絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『くまさんアイス』や『ハリネズミのくるりん』などでおなじみの絵本作家・とりごえまりさんです。おもちゃやグッズのデザイナー・プランナーを経て絵本作家になられたとりごえさん。絵本作家になるまでの道のりや、制作裏話、動物愛護のための読み聞かせ活動についてなど、たっぷりお話しいただきました。 今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら)
1965年、石川県生まれ。金沢美術工芸大学商業デザイン科卒業。キャラクターグッズなどのプランナー、デザイナーを経て、『月のみはりばん』(偕成社)で絵本作家デビュー。主な作品に『くまさんアイス』『名なしのこねこ』(アリス館)、『さいたさいた』(金の星社)、「ハリネズミのくるりん」シリーズ(文溪堂)、「ピッケとポッケ」シリーズ(佼成出版社)、『ももんがモンちゃん』(学研)などがある。
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絵本をつくるときは、どういう子のお話にしようかなってところから考えることが多いですね。『ハリネズミのくるりん』の場合は、くるりんと丸まってしまうハリネズミの特徴から、はずかしがりやの子を主人公にしました。『ももんがモンちゃん』は、それまであまり描いたことのない動物を主人公にしてみようと思ってモモンガを選んだんですけど、失敗ばかりでなかなか飛べない子を描きました。
▲『ハリネズミのくるりん』(文溪堂)、『ももんがモンちゃん』(学研)、『ピッケとポッケ』(佼成出版社)、『しんくんとのんちゃん 雨の日のふたり』(アリス館)。どの主人公も、なんだか応援したくなります。
ほかにも、上手に甘えられない猫のピッケとか、心配性のリスのしんくんとか―― 私はなぜか、弱虫な子を主人公にしがちなんですよ。自分の中から生み出すお話っていうのは、自分自身の思いや経験がおのずと出てくるものなので、子どもの頃の自分が反映されているのかな、と思うんですけどね。
私は小さい頃から、何をするにもすぐにはできない子だったんですね。クラスには、それほど勉強しなくても成績がいい子とか、運動がすごく得意な子とか、いるじゃないですか。でも私の場合、勉強はものすごくがんばってやっといい点がとれるくらいで、運動は何をさせてもできなかったんです。
でも、根っからの負けず嫌いだったので、体育の授業で逆上がりができずに悔しい思いをしたときは、日曜日のたびに母と学校の校庭に行って練習しました。高校時代に美大を目指して通っていたデッサンの教室では、一人で夜遅くまで残ってデッサンを続けました。そういう経験があるから、できなかった子ががんばってやっとできる、みたいなお話をついついつくってしまうのかもしれません。
▲とりごえさんが一匹の子猫と出会ったときの実話を絵本にした『名なしのこねこ』(アリス館)
今、うちには猫が3匹いるんですけど、そのうちの1匹が『名なしのこねこ』に出てくる猫です。この猫と出会ったのは6年くらい前のことなんですが、ちょうど、全国の動物愛護センターなどで処分されている動物たちの数が40万匹以上にものぼると知って、ショックを受けていたときでした。公園の近くでやせ細った子猫を見かけたと夫から聞いて、気になって夜中に探しに行って―― 病院で手当てをしてもらって家に連れて帰り、家族の一員として一緒に暮らすようになったんです。
命の大切さを伝えられたらと思って、この猫のことを絵本にしたんですけど、大ヒットするような本ではないんですよ。おもしろくて何度も繰り返し読むような絵本ではないですから。でも、作家という立場を活かして、この本を子どもたちに読み聞かせして伝えていくことはできるかなと、制作しているときから考えていたんですね。それで、全国的に飛び回るのは難しいけれど、せめて自分が暮らす市や町で読み聞かせができればと思って、川崎市の市役所に電話してみたんです。その後、動物愛護センターの方とお会いして、「ふれあい教室」で読み聞かせのボランティアをさせてもらうようになりました。
▲『名なしのこねこ』のモデル、ニヤちゃん
「ふれあい教室」は、動物愛護の心を子どもたちに広めるために、愛護センターの方たちが毎日のように行っている活動です。市内の希望する小学校や保育園にセンターの犬やうさぎ、モルモットなどの動物たちを連れて行って、直接触れ合ってもらうんです。毎日は参加できないので、都合のつくときだけ一緒に行かせてもらって、校庭に動物たちをスタンバイさせる時間を利用して、『名なしのこねこ』を読み聞かせしています。
読み聞かせのあとは、外で死んでしまったり、センターで処分されてしまう動物たちがどれほど多いかという現実を話して、そんなかわいそうな子たちが一匹もいない世の中にするには、どうしたらいいと思う?と子どもたちに質問します。そうすると、「飼ってる人がちゃんと最後まで飼えばいいと思う」と的確に答える子がたまにいるんですね。わかりやすい言葉を使って伝えれば、子どもたちにもちゃんと伝わるんだなぁと、うれしくなりました。
この絵本をきっかけに、動物を捨てるという行為が少しでも減ってくれればいいなぁと思っています。
ときどき仕事の参考にと、図書館に行って絵本を見たりするんですけど、子どもが「これがいい!」って持ってきた絵本を「えー、これ?」と却下してしまうお母さんを見かけることがあるんです。「これは絵ばっかりで文字が少ないから、こっちにしましょう」と、お母さんが選んだ絵本を借りていくんですね。それってちょっとおかしいなと思って。
絵本はそれほど好きではないけれど、教育のために読ませるべきだと思っているお母さんは、もしかすると文章が長めのものをどんどん読んだ方がいいって考えているのかもしれません。でもそれって、絵本の楽しみ方としては違うなと思って。もちろん、文章が長いものでもいい絵本はあるとは思うんですけど、文章がまったくなくてもいい絵本っていうのもあるじゃないですか。絵からストーリーを読みとる力があるというのは、とてもすばらしいことですよね。
子どもはたぶん、絵を見て気に入って「これ!」って選ぶんだと思うんですけど、その子がいいなぁと思うなら、内容はどうであれ、その絵本を読んだらどうかな、と。絵を気に入ればきっとじっくり見るだろうし、そこからお話を想像していく気がします。私自身、子どもの頃そうでしたから。
3、4歳くらいの頃の記憶をたどっていったときに思い出すのは、母に絵本や紙芝居を読んでもらったこと。断片的な記憶でしかないので、ストーリーはあまり覚えてないんですけど、母が絵本を読んでくれているときの部屋の風景や雰囲気は、結構覚えているんですよね。
お母さんやお父さんが子どもと一緒に絵本を読んで、「ここおもしろいね」「ここはこんな風になっているね」とコミュニケーションをとることが、すごく大事だと思うんです。そういう時間は、その子の心に一生残ることなんじゃないかな。だから、親子のコミュニケーションのためのひとつの道具として、これはだめな本でこれはいい本、なんてあまり考えずに、どんな絵本でも気軽に楽しんでもらいたいですね。