絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、文章専門の絵本作家として活躍する風木一人さんです。『ながいながいへびのはなし』の、あまりにも長いへびの見せ方を思いついたのをきっかけに、絵本作家になられたという風木さん。絵本づくりで大切にしていることや、新作の赤ちゃん絵本の制作裏話など、たっぷりお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1968年、東京都生まれ。絵本の文章作家、翻訳家。主な作品に『たいようまつり』(イーストプレス)、『はっぱみかん』(佼成出版社)、『ぷしゅ~』『おしゃれなのんのんさん』(岩崎書店)、『かいじゅうじまのなつやすみ』(ポプラ社)、『にっこり にこにこ』『わーらった』(講談社)などがある。『ながいながいへびのはなし』(小峰書店)はフランスと韓国でも翻訳出版。訳書に『とりとわたし』(あすなろ書房)がある。
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僕は子どもの頃から、本を読むのが好きでした。だから、野球選手や宇宙飛行士になりたい、と夢見るのと同じような感覚で、小学生の頃から本を書く人になりたいと思っていたんです。成長とともに読む本も変わってくるもので、そのとき読んでいたものを自分も書きたいという気持ちがあって、高校生の頃は小説家になりたいと思っていましたね。
子ども向けの本の作家を目指そうと思ったのは、25歳ぐらいのことです。子どもの頃に読んだ本の影響っていうのは、すごく大きいんですね。大人になってから出会った本も、もちろん感動したり影響を受けたりもしたんですけど、子どものときの没入度というのは、やっぱり特別な感じがして。そういうものが書きたいなと思ったんです。ただ、そのとき目指していたのは、童話や児童文学の作家でした。絵本のことは、すっかり忘れてしまっていたんです。
絵本を思い出すきっかけとなった作品が、『ながいながいへびのはなし』。最初は童話として書こうとしてたんですが、へびのあまりの長さというのを文章だけで表現するのは、なかなか難しくて……。それがあるとき、絵でへびの長さを表現したらどうか、と思いついたんです。画面を上下に分けて、上で頭の話、下でしっぽの話、背景をがらっと変えれば、一場面見ただけで頭としっぽがどれだけ離れたところにいるか、ひと目でわかるな、と。
▲頭がお昼を食べるころ、しっぽは夜の国でぐっすり。大きくなりすぎて、ずっとはなればなれになっていた頭としっぽを描く『ながいながいへびのはなし』(小峰書店)。絵は高畠純さん。
絵と文章を両方使うと、文章だけでは絶対表現できないようなことが表現できる。これが絵本のおもしろさですね。絵本をやろうと決めてから、図書館に行っていろいろな絵本を読んでみたら、実は子どもの頃、絵本も結構読んでもらっていたんだなと思い出しました。
絵本づくりは僕の場合、まずアイデアから。読者対象は何歳くらいか、とか、読者はどういうものをおもしろがるか、といったことよりも、自分が大好き!と思えるもの、これはおもしろい!と思えるものを見つけることが、一番大事ですね。そしてその中から、これは絵本にできるな、というものを題材として、子どもたちに伝わるような形につくりあげていくんです。
自分自身はそれほどおもしろいと思わないのに、子どもはこういうのが好きなんじゃないかな、ということで絵本をつくったりはしません。僕にとってはつまらないけれど、子どもにとってはおもしろいもの、というのも、当然あると思うんですよ。でも、自分自身がおもしろいと思えないと、なかなか本気になれないじゃないですか。やっぱり、これ大好き!おもしろい!って思えるものだからこそ、全力で仕事ができますからね。きっと僕が好きなものは、好きになってくれる子どもがいるに違いない、そんな思いで絵本をつくっています。
そういう意味では僕は、僕とどこか似たところのある子どもたちに向けて、絵本をつくっているのかもしれません。僕が好きなものを、すべての子どもが好きだとまでは思っていないんですけど、僕と似たところのある子どもたちなら、きっと好きになってくれるはずですから。
これからも、子どもたちよりちょっと長く生きている者として、絵本を通じて子どもたちに、生きているとこんなにおもしろいことがあるんだぜ!と伝えていきたいですね。
▲ねこ、いぬ、ねずみなどの動物たちが笑顔になる『にっこり にこにこ』、くつやかばんなど身近な物が笑顔になる『わーらった』(いずれも講談社)。絵は市原淳さん。
先日、僕にとって初めての赤ちゃん絵本『にっこり にこにこ』と『わーらった』が出版されました。「笑顔」を題材につくった絵本です。
赤ちゃん絵本をつくってみたいという気持ちは、以前からあったんですよ。ただ、赤ちゃんにとってもうれしくて、僕にとってもうれしいというものが、なかなか見つからなかったんです。3~4歳の子どもの気持ちは、自分の記憶を頼りに想像することができるんですけど、赤ちゃんの頃のことはさすがに思い出せませんからね。
でも、何も難しいことではなくて、「笑顔」という実に単純なものに、その共通点を見つけることができました。笑顔は、大人である僕にとっても赤ちゃんにとっても、魅力的なものですよね。これなら赤ちゃん絵本にできるな、と。
自分と読者とが共有できるおもしろいもの、うれしいものを見つけるということが、絵本づくりの中で一番大変なところだと思います。それさえ見つければ、あとはそれをどう見せるかという技術的な問題になってくるので、それほど苦労しないことが多いですね。
この2冊は、ページをめくったときの変化を意識してつくりました。めくったときに変化することこそ絵本の魅力なので、何か他の表情から、めくるとパッと笑顔が出てくるようにしようと考えたんです。『わーらった』の方は、泣いている顔から笑顔。『にっこり にこにこ』の方は、あまりうれしそうではない顔、ちょっと不満があるのかな?みたいな顔から、にっこり笑顔になります。
赤ちゃんを見ると、誰もがにっこりしてしまいますよね。難しいことを考えているときでも、赤ちゃんのぷっくりした手足や、柔らかそうな髪の毛、つぶらな瞳を見たとたん、思わず口元がゆるんで、にっこりしてしまう。赤ちゃんは、いろんな人が自分をのぞき込んでにこっとなる瞬間を、いっぱい見ているんだろうなと思うんです。最後のページは、みんなそろってにっこり。お母さんやお父さんにも、この絵本好きだなぁって思って読んでもらえたらうれしいですね。その思いは、きっと赤ちゃんにも伝わるんじゃないかなと思います。
……風木一人さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)