スペシャルインタビュー

「海と空の約束プロジェクト」代表・西谷寛さんスペシャルインタビュー

今回のインタビューは、水の循環や生物多様性をテーマにした絵本『海と空の約束』を通じて環境教育を進める「海と空の約束プロジェクト」代表・西谷寛さんにご登場いただきます。神戸市役所の職員として、環境対策や消費者保護に従事するかたわら、「海と空の約束」の活動を続けている西谷さん。絵本を出版した経緯や、子どもたちに伝えたい思いなど、たっぷりと伺いました。子どもたちの未来ためにも、環境問題についてじっくりと考えてみませんか?

「海と空の約束プロジェクト」代表・西谷寛さん

西谷 寛(にしたに ひろし)

1956年、兵庫県明石市生まれ。広島大学水畜産学部卒業後、神戸市職員に。環境局環境評価共生推進室室長として、環境アセスメント、環境教育などを担当。現在は、神戸市生活情報センター所長。ライフワークで環境保全活動に取り組むかたわら、環境絵本『海と空の約束』を出版。「海と空の約束」プロジェクト代表として、環境教育のための活動を続ける。環境省環境カウンセラー、日本児童文学者協会・日本環境教育学会関西支部会員。
海と空の約束プロジェクト⇒ http://umisora.petit.cc/

2人の娘のために書いた童話 20年の時を経て絵本に

夕焼けの海の空

▲絵本化を思い立つきっかけとなったという、娘の友見さんが高校時代に描いた絵。タイトルは「夕焼けの海の空」

―― 『海と空の約束』のお話は、もともと20年ほど前につくられたものだそうですね。

そうなんです。私には娘が2人いるんですが、娘たちが小さい頃、いろんなお話を書いて、読んで聞かせていたんですね。その中でも一番最初につくったのが、『海と空の約束』。ひとりぼっちで泣いていた空を海がやさしく励まし、海が汚れたときには空がやさしい雨を降らせて海を救うというストーリーです。

次女が高校2年生のとき、海と空の絵を描いたんですが、その絵を見てから、『海と空の約束』を絵本にしたいと思うようになりました。当初は次女と一緒につくろうと考えていたんですけど、なかなか思うように進まず、あきらめかけたこともあったんです。

ただ、仕事で環境教育に携わる中で、環境問題について子どもたちにもっとわかりやすく伝えられるアイテムが何か必要だという思いが強まっていったんですね。そんなとき、イラストレーターの有村綾さんと出会って、その思いを伝えたらぜひやりたいと言ってくださったんです。丸1年の制作期間を経て、2009年の夏に貯金をはたいて自費出版しました。

海と空の約束

▲海と空の友情を描く環境絵本『海と空の約束』(作・にしたに ひろし 絵・ありむら あや、神戸新聞総合出版センター)。

―― 「海と空の約束プロジェクト」も立ち上げられましたね。どんな活動をなさっているのですか。

絵本を出版して書店に並べるだけでは、世の中には伝わらない。環境教育をもっと広めていくために、ほかにもきっと何かできるはず……そんな思いから、仲間たちとプロジェクトを立ち上げて活動をスタートしました。

子どもたちが集まる場所や環境イベントなどで絵本『海と空の約束』の読み聞かせや原画展を行ったり、保育所や児童館、児童福祉施設などに『海と空の約束』を寄贈したりといったことが、主な活動です。イベント会場でより多くの子どもたちに絵を見てもらえるようにと、大型紙芝居もつくりました。それから、日本航空と全日空、スカイマーク、エアードウの飛行機にも寄贈し、子ども用の読み物として機内に置いてもらっています。

平日は神戸市役所で働いているので、「海と空の約束プロジェクト」のために動けるのは休日など限られた時間だけですが、この活動に共感してくださるさまざまな方の協力を得ながら、ライフワークとして続けていくつもりです。

絵本を通じて考えよう 未来の環境のこと

―― 西谷さんは以前から環境教育に長く携わってこられたそうですが、絵本『海と空の約束』をつくったことで、子どもたちにより伝わるようになったという実感はありますか。

あります。絵本があると、伝わり方が全然違うんです。幼稚園の子どもたちもすごく一生懸命聞くんですよ。特に、空が泣くシーンと海と空が手を結んで約束をするシーンは心に響くようで、たくさんの子が真剣に目を向け、耳を傾けてくれます。

海と空の約束

▲絵本『海と空の約束』の、空が涙を流すシーンと、海と空が手を結んで約束するシーン。絵本の売り上げはすべて、絵本を子供たちの施設にプレゼントしたり紙芝居活動を展開する経費に充当したりしているそうです。

最近は自然観察会やキャンプ、ハイキングなど、自然を楽しむイベントがたくさんありますよね。そういったものに参加することは、子どもたちにとって、楽しいに決まっているんです。あと、家族で山や海、公園などで遊ぶのも楽しい。

でも、ただ「楽しかった」で終わってしまうのは、すごくもったいない。どうして自然を大切にしなければいけないのか、自分たちの暮らしにどうかかわっているのかということを、もっとわかりやすく伝えていくべきだと思っていたんです。そのためのアイテムとして、『海と空の約束』はすごく役に立ってくれています。家庭でも十分、伝わります。

海と空の約束プロジェクト活動

▲海と空の約束プロジェクトでは、環境イベントなどで大型紙芝居や絵本の読み聞かせを実施されています

―― 『海と空の約束』を通じて一番伝えたいのは、どんなことですか。

一番のメッセージは、地球上のすべてのものは関係しあいながら生きているんだということ。海も空も山も川も、そこに住む生き物たちも全部つながっていて、互いに影響しあいながら、水や大気をきれいにしたり、「地球」という星を構成しているんです。『海と空の約束』を通じて、子どもたちにも、お父さんお母さん方にも、そういったことを考える機会を持ってもらえたらうれしいですね。

『海と空の約束』を読み聞かせしたあとは、子どもたちといろんなことを話す時間を持つようにしています。私が「海が泣かないようにするためには、どうしたらいいかな?」と聞くと、「ゴミを減らす」「車に乗らない」といった答えが返ってくるんですよ。そうすると私は、「ゴミを減らしたり、車に乗らなかったりしたら、海は泣かなくなるの? それはどうして?」とさらに問いかけます。

そうやってじっくり話していくと、聞きかじりの知識だったものが、より深く理解できるようになってくるんです。これこそ日常生活に直結した、“生きた環境教育”だなと思っています。

子どもたちが大人になる頃には、海や川はもっと汚れてしまっているかもしれないし、山の緑はもっと減ってしまっているかもしれません。そうなると空気も汚くなって、地球はどんどん住みにくくなってしまいます。そうならないように、みんなが少しずつ、地球に悪い影響を与えない生き方を心がけてほしい。ものを長く、大事に使うとか、節電・節水を心がけるとか、身近なところにもできることはたくさんあります。『海と空の約束』が、そういった行動のきっかけになればうれしいですね。

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