絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『そらまめくんのベッド』でおなじみの絵本作家・なかやみわさんです。「そらまめくん」以外にも、「くれよんのくろくん」「ばすくん」「こぐまのくうぴい」など、たくさんの親子に愛されるキャラクターを生み出しているなかやさん。絵本制作エピソードやご自身の子育てについて、楽しくお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。 (【後編】はこちら→)
1971年、埼玉県生まれ。女子美術短期大学造形科卒業。企業のデザイナーを経て、絵本作家に。作品に「そらまめくん」シリーズ(福音館書店・小学館)、「くれよんのくろくん」シリーズ(童心社)、「こぐまのくうぴい」シリーズ(三起商行)、「おばけのぽぽ」シリーズ(ブロンズ新社)、「きりかぶ」シリーズ(偕成社)など多数。『くれよんのくろくん』で第12回けんぶち絵本の里大賞受賞。
子どもの頃に好きだった絵本は、『だるまちゃんとてんぐちゃん』。かこさとしさんの絵が大好きで、てんぐちゃんのうちわや帽子がカタログみたいにいっぱい描かれているのを何度も何度も飽きずに見ていました。絵を描くのが好きだったので、真似して描いたりもしていましたね。
キキララなどのキャラクター商品も大好きでした。そういうものに囲まれて過ごすうちに、自分も将来はキャラクターのイラストを描くような仕事をしたいなぁと夢見るようになったんです。そのまま自然な流れで美術系の短大に入って、卒業後はキャラクター商品を扱う企業にデザイナーとして入社しました。
ただ、実際に企業でキャラクター商品を手がけるとなると、それまで自分が思い描いていたものとギャップがあって……せっかく新しい商品が店頭に並んでも、動きが悪ければすぐ撤退という感じで、とてもサイクルが早いんですね。企業なので利益を追求するのは当然なんですが、そんなにすぐやめてしまうのではなく、もっと作りこむことができたらいいのに、と思うようになったんです。
そんな風に悶々としているとき、キャラクターづくりの参考にと、書店の海外絵本のコーナーに行ったんですね。『ぞうのババール』や『おさるのジョージ』など、海外の絵本にはキャラクター性の強い絵本がわりと多いので、参考になるんです。そこで気づいたのは、これらの絵本が、非常に長く愛されているということ。日本の絵本のコーナーには、私が子ども時代に大好きだった『だるまちゃんとてんぐちゃん』や『ぐりとぐら』『ぐるんぱのようちえん』などが、まるで新刊のように並んでいました。どれもあまり時代を感じさせないものばかりで、普遍的なものを感じたんですね。それで、私もこういう、長く愛される絵本を描きたい、と思うようになったんです。
それからは、働きながら土曜日に絵本づくりのスクールに通って基礎を学びました。スクールに1年間通ううちに、ますます絵本の世界に引き込まれて、やっぱり絵本をやりたいと気持ちが固まったので、思い切って会社を辞めたんです。チャレンジしてみて、だめだったら再就職すればいいやっていう気持ちでした。そのあと初めて出版社に持ち込んだ絵本が、『そらまめくんのベッド』だったんです。
▲なかやさんのデビュー作『そらまめくんのベッド』(福音館書店)。頭に黒いすじのある、楽しい形のそらまめくんと、その仲間たちのお話。
そらまめくんはもともと、企業のデザイナーとして仕事をしていた頃に生まれたキャラクターだったんです。コンペで提案したものの、採用されずにひっそり眠っていたんですね。でも自分としてはとても思い入れのあるキャラクターだったので、絵本の中でよみがえらせてあげようと思って、そらまめくんのお話をつくりました。
そもそも、なぜ豆をキャラクターにしたのかというと、私は前からあの豆の形が好きだったんですよ。コロコロとしていて、かわいいでしょう。それと、実家で両親が家庭菜園をしているんですが、そこでいろいろな種類の豆を育てていたんです。母が収穫しているのを見ていて、ピーナッツは土の中でできるということや、さやえんどうの花はスイートピーに似ているといったことを知りました。
そらまめについては、ある日母に頼まれて、さやをむいたんですね。そのときに初めて、そらまめってこんなふわふわしたさやに収まってるんだって知ったんです。なんて贅沢な豆なんだろうと、驚きました。さやに収まっている姿はなんだかベッドの中で寝ているような感じで、おまめに顔を描いたらすごくかわいいだろうなと思ったんです。『そらまめくんのベッド』はそんな風にして、もともと豆好きなこととも重なって、すんなりアイデアが湧いてきてできあがったお話なんですよ。
絵本づくりの中で心がけているのは、子どもたちにきちんと伝わる絵本にする、ということ。絵本の中にどっぷり入り込んで、その世界観を楽しんでもらうために、言葉選びにしても画面展開にしても、いつも明快でわかりやすい絵本づくりをしようと気をつけています。
どんな風に絵本をつくっていくかというと、まず最初にざーっとお話をつくって、そのあとページ割りをするんですね。そこでざっくりしたラフを描いて、それを何回も何回も読んでみるんです。その時点では、まだ思いついたままの文章で、言葉も選んでいないので、余計な文章も多いんですよ。展開についても、ここはいらないなっていうダブついてる部分もあれば、もう1ページ入れないとわかりにくいなという部分もあります。ラフをざっくり描くことで、そういうのが見えてくるんですね。こうして何度も描き直しながら、言葉をきちんと選んだり、どういう場面を描いたらいいかを厳選したりして、だいたい32ページに収めていきます。
実は、絵本づくりの中でこの作業が一番大変なんですよ。原画を描くよりも、時間がかかるんです。でも、ラフの段階できちんとしたものをつくっていないと、本にしたときに非常に弱くなってしまうので、この作業はいつもきちんとやるようにしています。
……なかやみわさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)