Vol.29 『もいもい』監修、東京大学赤ちゃんラボ教授・開一夫先生インタビュー
赤ちゃんとの絵本の時間を楽しみたい、すべての方へ。選りすぐりの赤ちゃん絵本の誕生秘話や、作家さん・編集者さんが絵本に込めた思いを伺いました。赤ちゃん絵本を楽しむヒントが詰まったインタビュー、今回は、東京大学赤ちゃんラボの教授、開一夫先生にご登場いただきます。
私は20年ほど前から、赤ちゃんを対象にした脳と心の研究を続けています。発達認知神経科学と言うのですが、たとえば、赤ちゃんはどんな話し方を好むのかとか、お母さんの視線方向は赤ちゃんのこころの働きにどのように影響しているのか、といったことを、実験を通して科学的に解明していく研究です。
絵本の企画を思いついたのは、もう10年以上前のこと。書店に並んでいる絵本の帯に「赤ちゃんが選んだ絵本」と書かれているのを見て、違和感を覚えたんです。本当に赤ちゃんが選んでいるのか、と。ほぼ完成したものを赤ちゃんに見せて、どれがうけるか反応を見る、というようなことはやっていると思うのですが、制作の段階から、しっかりした設備で実験を重ねながら赤ちゃんと一緒に絵本をつくる、というのは、まだ誰もやっていないはず。それなら私が、これまでの赤ちゃん学研究の見地を活かして、赤ちゃんと一緒に赤ちゃんのための絵本をつくろう、と考えました。
当初は出版社に企画を持ち込んでもなかなか相手にしてもらえなかったのですが、4年ほど前、私の研究室で学んでいた学生からのつながりで出版社の賛同を得ることができて、ようやく「赤ちゃん学絵本プロジェクト」がスタートしました。
実際の絵本制作では、選好注視法という方法を用いて赤ちゃんの反応を調べました。選好注視法とは、ふたつ以上の刺激を提示して、視線がどこを向いているかをデータ化し、より長く見ていたものを選ぶ方法です。
4人のイラストレーターの方にご協力いただいて、「もいもい」という語感からイメージされる絵や、「うるしー」という名の見習い手品師の絵を描いてもらい、それを赤ちゃんに見せて反応を調べました。
「もいもい」というのは、赤ちゃんの好きなくり返しの音、声に出しやすい「まみむめも」の音ということで、私が選んだことばです。フィンランド語のあいさつのことばでもあるんですよ。「うるしー」は、私と出版社をつないでくれた学生のあだ名(笑) 耳にしただけでは意味がわからないようなことばをあえて選びました。
1年近く実験を重ねて、最終的に月齢8~13か月の赤ちゃんが示した調査結果をもとに、『もいもい』『モイモイとキーリー』『うるしー』の3冊をつくりました。市原さんの『もいもい』は、赤ちゃんの視線を最も釘付けにしたイラストです。テレビで紹介されたおかげもあって、たくさんの反響をいただいています。絵本をきっかけに、赤ちゃんラボを訪れて調査に協力してくださる方もいて、非常にうれしく思っています。
赤ちゃんの時期に何よりも大切なのは、お父さんやお母さんとコミュニケーションをとること。この絵本をきっかけに、親子で楽しいひとときを過ごしてもらえたらいいなと思います。
開一夫先生監修の絵本『もいもい』と『モイモイとキーリー』、『うるしー』の3冊に直筆サインを入れていただきました!
ミーテ会員3名様に抽選でプレゼントします。
『もいもい』のご紹介はこちら
プレゼントの応募は締め切りました。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。
開 一夫(ヒラキ カズオ)
1963年、富山県生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了。東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系教授。専門は、赤ちゃん学、発達認知神経科学、機械学習。東京大学赤ちゃんラボを運営し、赤ちゃんが本当に好きな絵本をつくりたいと「赤ちゃん学絵本プロジェクト」を立ち上げる。著書に『日曜ピアジェ 赤ちゃん学のすすめ』『赤ちゃんの不思議』(岩波新書)、『ミキティが東大教授に聞いた赤ちゃんのなぜ?』(中央法規出版)などがある。
東京大学 開一夫研究室 https://ardbeg.c.u-tokyo.ac.jp/ja/top/