絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『ぷくちゃんのすてきなぱんつ』や『いちにのさんぽ』でおなじみの絵本作家ひろかわさえこさんにご登場いただきます。リズミカルな言葉で、子どもだけでなく大人も楽しい気分にさせてくれる、ひろかわさんの絵本。絵本づくりで大切にしていること、子育てについてなど、たっぷりと語っていただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1953年、北海道小樽市生まれ。武蔵野美術大学商業デザイン科卒業。主な作品に「かばくん・くらしのえほん」シリーズ、「おやすみなさいのまえに…」シリーズ、(あかね書房)、「ぷくちゃん」シリーズ、「ことばであそぼ」シリーズ、『あめぽったん』『いちにのさんぽ』『あのやまこえてどこいくの』『ともだちになろうよ』(文・中川ひろたか)(以上アリス館)、『あさですよ!』(鈴木出版)、『声の森』(文・安房直子)、『やさいむらのなかまたち 春』(以上、偕成社)などがある。
▲子どもの一日の生活を楽しいエピソードでつづる『かばくんのいちにち』(あかね書房)
大学を卒業してから10年くらい、月刊絵本の企画と絵の仕事をしていました。絵本作家としてデビューしたのは、30代になってからのことです。動物が好きで、『まるごと・カバ』『ぜんぶ・ゴリラ』など、動物の生態を紹介する絵本のシリーズをつくったんです。そのシリーズの途中で結婚して、子どもが生まれました。
子育てをしながらどうやって絵本をつくっていこうかなと思ったのですが、子どもたちを見ていて、そうか、子どもたちの毎日の暮らしを描いていったらいいのか、と気づいたんですね。それでできたのが、「かばくん・くらしのえほん」のシリーズ。子どもたちにとっては、日常生活の中で出会うことすべてが新しくて、わくわくする冒険でしょう。その“わくわく”を丁寧に拾って描いてあげたら、子どもたちが共感してくれるかな、と思ったんです。
その頃、赤ちゃん向けの絵本をつくりませんかとお話をいただいたんですが、そのときは自分自身が子育てにどっぷりつかっていたせいか、なかなかつくれなくて。「ぷくちゃん」のシリーズは、下の子が幼稚園を卒園する頃につくり始めました。
私は上の娘を34歳、下の娘を40歳のときに生んだんですけど、若いお母さんたちを見ていると、みんな結構まわりを気にしながら生きていて、なんだかちょっとしんどそうに見えたんですね。それで、せっかく絵本をつくるなら、そんなお母さんたちへのメッセージも込められたらいいなと思ったんです。赤ちゃんとお母さんのための絵本という発想で、育児の役に立つ、子育ての道具みたいな絵本をつくりたいな、と。
そんな考えでつくったのが「ぷくちゃん」のシリーズです。「ぷくちゃん」という名前は、赤ちゃんでも発音しやすい音を選んでつけました。ひょうたんのような形は、なでたくなるような形を意識してつくったんですよ。とにかくキャラクターや色を全部、赤ちゃんのそばに置いておきたくなるような、あったかい雰囲気を意識してつくっていきました。
▲赤ちゃんにもお母さんにも人気の「ぷくちゃん」シリーズ。『ぷくちゃんのすてきなぱんつ』、『ぷくちゃんのとことこあんよ』、『ぷくちゃんのたくさんだっこ』、『ぷくちゃんのねんねんぽっぽ』、『ぷくちゃんのいただきまあす』(いずれもアリス館)
私は絵本でそれほどしつけができるとは思っていませんし、しつけっていう言葉自体あんまり好きではないので、そういう本にはしたくないなって思っていたんですね。『ぷくちゃんのすてきなぱんつ』の中に「だいじょうぶ おかわりぱんつ」っていうフレーズがあるんですけど、伝えたかったのはまさにそれです。いいじゃん洗えば、すぐ乾くしねって、そんな風に気楽におむつはずしに取り組んでもらえたらいいな、と思って。
この絵本を読んだお母さんたちからは、「おかげで楽におむつはずしができました」という感想をたくさんいただきました。お母さんが余裕をもって楽しい気持ちで子育てができれば、赤ちゃんも幸せだと思うんです。人間だからイライラすることもあるでしょうけど、できるだけおおらかな気持ちで子どもに接することができたらいいですね。
『ぷくちゃんのすてきなぱんつ』は、年齢によって反応がかなり違うのも特徴なんです。0歳から3歳までの子どもたちに読み聞かせをしたことがあるんですけど、2歳の子たちは笑いもせずに、食い入るように見てくれて。その姿がかわいくてね。あぁこの子たちってなんて真剣に生きてるんだろうって思いました。そんな風に子どもたちの反応も見ながら読むと、楽しいですよ。
▲CDつき歌あそび絵本『あかちゃんとラララ』(チャイルド本社)。詞と絵はひろかわさん、曲は中川ひろたかさん。巻末にはベビーマッサージや手遊びの方法も!
絵本をつくるときに大切にしているのは、言葉の音とリズムです。赤ちゃんはお母さんのおなかの中で、心臓の音を聞いていたわけですから、打楽器のようなリズムはきっと気持ちいいんじゃないかなって思うんですね。だから、とんとん ととんと ととんと ととん……みたいな感じで、声に出しながら、打楽器の音のように言葉をつくっていったりします。
「○○さんが笑いました」っていうよりも「○○さんがにこにこ笑いました」っていう方が、顔が動くでしょう。オノマトペって、声に出すと顔の表情を柔らかくするんですよね。そんなことも考えながら、赤ちゃんにもお母さんにも心地いい言葉を選んでいます。
子どもにとっては、お母さんやお父さんが自分との時間を楽しそうに過ごしてくれていることが、何よりの喜び。だから読むときはぜひ、自分が好きな本を選んでくださいね。好きな本は読んでいて楽しいですから、その方が子どもにも伝わるはずです。
親子の時間をより幸せにする道具としての絵本を、これからもつくっていきたいなと思っています。棚に飾っておかずに、ぼろぼろになるまで使ってもらえたらうれしいですね。
……ひろかわさえこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)