Vol.52 『まるくて おいしいよ』作者・小西英子さんインタビュー
赤ちゃんとの絵本の時間を楽しみたい、すべての方へ。選りすぐりの赤ちゃん絵本の誕生秘話や、作家さん・編集者さんが絵本に込めた思いを伺いました。赤ちゃん絵本を楽しむヒントが詰まったインタビュー、今回は小西英子さんにご登場いただきます。
『まるくて おいしいよ』は、私が手がけた初めての赤ちゃん絵本です。丸といないいないばあというテーマは、すぐに思いつきました。私は短期大学の幼児教育学科の教師をしていたので、赤ちゃんが丸が好きということはよく知っていたんです。そこにいないいないばあをかけ合わせれば、きっと赤ちゃんの喜ぶ絵本になるなと。
もうひとつのテーマを決めたのは、1995年、阪神淡路大震災後の春。混乱した時期が続いたので、春が来たのがうれしくて…春らしく豆ごはんをつくろうと、えんどう豆をいっぱい買ったんです。明るい台所で音楽をかけて、豆がころころと転がるのを見ながら、かわいいな、春になってよかったな、と満ち足りた気分でさやをむいていた時にふと、丸い食べ物で絵本をつくろう、とひらめきました。
その後は、デパ地下やスーパーに出向いては、丸い食べ物をひたすらメモしていったのですが、最終的には、自分の子ども時代の思い出の食べ物を中心に描くことにしました。誕生日とクリスマスにだけ買ってもらえたデコレーションケーキ、父が切ってくれたスイカ…。実物との境界線がなくなるくらいの絵にしたくて、すべて実寸大で、しっかり観察して描きました。
以前、図書館で『まるくて おいしいよ』を見つけた時のこと。何気なく手に取ってページをめくってみたら、最後のスイカのページにくっきりと歯型がついていたんです。「あぁおいしそう!」と思わず噛んでしまったんでしょう。すごくうれしくて、かじられた部分をそーっとなでました。
仕事柄、よく保育園にお邪魔したのですが、その際に楽しみにしていたのが、子ども達の食事の様子を見させていただくこと。0歳児のクラスでは、子どもがあーんと口を開けると、先生がスプーンで食べ物を口まで運んでくれます。それが1歳児になると、もうちゃんとスプーンを握りしめて、ひとりで食べるようになっていて。ひたむきな仕草に胸があたたかくなりました。
そんな光景から着想を得て生まれたのが『スプーンちゃん』です。スプーンは子ども達にとって、自分と食べ物とをつないでくれる大事な道具なんですよね。それでスプーンを主役に、子ども達が大好きなプリンやメロン、アイスクリーム、ポタージュなど、色や質感の違う食べ物をバリエーション豊かに描きました。『まるくて おいしいよ』では結局描かなかったお豆も登場します。
食べ物の絵本を描く時に心がけているのは、心身ともに元気な状態で描くこと。食べ物はプラスのエネルギーにあふれているので、私自身の調子が悪いと、それが絵にも出てしまうような気がするんです。読み聞かせされるお母さんやお父さんも、おいしそうだなと思いながら一緒に楽しんでくれたらうれしいですね。
プレゼントの応募は締め切りました。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。
小西 英子(こにし えいこ)
1958年、京都市生まれ。京都市立芸術大学卒業、同大学院(日本画)修了。主な絵本に『まるくて おいしいよ』『サンドイッチ サンドイッチ』『おべんとう』『カレーライス』『パパゲーノとパパゲーナ』『スプーンちゃん』『めん たべよう!』(以上、福音館書店)、『やっとあえた』『きょうはクリスマス』(以上、至光社)などがある。大阪市在住。