絵本作家インタビュー

vol.38 絵本作家 たかいよしかずさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、ちょっとおとぼけだけれど、楽しいことが大好きな“くろくまくん”を描く「おはなし・くろくま」シリーズが話題の、たかいよしかずさんです。キャラクターデザイナーとしても活躍されるたかいさんが、絵本を通じて伝えたい思いについて語ってくださいました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・たかいよしかずさん

たかい よしかず

1961年、大阪府生まれ。明治「マーブルチョコレート」キャラクターの「マーブルわんちゃん」、大阪千日前商店街のマスコットキャラクター「みにゃみん」など、多くのキャラクターデザインを手がけるとともに、イラストレーターとしても活躍。主な作品に、「怪談レストラン」シリーズ(松谷みよ子責任編集、童心社)の装丁・挿し絵、『ネコダルマンの宝島』(青心社)、「おはなし・くろくま」シリーズ(くもん出版)などがある。(株)京田クリエーション所属。http://www.nekodaruman.net/

絵本づくりで一番のこだわるのは「色」

絵本づくりで僕が一番こだわるのは、色です。「怪談レストラン」のシリーズでは装丁も手がけていたので、表紙の色など、毎回こだわってつくっていましたしね。

「おはなし・くろくま」シリーズも、色には随分こだわりました。もともとくろくまくんは、絵本になる前から4コマ漫画として描いていたんですけど、そのときから色は2色だけと決めていたんです。黒と何かもう1色。『おさんぽ くろくま』なら黒と赤、『うみべの くろくま』なら黒と青、といった感じで。このシリーズは今度、「PARIKUMA(パリクマ)」としてフランスでも出版されることになったんですけど、それもこの2色刷りというシンプルさがよかったんじゃないかなと思ってます。

おさんぽ くろくま
ゆきのひ くろくま
うみべの くろくま

▲こだわりの色にも注目して楽しみたい「おはなし・くろくま」シリーズ。『おさんぽ くろくま』『ゆきのひ くろくま』『うみべの くろくま』(くもん出版)

表紙の色も、最初からこの色っていうイメージがありました。もともとくろくまくんで春夏秋冬の4冊、出せたらいいなと思っていたんですね。それで、4冊出すなら表紙の色はこんな4色がいいな、その4色が店頭に並んだらきっときれいにちがいないって、強く思っていて。やっぱり色の組み合わせってすごく大切だなと、改めて実感してます。

ストーリーは、編集の方の意見も聞き入れながら、結構変えたりしましたね。特に『うみべの くろくま』については、最初につくったお話からごろんと変わりました。黒と青で夏をテーマに、と考えていたので、最初はクジラが出てくるお話をつくったんですけど、編集の方から「もうちょっと何かできませんか」って言われて。それで、星空のお話も考えたんですけど、また「もうちょっと何かできませんか」って押してこられて(笑) それでやっぱり海に戻って、考えなおしたんです。ペンギンがたくさんいるページの絵を描いたとき、このお話が一番おもしろいなって自分でも思えました。

『ゆきのひ くろくま』にも、ゆきだるまがたくさんいるページがあるんですけど、実はひとつだけ、顔の違うゆきだるまがいるんですよ。あと、カバーをめくった人だけが気づくような何かを仕込むこともあります。僕からの、ちょっとしたサプライズ。気づいてもらえたらうれしいですね。

絵本を通して、やさしい気持ちを伝えていきたい

絵本作家・たかいよしかずさん

僕はアニメ世代なんで、子どもの頃はいろんなアニメや漫画を見ていました。当時のアニメや漫画って、愛と友情とか、努力、根性みたいなのが満載だったでしょう。そういうのを見て、感動してぼろぼろ泣いてたんですよ。絵本でも、そのくらいの何かを伝えられたらすごいなって思うんやけど、でもまず一番に伝えたいのは、やっぱり人に優しくってことですね。

僕はどちらかといったら、いじめられっ子だったんです。背が低かったのに「たかい」なんて名前やから、どこ行っても「ひくいや、ひくい~!」なんてからかわれたりして。それほど陰湿ないじめはなかったけど、それでもやっぱり、自分がされていやなことは絶対人にしたらあかん。人間として基本的なことですから、それををまず絵本を通して伝えていければと思います。

僕の名刺の肩書きは、イラストレーターでもデザイナーでも絵本作家でもなくて、「HAPPY CREATOR(ハッピークリエイター)」なんです。絵本だけじゃなくて、アニメや映画もつくってみたいし、テーマパークとか自分の美術館とかもいいなぁと思うし……やりたいことは、ほんまにいっぱいあって。これからも、絵を描くことだけじゃなくて、いろんなことをして人を喜ばせていきたいですね。人が喜んでくれるというのが、自分にとってもうれしいことですから。

子どもにいろんな世界を見せてあげよう

絵本作家・たかいよしかずさん

僕がこの道を進んでいるのは、母親の影響が一番大きいんですよ。母は洋裁の先生をしていて、家の本棚には図案集とかがいっぱいありました。それがすごくおもしろくて、よく見てたんです。それに、かごを開けるといろんな色の糸や布がたくさん入っていて、すごくきれいで……そういうところから、色とか絵に興味が湧いていったのかなと。

父は出不精な人だったんですけど、母は僕と弟をいろんなところに連れて行ってくれました。京都や奈良のお寺とか、機関車を見られるところとか。そういうのって、結構覚えているものですね。僕は、今の自分の90%くらいは子どもの頃の体験からできてると思うんですよ。そのあとの経験でてきたのは、残りの10%くらい。だから、子どものうちにどれだけいろんなことを体験させてあげられるかっていうのは、すごく大事やと思います。子どもたちには、いろんな世界があるんやってことを知ってほしいし、その中から自分が好きなものは何かっていうことを言えるような子どもになってほしいなと。

僕がもし、おじいさんになってもまだ絵を描き続けていたら、子どもみたいな絵を描ける人になりたいですね。大人の絵って、考えがいろいろ入りすぎていて、しんどいんですよ。でも、子どもの絵はそんなこと何もなくて、これがおもしろいやん、かわいい、すごい!とか、そういうのがそのまま出てる。そんな風に描くのが一番楽しいと思うし、見る方も元気になるじゃないですか。描いたものを通して人を楽しませたり、元気にさせてあげたりできたら、それがハッピークリエイターの使命やなって思います(笑)


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