絵本作家インタビュー

vol.35 絵本作家 真珠まりこさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、「もったいないばあさん」シリーズでおなじみの真珠まりこさんです。「もったいないってどういう意味?」というお子さんからの問いかけをきっかけに生まれた『もったいないばあさん』。もったいないばあさんを通じて、真珠さんが子どもたちに伝えていきたいメッセージとは……?
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・真珠まりこさん

真珠 まりこ(しんじゅ・まりこ)

神戸生まれ。神戸女学院大学、大阪総合デザイン専門学校卒業。夫の米国勤務に伴い、1994年から2年間をニューヨークで過ごし、パーソンズデザイン学校で学ぶ。98年、『A Pumpkin Story』(2000年に『かぼちゃものがたり』(学研)として日本でも出版)で絵本作家デビュー。主な作品に『もったいないばあさん』(講談社、第15回けんぶち絵本の里大賞受賞)、『おべんとうバス』(ひさかたチャイルド)、『チョコだるま』(ほるぷ出版)などがある。http://www.marikoshinju.com/

子どもが生まれた年に、アメリカで絵本作家デビュー

かぼちゃものがたり

▲日本でも出版された真珠さんのデビュー作『かぼちゃものがたり』(学研)

子どもの頃から、似顔絵を描いたりお話をつくって巻物みたいにしたり、イラストを描くのが好きでした。大学卒業後、まもなくして結婚したのですが、主人は転勤族。これでは何をしようにも転勤のたびに途切れ途切れになってしまう……そんな風に悩んでいたとき、電車でばったり高校時代の友達と会ったんです。彼女がイラストレーターとして働いていると聞いて、それまで身近になかった"絵を描く仕事"がぐっと身近になりました。これならどこに住んでいても続けられるんじゃないかと思ったんです。

その後、専門学校に通って絵本づくりを学び始めました。途中、主人が東京に転勤になったときは、悩んだ末に主人を一人で東京にやり、勉強を続けることにして……子どもがいないのに単身赴任!?という感じでしたが、やり遂げたいという気持ちが強かったんです。おかげで卒業できました。さすがにそのときは、主人を単身赴任させてまで学校に行ったのだから、絵本作家にならなくては申し訳ない、と感じていました。

それから東京に来て、イラストの仕事をしながら、出版社に持っていけるような絵本をつくろうとしていたのですが、主人が今度はニューヨークに転勤になって。ある出版社の編集者さんが私の作品に興味を示してくれて、すぐには出せないけれどやってみましょうか、と言ってくださった矢先のことだったので、日本に残るかどうか悩みましたが、アメリカに住む機会もめったにあるものではないと思い、行くことにしました。

アメリカでは、美術大学の生涯学習のクラスで絵本づくりを学びました。そこで出会った人たちはみんなポジティブで、私がアメリカでの出版なんて恐れ多くてむりと言っていたら、「どうしてやってみないの? 失うものなんてないでしょ?」と言われて……そのとおりだな、と思いました。それで、クラスで作った作品をいくつかの出版社に投稿したのですが、興味があると言ってくれたところもあったものの、結局うまくいかないうちに、帰国することになったんです。

帰国後、まだ返事をもらっていなかった出版社があったので、あきらめずにメールを送りました。そうしたら、まもなく返事がきて出版が決まって…… 本当にうれしかったですね。そうしてできあがったのが『A Pumpkin Story(パンプキンストーリー)』です。ちょうど子どもが生まれた年に、アメリカで出版されました。

息子の一言からできた『もったいないばあさん』

もったいないばあさん

▲真珠さんの代表作『もったいないばあさん』(講談社)。ものを大切にする心がそだつ絵本です

『もったいないばあさん』は、息子の一言をきっかけにつくった絵本です。ある日、息子がごはんを残していたので、「残さず全部食べてね」と言ったら、「どうして残しちゃいけないの?」って。「もったいないからよ」と答えたら、「もったいないってどういう意味?」と聞かれて。当時息子は4歳で、いろいろ質問攻めにしてくる年頃だったんですね。いつもすぐに答えていたんですけど、そのときだけは他に置き換える言葉が見つからなくて、答えにつまってしまったんです。

そのときは、「このごはんやおかずは、まず農家の人が、雨の日も風の日も田んぼや畑に行って、おいしくなるようにって一生懸命育ててくれたものなの。それにお父さん、朝早く出て遅くまで帰ってこないでしょう。そうやって一生懸命働いて、いただいたお金で材料を買って、お母さんが、おいしく食べてもらえたらいいなと思ってお料理したの。それでも残して平気?」って聞きました。そうしたら息子は「ううん」って。「それがもったいないっていうことなのよ」って言ったものの、説明が長すぎてよくわからない様子でした。

小さい子は、長々と説教くさく言っても途中で聞かなくなってしまうし、理解できないかもしれないけど、心で思うように、イメージで理解できるように、絵本で伝えたらいいんじゃないかなって思ったんです。もっとわかりやすく伝えられないかなって。そんな思いでつくったのが『もったいないばあさん』です。

絵本で伝えたい 大切なメッセージ

もったいないばあさんの いただきます

▲シリーズ最新作は楽しい食育絵本『もったいないばあさんの いただきます』(講談社)

6月に出た新作『もったいないばあさんの いただきます』は、食育につかっていただけそうな絵本です。「にんじん きらい ピーマン きらい ほかのやさい も ぜんぶ きらい もったいない!」―― 野菜もお肉もお魚も、わかめもひじきも、パンやご飯も、それぞれ役割があって、バランスよく食べるのが大事なんじゃよって、もったいないばあさんが教えてくれます。

『もったいないばあさん』は朝日小学生新聞や毎日新聞など、いろんなところで連載してきました。「もったいない」のネタを毎週のように、おもしろく描くというのは大変ですが、いつも「もったいない」を意識して生活するようになりました。

絵本以外にも、地球環境パートナーシッププラザと一緒に、昨年から「もったいないばあさんのワールドレポート展」という展示会を始めて、全国を巡回展示しています。気候変動、環境問題、戦争、貧困など、いま地球で起きている問題の全体像と、子どもたちを取り巻く世界の現状を、もったいないばあさんのメッセージとともに紹介する展示会です。地球上で起きている問題は、自分たちとは関係ない話ではなくて、私たちの暮らしともつながっているんだよ、ということを、もったいないばあさんをガイド役として伝えています。

一番伝えたいメッセージは、「命が一番大切なんじゃよ」ってこと。 「もったいない」というのは、もともと仏教の言葉で、命の大切さを表す言葉だそうなんです。いま地球で起きている問題は、命をまず一番に考えていたら、起きなかったと思われることばかり。 ワールドレポート展の活動も含め、『もったいないばあさん』は今後もライフワークとして続けていきたいですね。


……真珠まりこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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