽しさ、幸福感を伝えているのは、かたやまけんさんのゆったりとした大らかな絵によるところが大きいでしょう。ほげたさんのとぼけた表情、生命力にあふれる山の景色、多彩でユニークな雲、また電車の中吊りに「ススキーノコジ氏の大予言」なる本の広告があるなど、さまざまな遊びがしかけられています。作者達の自由な遊び心に反応して、子ども達は何度も読みたがるのでしょう。

この絵本は、1986年に雑誌「母の友」に物語が掲載され、1991年に最初に架空社が出版。しばらく品切れになっていたものを、今年、福音館書店が再版して、新聞各紙で取り上げられるなど話題になりました。原画から製版し直し、文章も一部見直したそうですから、架空社版も合わせて図書館で借りて、比較してみるのも面白いですよ。

<ミーテ会員さんのお声>
「何読む~?」と声をかけると、今晩は次男は『やまのかいしゃ』、長男は『でんでんむしのかなしみ』を本棚から持ってきました。スズキコージさん好きの次男。「ほげたさん」など名前だけで心にヒットするのか、どのページを開いてもずっと笑ってる!(4歳10か月、6歳8か月の男の子のママ)

主人公の「ほげた」という名前は、同じくスズキコージさんの絵本『エンソくんきしゃにのる』の町と駅の名前でもあります。福音館書店公式Webマガジン内「あのねエッセイ」のスズキさんのインタビューによると、清水次郎長の物語に登場する「保下田の九六」の名前が由来なんだそうですよ!


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