絵本作家インタビュー

vol.19 絵本作家 かがくいひろしさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、おもち、やかん、だるまさんなど、ユニークな登場人物が繰り広げる奇想天外な絵本で人気急上昇中の絵本作家かがくいひろしさんです。絵本づくりの発想の原点にもなっている人形劇についてや、人気の「だるまさん」シリーズの誕生エピソード、絵本の魅力など、楽しく語っていただきました。
今回は【前編】をお届けします。 (【後編】はこちら→

絵本作家・かがくいひろしさん

かがくい ひろし

1955年、東京都生まれ。東京学芸大学教育学部美術学科卒業後、学校勤務のかたわら、人形劇の活動や紙を使った造形作品の制作、発表を行う。第13回紙わざ大賞展準大賞受賞。第26回講談社絵本新人賞佳作受賞。『おもちのきもち』で第27回講談社絵本新人賞を受賞し、2005年、50歳で絵本作家としてデビュー。主な作品に『はっきよい畑場所』『もくもくやかん』(いずれも講談社)、『おむすびさんのたうえのひ』『なつのおとずれ』(PHP研究所)、『だるまさんが』『だるまさんの』(ブロンズ新社)などがある。

絵本づくりの原点となったオリジナル人形劇

※かがくいひろしさんは2009年9月28日にご逝去されました。故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。

父親が建築士で、隣が大工さんという環境で育ったからか、僕は小さい頃からカンナを使うのが好きだったんです。木片を拾ってきては、船をつくったりしてね。大工さんが線をひくのに使う墨壷に憧れたり、畳屋さんとか、かき氷屋さんとかの働く様子を見たりするのがすごく好きでしたね。その頃のことが、今につながっているのかもしれません。

もっと直接的に絵本づくりの原点となっているのが、学校でやっていた人形劇。僕は特別支援学校で教師をしているんですが、夏祭りやクリスマス会などの学校の催し物のときに、教師たちで人形劇をやって、子どもに見せていたんですよ。台本から全部オリジナルで、僕がつくっていました。人形劇といっても、普通の人形劇と違ってストーリーはなくて、音と動きだけで楽しませる劇。「人形ヴォードヴィル」と呼んでいました。

ハンディを持った子や小さな子どもにも受け入れられるものにしたかったんです。どんなものなら興味を持ってもらえるだろうと考えたときに、思いついたのが「音」と「動き」、それから「見立て」。擬音語・擬態語って子どもの興味をひくでしょう。そこに単純な動きを掛け合わせると、さらにおもしろくなるんですよ。何を動かすかというと、物を見立てるんですね。たとえば洗濯機のホースをヘビやゾウに見立てるんです。見るからにホースなんだけど、動かすとホースじゃないっていうのがおもしろいので、色は塗ったりせず、ほとんどそのままで使っていました。

ほかにも、座布団の中に入っているウレタンに、ガチャガチャのケースで目をつけた人形で「ウレタンダンス」とか、牛乳パックを切ってカポカポカポってしたりとか、忘れ物のビニール傘に目をつけたものを音楽に合わせて踊らせたりとか……ものを見立てて何かやるっていうのがもともと好きだったので、すごく楽しかったですね。スリッパを見ていると、つい動かしたくなっちゃったりして。危ないでしょう?(笑)

50歳での絵本作家デビュー

▲第27回講談社絵本新人賞を受賞したデビュー作『おもちのきもち』(講談社)

人形劇は、最初は学校の活動の延長でやっていたんですが、だんだん人気が出て、他の学校からも来てほしいと言われるようになりました。でも、時が経つにつれ、一緒にやっていた仲間も僕も転勤したり、母の体調が悪くなったりして、集まるのが難しくなってきてしまって。それに僕は飽きっぽいところがあるので、完成したものを何度も繰り返しやらなくちゃいけないのが苦手なんですね。常に新しいことをやっていたいんで、人形劇の内容もどんどん先鋭化してしまって、誰もついてきてくれなさそうになっちゃったんですよ。それで、いろんな意味で潮時かなということで、人形劇をやめることにしました。

その後は、再生紙を使った立体作品を作って銀座で個展を開いたりしていたんですが、どんどん作っていくので、部屋の中がすごいことになっていって。僕にとっては宝だけど、家の者からしたらガラクタなので、ひんしゅくを買ってしまって(笑)

その点、絵本はすごくいいんです。仲間と集まらなくても、自分のペースでこつこつ進められる。平面だからそれほどかさばらないし、原画を完成させてしまえば、僕がいろいろやらなくても、たくさんの人に読んでもらえる。この年にしていい仕事と出会ったなと。人形劇づくりでも絵コンテを描いてたので、それが絵本につながっていったんですよ。

今までに8冊の絵本を出したんですが、アイデアはまだまだたくさんあります。でも別に焦ってないし、焦ってつくりたいとは思ってないんですよ。今は本当に、すごく楽しんで絵本づくりをやらせてもらっているので、締め切りと闘いながら苦しんで描くようにはなりたくなくて。気持ち的にふらふらと、遊び人でいたいんですよね。楽しいことを思い浮かべて形にしていくことがもしできなくなったら、絵本を描くのをやめちゃおうかなって思っています。もう先も長くないんで、今から苦労はしたくないですからね(笑)

アイデアを形にするのは、苦しくも楽しい!

人形劇をやっていたころから書きためたネタノートは、もう何十冊とありますよ。何か思いついたら、すぐにノートに書きます。起きぬけにおもしろいことが浮かんだりするので、枕元にいつもノートを置いてるんですよ。

アイデアをまずノートに書きとめて、違うページをいくつか組み合わせたりしながら形にしていくんですが、形にするという作業は、苦しくもありますし、時間もかかります。そのときばかりは、音楽もかけずに集中して取り組みますね。寝転がって描きながら考えたりもするので、はたから見るとごろごろしてるだけに見えるかもしれませんが(笑)

そんな風に考えたり描いたりしているときが、一番楽しいですね。でもピークはやっぱり、自分の中でアイデアが形になったとき。その時点で、僕の頭の中ではもう完成してるんです。あとは、僕の頭の中でだけ完成した絵本を、周りの人にもわかるように作業を進めていくだけ。音楽を聴きながらでもできちゃいます。そのときには頭の中ではもう、次はどんな絵本を作ろうかと考えていますね。

絵本の基本は15見開きなんですけど、そういう規制があるというのも僕にとっては大事です。何ページでも好きに描いていいなんて言われちゃうと、とんでもないことになっちゃいますから。ネタノートでは『もくもくやかん』のやかんも、羽が生えて飛んでたりしたくらいなので(笑) あまりに自由すぎると、宇宙の果てまで飛んでいっちゃうわけですよ。自分は楽しいと思うんだけど、それじゃ誰も理解してくれませんよね。規制があるからこそ、その中でどこまで楽しませることができるか、挑戦できるんじゃないかなと思っています。


……かがくいひろしさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


ページトップへ