絵本作家インタビュー

vol.42 絵本作家 わたなべあやさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、ネバネバ楽しい納豆の絵本『なっとうぼうや』の作者・わたなべあやさんにご登場いただきます。食べ物を主役にしたナンセンス絵本を続々と生み出しているわたなべさんは、ただいま子育て真っ最中。お子さんの表情や言動を絵本づくりのヒントにされることも多いとか。ナンセンス絵本へのこだわりなども伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・わたなべあやさん

わたなべ あや

1978年、東京都生まれ。武蔵野美術短期大学グラフィックデザイン科卒業。大学在学中より絵本の創作をスタート。卒業後は絵本創作ワークショップで学ぶ。主な作品に『なっとうぼうや』『うめぼしくん』(学研)、『トイレでうんちできたかな?』(イースト・プレス)、『おせちいっかのおしょうがつ』(佼成出版社)など。近作に『おとうふちゃん』(学研)がある。現在、学研の絵本雑誌『ほっぺ』で『コアラのココアくん』を連載中。

先生の言葉をきっかけに、絵本の世界へ

『うめぼしくん』

▲おばあさんの作ったうめぼしくんが、間違えて町にやってきてしまい、町中が大騒ぎに!『うめぼしくん』(学研)

子どもの頃から、絵を描くのが好きでした。吃音があったので引っ込み思案になって、いつも家で絵を描いていたんです。小学校低学年から、近所の絵画教室に通っていました。新聞や少女雑誌のイラストコーナーに、自分の描いたイラストを投稿したりもしてましたね。掲載されるとめちゃくちゃ嬉しくて、毎回一人で舞い上がっていたんですよ。

子どもの頃に読んでもらった絵本で一番気に入っていたのは、かこさとしさんの『どろぼうがっこう』(偕成社)です。どろぼう学校の先生と生徒のかけあいとか、思わず笑ってしまうような場面が好きで、何度も何度も読み返しました。普通のお話よりも、『どろぼうがっこう』のように、とんちがきいていたり、ちょっと工夫のある絵本の方が好きでしたね。

絵本作家という仕事を意識するようになったのは、美大の1年生のとき。絵本の好きな先生がいて、その先生の授業で一人一作品ずつ、絵本をつくるという課題があったんです。お話づくりから製本までやったんですけど、私の作品を見た先生が「君なら絵本作家になれる」と言ってくださって。他の方にもそういうことをしょっちゅう言っている先生なんですけどね(笑) 真に受けて、そういう道もあるのかなと思うようになったんです。

本当は、キャラクターデザインの仕事をしたいとずっと思っていて、就職活動でもキャラクター商品をつくる会社の試験を受けたんですけど、最終面接でたくさん吃って、落ちてしまったんです。そのとき、先生の「君なら絵本作家になれる」って言葉を思い出して、じゃあ絵本を描いていこう!と。その後、絵本のワークショップでトムズボックスの土井章史さんに絵本制作について教わり、デビューさせていただきました。

代表作『なっとうぼうや』が生まれるまで

『なっとうぼうや』

▲のったくんが納豆を食べようとしたら、パックの中から歌声が…。『なっとうぼうや』(学研)

『なっとうぼうや』より前に、『うめぼしくん』が学研の月刊誌に掲載されたんです。『うめぼしくん』はもともと、学生時代に課題でつくったお話でした。「日本人としての私」というテーマで作品をつくるという課題で、そのとき梅干しが好きだったので、梅干しを主人公にしてみました。子どもの頃から、小さいものが好きだったんですよ。梅干しみたいな小さな食べ物が動いたら、かわいいなぁと思って。

『なっとうぼうや』については、編集の方からお話をいただいたとき、たまたま夫が納豆を食べていたんですね。それで、じゃあ納豆の絵本にしよう!と思って(笑) 私自身、納豆が好きですしね。もともとは月刊誌の4月号に向けてつくってほしいということだったので、子どもたちが入園式で手をつないでいる様子が頭に浮かんで、じゃあ納豆に手をつながせたらかわいいなってところから、お話を広げていきました。実際には、月刊誌には掲載されずに、すぐ単行本として出版していただいたんですけどね。

主人公をきりんにしたのは、きりんの体の模様がちょっと納豆みたいだなと思ったからです。あと、きりんは首が長く伸びているでしょう。それが納豆が伸びるのと重なるかな、というのもあって。主人公の「のったくん」という名前も、納豆のネバネバ感を意識してつけたんですよ。納豆一粒一粒にも名前や性格を設定して、キャラクターをつくっていきました。細かい設定をすることで、ストーリーに意味が出てくる気がします。

「♪ネバネバネバネバなっとうぼうや、おててつないでネバネバよ」という歌のところは、自分の中で一応メロディがあって……この場ではちょっと、歌えないですけどね(笑) 読者の方たちからも、歌が楽しいという声をいただいています。みなさん好きなように、楽しんで歌ってもらえればと思います。

あと、毎回ストーリーとは関係ないところで、見つけた人がちょっと嬉しくなるような、小さな工夫を入れるようにしています。『なっとうぼうや』にもいくつかあるので、見つけていただけたら嬉しいです!

ナンセンス絵本で、親も子もハッピーに!

『おせちいっかのおしょうがつ』

▲大晦日の夜。重箱の中では“おせちいっか”のみんなも大忙し!『おせちいっかのおしょうがつ』(佼成出版社)

子どもの頃、母方の叔父の家に遊びに行くと、映画のレーザーディスクが山ほどあったんです。そこでよく観たのが、『ラビリンス』『バロン』『スターウォーズ』といったファンタジー映画。叔父や母もファンタジー映画が大好きで、私も夢中になって観ました。ファンタジー映画の中には、ナンセンスとハッピーエンドがあふれているんです。

私のつくる絵本が、必ずナンセンスの話で、最後はハッピーエンド、というのも、その頃に観た映画の影響もあるのかなと思います。単純に、ナンセンスとハッピーエンドが好きというのもあるんですけど、ナンセンス―― つまり笑いと、ハッピー、この二つは人生をより楽しく豊かに生きるために、必要なものだと思うんです。なので、絵本には必ずこの二つを入れたいと思っています。

ナンセンス絵本の魅力は、あっと驚かせる工夫があるところ。普通だったら思いつかないような設定は、ナンセンス絵本ならではですよね。話がどう展開していくのか読めないので、読んでいてワクワクするんです。これからも、かわいいキャラクターの登場する、食べ物のナンセンス絵本をいろいろつくっていきたいですね。

絵本づくりの仕事は終わりがなくて、いったん制作に入ってしまうと、朝から晩まで、夢の中でも、ずっとストーリーを考えています。仕事の区切りがつけられないのが大変なところではありますが、夫にいろいろと協力してもらって、なんとかやってこれました。夫には本当に感謝していますし、おかげで楽しく仕事ができています。

私は、大人が夢を持って、毎日楽しく過ごしていることが大切だなと思っているんです。そうすると、子どもたちもそういう大人になりたいって思うんじゃないかなと。子どもだけでなく、大人もいつも、ハッピーでいたいものですよね。


……わたなべあやさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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