vol.31寺田奈々さんの推し絵本
思い出の一冊、大好きな一冊、渾身の一冊など、とっておきの“推し絵本”を紹介してもらうインタビュー「みんなの推し絵本!」。今回は、言語聴覚士で「ことばの相談室ことり」代表の寺田奈々さんにご登場いただきます。
「言語聴覚士」とは耳慣れない方もいらっしゃるかもしれませんが、言葉・コミュニケーション・聞こえ・学習・声・飲み込みの分野の専門職です。私が主宰する「ことばの相談室ことり」では、子どもの言葉の獲得について相談に乗ったり、言葉を引き出すレッスンを行ったりしています。
日々のレッスンでよく使う絵本が『コロちゃんはどこ?』です。子どもたちの反応がすごくよく、くり返し読むのでもうボロボロ。消耗品として買い替えているくらいです。子どもの言葉を引き出す際には、「一緒のものを一緒に見ている」ということがすごく大事なんですね。その点コロちゃん絵本は、しかけがあって、お話がゆったりと進むなど、小さい子どもの注目を促しやすいのでおすすめです。
読み聞かせをする大人にとってもいい点があります。しかけがあることで、例えば「子どもがこっちを見てくれたらめくろう」と、子どもの聞く準備が整うのを自然と待つことができます。特に年齢の低い子どもは、注目しているかを確認してから話しかけると、ママ・パパの言葉を聞いてくれる確率が上がります。絵本、特にしかけ絵本は、子どもへの言葉がけに悩んでいる方でも自然な双方向のコミュニケーションにつながっていくので、ぜひ活用してほしいと思います。
発達段階にあわせて様々な楽しみ方ができるのもこの絵本の魅力です。言葉を話し出す前なら、動物の鳴きマネをしたり、「コンコン」とドアをノックする動作を交えながら読み聞かせるのもいいでしょう。鳴き声や身振りなどお子さんができる手段を使って楽しく遊ぶことや、めくって「いたね」とただ笑いあうというような経験が、言葉の芽生えにつながっていきます。言葉が出るか出ないかという時期は気持ちが焦りがち。でも無理に言わせようとしなくて大丈夫ですよ、と伝えたいですね。
ぽつぽつ単語が出てくる頃なら、「コロちゃんは?」「いなーい」などお決まりのやり取りや、隠れた動物の当てっこゲーム。文でお話しできるようになったら「ワニさんはどこにいた?」「ベッドの下」など、場所や位置を表す表現を覚えられますし、数を数える、ひらがなの読み始めなどにもいいと思います。
私も子育て真っ最中なのですが、最初の頃に読み聞かせていたのは、『いないいないばああそび』や『やさいさん』。1歳1か月の今は、『おべんとうバス』と『れいぞうこ』がお気に入りです。絵本の力ってすごいなと日々思わされています。疲れて棒読みになってしまっても、書いてある通りに「すっぽーん!」と読んだらそのまま面白くなる。また思わず子どもの反応や表情を見たくなるようにできているなとも思います。
いずれの絵本も、しかけがあったり、オノマトペが使われていたり、くり返しがあって読み聞かせのリズムができやすい絵本です。「くり返し」は、お話として面白いのはもちろんですが、言葉を獲得していく上でも重要です。言葉を話し出す前段階の認知発達のひとつに「予想する」ということがあります。パターンがくり返されていくことで、今回こうだったから、次回もきっとこうだと予想する。くり返しが場面の理解につながり、わかる場面・わかる状況があって、言葉の意味に注意が向いていくのです。
また、絵本の中に子どもが参加できるタイミングがあると、一方的に読むよりも言葉を引き出す読み聞かせになります。しかけ絵本はもちろんそうですし、例えば息子は最近『おべんとうバス』のハンバークくんになって「はーい」とお返事をするのにはまっているのですが、このように会話の形をマネることも、コミュニケーションの経験になっていきます。
絵本の表紙が見えるようにして身近に置いておくと、生活の中に読み聞かせが取り入れやすいと思います。また、2、3冊並べて毎回本人に選んでもらうようにしてみてください。自分で選ぶことで気持ちが入るので、絵本への注目度も変わりますよ。今回ご紹介したことが、子どもの言葉にまつわる悩みの解決の一助になったらいいなと思っています。
インタビューの中でご紹介した絵本『コロちゃんはどこ?』をミーテ会員3名様に抽選でプレゼントします。
プレゼントの応募は締め切りました。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。
寺田 奈々(てらだ なな)
石川県生まれ。言語聴覚士として総合病院、耳鼻科クリニック、自費の相談室、区立障害者福祉センターなどに勤務後、「ことばの相談室ことり」を設立。著作に、『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)、『ことばを引き出す遊び53』(誠文堂新光社)。また、言葉の練習用教材『絵をみてまねっこ! いっしょにできたね おしゃべりカード』(合同出版)などもある。一児の母。
ことばの相談室ことり
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