毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。
今回ご紹介する絵本は、木下順二さんと清水崑さんによる『かにむかし』。1959年に出版された、日本民話「さるかに合戦」を新解釈した名作絵本です。
むかしむかし。カニが柿の種を拾って、大きくて立派な実がなるまで大事に育てていました。木に登れず実が取れないので困っていると、サルがやってきて「おいらがもいでやろうか」。するすると登ったサルは、次々に柿を食べてしまい、しまいには青く固い実をカニに投げつけて…。
読み始めて最初に気付くのが、語り部の聞き書きをしたような、方言を生かした語り口でしょう。長年語り継がれてきたように表現はこなれて無駄がなく、一気に物語の世界に連れて行かれます。
次にリズミカルなくり返し。カニが柿を育てるシーンは、「はよう 芽を だせ かきのたね、ださんと、はさみで、ほじりだすぞ」というインパクトのあることばを軸に、ぐんぐんと柿が育っていきます。次はカニがサルに潰された後、子ガニによる仲間集めのシーン。こちらはカニや栗の歩く音のオノマトペを軸にくり返し。ほどよい省略も入って、お話の長さを感じさせないテンポのよさがあります。
最後に、結末に向けて畳みかけるようにお話が収れんします。サルが栗、カニ、ハチにやられるシーンは、文字が「すると…」しかありません。まず、絵の力だけで、怒涛の連続攻撃だったことや、サルのパニックの様子を伝え、文字の説明は次のページ。一気にテンポアップして結末までなだれ込みます。
聞きなれたはずの「さるかに合戦」の物語が、序破急の間にくり返しが入った見事な構成の劇的な効果によって、読む人をぐいぐい引き込むものとなっているのです。民話「鶴の恩返し」を題材とした戯曲「夕鶴」で知られる劇作家の木下順二さんの手腕がいかんなく発揮されています。
酒造会社「黄桜」の河童でおなじみの漫画家の清水崑さんによる墨絵も大きな魅力のひとつでしょう。敵役のサルでさえ憎めない愛らしさがあり、昔話らしい時に残酷で直截な表現も、キャラクターの表情のとぼけた味わいが、子ども達にも安心して笑っていいと伝えてくれます。
<ミーテ会員さんのお声>
最近、下の子は毎日園で本を借りてきます。タイトルは決まって『かにむかし』。結構、長いお話なのですが、毎日読んでいます。彼は、お話より絵を楽しんでいるようで、私が気づかないところも見ています。「なんでカニさんおらんがん…」「カニさん涙でとる」「さるさんどこにおるがん…」。全部を理解しているわけでもないようなのに、飽きずに聞いてくれています。(3歳5か月と6歳3か月の男の子のママ)
今回紹介した小さいサイズのほか、大型絵本もあります。清水崑さんの迫力ある柿の描写など絵を楽しみたい、あるいは読み聞かせ会など使われる場合は、こちらをおすすめします。
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