絵本作家インタビュー

vol.22 絵本作家 村上康成さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、「絵本も描けるウクレレ釣り師」との異名を持つ絵本作家・村上康成さんです。村上さんが絵本作家になったのは、ある1冊の絵本との衝撃的な出会いがきっかけでした。魚釣りと絵を描くことが好きだった少年時代や、絵本づくりにおけるこだわり、遊びをとことん楽しむ極意など、たっぷりと語っていただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・村上 康成さん

村上 康成(むらかみ やすなり)

1955年、岐阜県生まれ。創作絵本、ワイルドライフ・アートなど幅広い分野で独自の世界を展開。『ピンクとスノーじいさん』『ようこそ森へ』(いずれも徳間書店)、『プレゼント』(BL出版)でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞、『なつのいけ』(ひかりのくに)で日本絵本大賞などの受賞を重ねる。そのほか『青いヤドカリ』(徳間書店)、『くじらのバース』(ひさかたチャイルド)、『カッパがついている』(ポプラ社)、『星空キャンプ』(講談社)、「ピーマン村の絵本たち」シリーズ(童心社)など作品多数。

色も形も“粋”にこだわる

『おおきくなるっていうことは』

『おおきくなるっていうことは』(文・中川ひろたか、童心社)。中川さんとの共作「ピーマン村の絵本たち」は保育園の行事にちなんだ季節感たっぷりの人気シリーズ。

もともとデザインに興味があったので、色や形にもこだわっています。色に関しては、自然の風景に勝る色はないから、自然に近づくなんてつもりは、はなからないんですよ。ただ、色も形も“粋”なことをしていたいなと。

魚釣りの話に結びついてしまいますが、毛ばりをつくるじゃないですか。夏は水中の虫がほとんどいなくなるので、魚はみんな上を向いて、アリなどの陸生昆虫が流れてくるのを待つんですね。それでアリの毛ばりをつくるんですけど、リアルにつくったアリと、真っ黒いお尻だけぽこっとつくった、デフォルメされたアリと、どちらに魚が食いつくかというと、意外とリアルな方ではなくて、デフォルメされた方なんですよ。女性のヌードのイラストでも、リアルに描かれたものよりも、ボンキュッボン!みたいなものの方が、パッと見たときにドキッとなるでしょう(笑)。

だから僕の絵は、どんどん研ぎながら、丸か三角かっていうくらい、シンプルにしていく方向にあります。一見シンプルなんだけれど、いろんな要素が込められている絵にしたいんですね。

色についても、読み手をぐっと惹きつけるような手練手管が僕の中にあるんですよ。ピーマン村のシリーズなんかはわかりやすいんですが、場面によって背景の色をがらっと変えるんです。パッと黄色を使ったり、突然真っ白にしたりね。絵柄とは別に読者に届く大切な感覚の情報なんです。

日本人は本来“粋”なデザインを得意としてると思うんです。着物なんかもその最たるものですよね。そういう“粋”な色や形というのを忘れずに継承していきたいなと思いますね。

「ただ楽しむ」それが大事

『くじらのバース』

『くじらのバース』(ひさかたチャイルド)。南の島に住む野球少年ナリンと、ザトウクジラのバース。地球という星の上で出会った二人の物語。

うちの娘は小さい頃、せなけいこさんの『ねないこだれだ』が大好きでした。旅行中もずーっと持ってるんです。ぬいぐるみと同じように、持っていると安心したんでしょうね。僕自身の記憶に残っているのは、絵本ではないけれど、幼児雑誌「めばえ」です。中身は全然覚えていないんだけど、小学校低学年の頃、よく「めばえ」を持って空を飛ぶ夢を見たんですよ。本を開いて頭上にかざすと、すうっと浮かび上がって、空を飛ぶように友達の家や川の方に遊びに行ける……そんな夢でした。小さい頃の楽しい記憶が残っていたから、夢にも出てきたのかもしれません。

絵本はいわば、楽しみがいっぱいつまった器のようなものです。だから、読み聞かせも楽しんでほしいなと思います。読み聞かせのブームはいいんですけど、それがかえってプレッシャーになって、「絶対読み聞かせをしなきゃいけない」と思っている人もいるじゃないですか。でも、「しなきゃいけない」となるとつらくなっちゃうし、続かないですよね。楽しいから読む、それだけでいいんです。読み聞かせに限ったことではないですけど、「楽しむために」というのが大事。「子どもを育てるために」ではなくて、親も楽しまないと。楽しんでる親のそばにいれば、子どももきちんと育つと思いますよ。

僕自身は、楽しむどころかボロボロになりながら絵本をつくっていますけど、ボロボロになった先の、究極の楽しさっていうのがあるんです。生みの苦しみは、毎回感じていますよ。ときどき「釣りをやっていて突然絵本のアイデアが浮かんだりしますか?」なんて聞かれるんだけど、釣りをしているときは釣りに集中してるので、仕事のことなんて一切考えません。ただただ自然や魚たちと格闘するだけ。人生でそれほど集中する時間はないかもしれないってくらい。ヘトヘトになるまで、一生懸命遊んでますよ(笑)

子どものうちはしっかり遊んで五感を磨こう

絵本作家・村上康成さん

▲ヤマメを釣った村上さん。釣りのときは、五感を研ぎ澄ませて、集中して挑むそうです。

仕事が一段落つくと、釣り仲間と遊びに出かけるんです。ロッキー山脈の3000m以上のところまでゴールデントラウト(金の鱒)を釣りに出かけたり、モンゴルに幻の魚イトウを釣りに出かけたり。僕は小さい頃から自然の中で遊んでいたので、釣りをしてるときは、頭だけじゃなくて五感が全部働くんですね。「釣れるぞ」って感じるんです。自然の中で暮らしてる人って、みんなそういうのを持ってるんですよ。

子どもたちには、まずはたくさん遊んで体全体の機能をフル稼働させて、敏感で、健やかな体をつくってほしいですね。本を読むのはそれからでいいんです。遊びの中で、無意識のうちに感性が磨かれていきます。外で遊ぶことで、体中のセンサーを成長させるんです。たくさん遊んで五感を磨いている子が絵本を1冊読むのと、そうでない子が読むのとでは、感じるものも違ってくるはずです。

だから僕は、講演会で子どもたちに話す機会があると、「遊べ遊べ」と言っています。「たくさん遊べばかっこいい生き物になれる、そうするとなんでもおいしく食べられるし、いろんなことが楽しくなるよ」と。全身を使うって、すごくうれしいことなんですよ。


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