絵本作家インタビュー

vol.45 絵本作家 あきやまただしさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『へんしんトンネル』などでミーテでもおなじみの、あきやまただしさんです。「まめうし」や「たまごにいちゃん」といった、子どもたちに大人気の個性的なキャラクターは、どのようにして生まれたのでしょうか。全国を飛び回っての絵本ライブや子育てにまつわるお話も伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・あきやまただしさん

あきやま ただし

1964年、東京生まれ。東京芸術大学デザイン科卒業。『ふしぎなカーニバル』(講談社)で第14回講談社絵本新人賞、『はやくねてよ』(岩崎書店)で1995年日本絵本大賞受賞。主な作品に「へんしん」シリーズ(金の星社)、「まめうし」シリーズ(PHP研究所)、「たまごにいちゃん」シリーズ(鈴木出版)、「パンツぱんくろう」シリーズ(講談社)、「さかさのこもりくん」シリーズ(教育画劇)などがある。
http://www.akiyama-tadashi.com/

絵本ライブでは子どもたちが大興奮!

絵本作家・あきやまただしさん

年に70回から80回くらい、絵本ライブや講演会で全国を飛び回っています。1年の半分近くはそのために時間を費やしているような感じですね。

絵本をつくる時間がその分少なくなってしまうし、体力的にも結構きついんですけど、それでも続けているのは、自分のつくった絵本を一番楽しい形で子どもたちに届けたいから。1時間半程度のライブを子どもたちに最後まで楽しんでもらいたいので、ただ絵本を読むだけでなく、キャラクターによって声色を変えたり、自作の歌を歌ったり、変装したりと、エンターテイナーに徹しています。

子どもたちの熱狂ぶりはすごいですよ。広い会場であっても、もっと近くで見たいんだって感じで、だんだん僕のところに寄ってきて……最後にはひざの上に座ってたりして。走り回ってる子もいますしね。大きな装置があるわけでもないし、画面も大きいわけではないのに、何なんだこの熱狂は!と驚いてしまうくらい。1時間半、興奮のるつぼみたいになるんです。絵本の力って本当にすごいなって感じますね。

ライブは映画一本分、ずっと演じ続けているようなものなので、本当に体力勝負。でも僕自身、やっている間は楽しくてしょうがなくて、気づくともう1時間半経っていたという感じなんです。日ごろの疲れもとれるし、一番いいストレス解消法になってますね。子どもの反応をダイレクトに感じることができるので、その後の創作のヒントにもなります。なので、今後も体力の続く限りは、絵本ライブを続けていきたいなぁと思っています。

子育ての日々が絵本のヒントに

子どもの頃から漫画が大好きでした。手塚治虫と赤塚不二夫が僕の神様です。大学卒業後は一時期、漫画を描いていたこともあったんですよ。絵本については、杉浦範茂さんやスズキコージさんといった好きな画家が絵本を描いているってことで興味はあったんですけど、実際にやりたいなと思ったのは、子どもが生まれてから。自分が子どもに見せたいと思える絵本がなかなかなかったので、それなら自分で描くしかない、と。

子どもが小さかった頃は、よく下書きの状態のものを見せていました。今日は20本描いたから、まとめて全部読んじゃうよー!って。色のついていないものでも、子どもは絵本と認知して、集中してくれるんですよ。気に入れば、しつこく何度も読んでとせがまれますしね。2~3回読まされたものは、出版社でもOKが出るんです。なので、子どもの一次試験の通ったものを出版社に持っていくような流れになってましたね。

たまごにいちゃん がんばる!たまごにいちゃん
こんにちはたまごにいちゃん たまごねえちゃん

『たまごにいちゃん』『がんばる!たまごにいちゃん』『こんにちはたまごにいちゃん』『たまごねえちゃん』(いずれも鈴木出版)。子どもの成長をあたたかい目で見守りたくなる絵本です。

『たまごにいちゃん』は、息子をモデルにつくりました。うちの息子、母親に「重い重い」と言われるようになっても、抱っこしてほしがってたんですよ。でもあるとき、いつまでも抱っこしてもらっていてはいけないんだと自分で気づいたようで、自分の意志で抱っこを卒業しました。子どもは親に言われなくても、体と心の成長に合わせて、自然体で殻を破っていくことができるんだ―― 息子を見ていてそんな風に思って、そのことを絵本にしたんです。

そんな息子も、来年は高校生。身長も僕より10cmくらい高くなっちゃって、まるでくまさんみたい(笑) 子育ての経験は、僕の絵本のいろんなところに活きていると思います。子どもがいなければ、絵本の仕事はやってなかったですね。

何度も読みたくなる! 声に出して楽しい絵本

声に出して楽しいってことが、僕の絵本の基本です。「誰だれが何なにと言いました」みたいな文は全部とっぱらって、全部セリフだけで物語が流れていくようなものがいいなと思っています。漫画の感覚で言葉を選んでいくので、僕にとってはわりと楽なんですよ。漫画のノリだと、子どもも入り込みやすいですしね。

「へんしん」シリーズはまさに、声に出して読むための絵本。黙読していたら、先に進まないですからね。ライブではいつも、みんなで一緒に声を出して読むんですよ。もともとは、丸い地球を北側から「いかいかいか……」と言いながら回っていって、南側まで来たら「かいかいかい……」となってしまう、という話だったんですけど、編集の方と話していて、トンネルに入る前と出たあとで言葉が反対になったらおもしろいねってことになって。それでできあがったのが『へんしんトンネル』です。

へんしんトンネル へんしんマラソン
へんしんトイレ へんしんコンサート

『へんしんトンネル』『へんしんマラソン』『へんしんトイレ』『へんしんコンサート』(いずれも金の星社)。ページをめくると大変身! 声に出して楽しい言葉遊び絵本です。

反対になる言葉をあげる作業は、最初のうちにやっておきました。シリーズ化するのなら、とにかくたくさんそういう言葉をあげておかないと続かないなと思って、分厚い辞書を「あ」からひいていって……出し切るのに、一週間くらいかかったかな。反対になる言葉はたくさんあるんですよ。「めいとう」が「とうめい」になったりとかね。でも、子どもでもわかって、しかも絵にしておもしろい言葉となると、10分の1くらいになっちゃって。その中から、マラソンとかトイレとかマジックとかでくくって、つなげておもしろくなるものだけで構成していくんです。自分の中では、必ず前作よりおもしろいものをって思いもあるので、結構大変でしたね。

「ひつじぱん」のシリーズも、声に出して楽しんでほしい絵本ですね。文を五七調にしているので、ライブではいつも歌いながら読むんです。パンが焼けたときの「ぱんぱかぱーん」のところは、みんなで一緒に声を揃えて言うんですよ。親子で声に出して盛り上がれるかどうか、絵本をつくるときは常にそこを基点に考えていますね。


……あきやまただしさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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