絵本作家インタビュー

vol.39 絵本作家 川端誠さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『じゅげむ』をはじめとした落語絵本シリーズでおなじみの川端誠さんです。絵本に込めたメッセージを伝えるべく、全国各地に赴いて自作絵本の「開き読み」を続けている川端さん。絵本作家になられた経緯や、代表作の制作裏話など、たっぷりと語っていただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・川端誠さん

川端 誠(かわばた まこと)

1952年、新潟県生まれ。82年、デビュー作『鳥の島』(BL出版)で第5回絵本にっぽん賞を受賞。「落語絵本」シリーズ(クレヨンハウス)、「お化け」シリーズ「野菜忍列伝」シリーズ「風来坊」シリーズ(BL出版)、『りんごです』『バナナです』『いちごです』(文化出版局)など、作品・シリーズごとに表現方法をがらり変えて、多様な世界を展開している。制作裏話などのトークをはさんだ自作絵本の「開き読み」や、絵本作家ならではの絵本解説も好評。

越えられない作品『鳥の島』

『鳥の島』

▲新聞紙を原料とした自家製紙粘土で半立体の原画をつくり、それを写真で撮って制作したという、川端さんのデビュー作『鳥の島』(BL出版)

絵本作家になりたい、と思ったのは、美大2年生のときです。授業で先生が、レオ・レオニの『フレデリック』を読んだんですよ。それまで、絵本は童話や昔話に挿絵をたくさんつけたもの、というイメージだったんですけど、レオニのはまったく違っていて……まるごと自分の世界なんですね。シンガーソングライターみたいだな、と思ったんです。これこそ自己表現の場だな、と。

『鳥の島』は、レオニの『スイミー』からアイデアのヒントを得ました。小さな魚が集まって大きな魚に見せるシーンを見て、小さな鳥が集まって大きな鳥になって空を飛ぶというオチが頭に浮かんだんです。鳥が海の向こうに憧れて、群れを離れていくというストーリーは、そこから逆算して考えていきました。

群れから離れるっていうのは無謀なことで、言ってみたら阿呆者。でも、そんな常識はずれなことでも、繰り返し挑戦していけば、いつか成功することもある。一回一回のチャレンジは無駄じゃないんですよ。無数のチャレンジが支えとなって、最後の成功がある――これが、『鳥の島』で描きたかったことです。

背景は、エッシャーの『昼と夜』という絵を見てひらめいて、格子模様を進行方向を向いている鳥として描きました。鳥が海に落ちていくごとに、下向きの鳥の模様が白く染まっていく。やがて海の底を死んだ鳥たちが埋めつくして、海面に島ができる。そのとき、力尽きそうになった一羽の鳥が、その島を見つけて、羽を休めるんですね。ここでの模様の向きは真横。そして、鳥が飛び立つと、模様も上向きになります。そして、大波で砕けた島が鳥の姿になって、空へと舞い上がっていく。裏表紙では、一羽の鳥がとうとう新天地にたどり着きます。

これより自分をちゃんと出せた本はないですね。もう僕はこの本は越えられないと思っています。

小学生も大爆笑!『りんごです』に込めた思い

小学校で絵本を読む機会があると、必ずやるのが『りんごです』『バナナです』『いちごです』の3冊。表紙の「りんごです」ではまだ笑わないけれど、めくって「りんごです!」、さらにめくって「りんごです!!」……と続けていくと、もう大爆笑。次に「バナナです」と続けると、さらに大爆笑ですよ。

りんごです
いちごです
バナナです

▲ミーテでも大人気! 赤ちゃんから楽しめる川端さんの絵本『りんごです』『いちごです』『バナナです』(文化出版局)

りんごをかじると、中に10粒の種が入っている。その一粒をまくと、芽が出て、花が咲いて、実がなって……そのどれもがまぎれもなく「りんご」です。赤くても、青くても「りんご」。これは、「人間です」っていうのを描いてるんですよ。赤ん坊も、子どもも、若者も、大人やお年寄りも、みんな「人間」。肌の色が違っても「人間」。赤ん坊の絵に「赤ちゃんです」、子どもの絵に「子どもです」だと、図鑑になっちゃうでしょう。「人間です」と言い切るところに価値があるんです。

絵本作家・川端誠さん

『バナナです』は、相性を描きました。ぞうはバナナが好き? 猫は? チンパンジーは? 犬は?……なんて感じで。バナナを食べない猫に対して、「僕はきいろい鰹節です」なんてごまかす必要はない。苦手な相手にも、バナナですって自分をちゃんと名乗れるようにしないとね、と。

『いちごです』では、いちごが形を変えていきます。アイスクリームやシロップ、ショートケーキ、ジャム……でも、本当は何もつけない、そのままのいちごが一番おいしい。子どもたちには、こんな風に話します。君たちも大人になっていろんな立場になったり、いろんな役目につくかもしれないけど、肝心なのは外側じゃなくて中身なんだよ、だから君たちも自分の味を持ってね、と。

形が変わろうが、相性がどうであろうが、どう加工されようが、本質を失ってはならない、という思いを込めた3冊です。

絵本を読みあう、その時間が大事

絵本作家・川端誠さん

絵本は文学というより、演劇とか映画とかに近いものだと思うんです。絵に台詞がついてるわけだから。落語にも近いですね。時間にすれば10分くらいで終わるでしょう。その「間」を楽しむものなんですよ。絵の間や言葉の間を楽しむもの、やりとりを楽しむもの、読んでくれる人の息づかいを楽しむもの。親が自分のために声を出して読んでくれているってことを、楽しむもの。絵本はそういうものなんです。

だから、自分が楽しいと思う絵本を、自分が楽しんだように読めばいい。内容は二の次です。内容よりも、読んでくれた人の価値観が伝わるんですから。お母さんだけでなく、お父さんも読みましょう。お父さんの方が、子どもと一緒に過ごす時間が少ないんだから、お母さん以上に読んであげてください。

僕は、毎日最低5冊は読んでいました。残業はせずにさっさと家に帰って、風呂に入って7時くらいには家族そろって晩ごはん。そのあとトランプとか将棋とかやったりして、子どもたちが寝る8時半くらいに絵本を読む。そんな暮らしをしていれば、子どもとの会話がないなんてことにもならないですよ。

今の時代、家族と一緒に晩ごはんを食べられないお父さんも多いだろうけど、そういう社会はおかしいと思うんです。絵本を読んだり、ごはんを一緒に食べたり……その時間こそ大事。そういう最高の時間を、大切にしてほしいですね。


……川端誠さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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