絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、累計170万部を超える人気絵本「ぴよちゃん」シリーズでおなじみの、いりやまさとしさんです。父親になってからの作品で注目を浴びるようになったいりやまさん。絵本づくりを続ける一番の原動力は、お子さんの存在とのこと。アイデアの源泉や絵本の魅力、子育てについてなど、いろいろとお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。 (【後編】はこちら→)
1958年、東京都生まれ。キャラクターデザイン、グリーティングカードのデザイナーを経て、フリーのイラストレーター、絵本作家に。『ぴよちゃんのおかあさんどこ?』『ぴよちゃんのかくれんぼ』をはじめとする「ぴよちゃん」シリーズ(学研)は、シリーズ累計170万部を越える。そのほかの作品に「みどりのくまとあかいくま」シリーズ(ジャイブ)、『ころころパンダ』『ゆらゆらパンダ』(講談社)など。直販の保育絵本などでも活躍。近作に『きみのためのうた―みどりのくまとあかいくま』(ジャイブ)、『ぴよちゃんとはりねずみ』(学研)。
▲「ぴよちゃん」シリーズ最新作『ぴよちゃんとはりねずみ』(学研)
「ぴよちゃん」シリーズは、息子の1歳の誕生日に第1作が出たんです。アイデア自体は息子が生まれる前にできていたんですけど、1年くらいお蔵入りみたいになってて……あきらめた頃に出すことになりました。その間に子どもが生まれたんですね。
もとはもっと素朴な感じの絵だったんですが、編集者の方から、「たくさんの人に覚えてもらえる、愛されるキャラクターにしよう!」とアドバイスをいただいて、今のぴよちゃんが生まれました。絵本は、ひとりではつくれないんですよ。自分だけの考えでつくっていたら、「ぴよちゃん」シリーズはここまでたくさんの人に読んでもらえなかったかもしれません。編集者の意見というのは、貴重ですね。
息子は僕の作品の最初の読者で、ラフの段階から見せます。今の僕にとって息子の存在は、絵本づくりを続ける一番の原動力になっているんですよ。子どもがヒントをくれるうちは、がんばろうって思って。子どももどんどん成長して大人になっていくので、そのときはどうしようかと今から困ってますけどね(笑)
息子の通う保育園に絵本のダミー持っていって、ほかの子たちにも見せることもあります。最近出た『ぴよちゃんとはりねずみ』は、実はお話を2つつくっていたので、両方のダミーを保育園に持っていって、読み聞かせをしたんです。反応がよかった方を絵本にしたんですが、実は僕自身は、ボツになった方のが気に入ってたんですよね。ボツになった方は、大人が読んでもちょっとじーんと来るような、涙ありのお話だったんです。ただそちらは、ストーリーが数日にわたっていたり、お話が同時進行したりと、複雑だったので、子どもには少しわかりにくかったのかもしれません。
絵本のお話をつくるのには、いつも苦労しているんですよ。子どもが釘付けになるお話っていうのはどういうのだろうって。ちょっとウケようと思ってつくるお話は大体だめですね。なので、子どもたちの反応を見るのは、すごく参考になります。
▲親子で遊べるしかけ絵本「ぴよちゃん」シリーズ第1作『ぴよちゃんのおかあさんどこ?』(学研)
「ぴよちゃん」シリーズで一番最初にできたのは、『ぴよちゃんのおかあさんどこ?』です。あのアイデアは、自分の子ども時代の体験がヒントになっているんですよ。
僕は絵本のアイデアに困ると、自分が子どもの頃に何を考えてたかを思い出すようにしてるんですね。子どもの頃の気持ちにだんだん戻っていって、行きついたのが、お母さんを見失ったときの不安。子どもの一番根源にある不安って、お母さんがいなくなっちゃうってことだと思うんです。そばにいたとしても、見失うとすごく不安になるじゃないですか。これは、自分にとって忘れられない恐怖の原体験みたいなものですね。迷子になったときのことって、今でも覚えてますから。お母さんと間違えて知らない人の袖をつかんじゃったりとかね。不安感が募れば募るほど、お母さんと再会できたときの喜びが大きくなるんですよね。それはたぶん、絵本を読んでいるちっちゃい子でもわかってもらえるかなと。
子どもが生まれてからは、目の前にいる息子と子どもの頃の自分を重ね合わせて共通項を見つけることで、絵本づくりのヒントにしていますね。
それでもアイデアが湧かないときは、外に出かけます。机にかじりついててもできないときはできませんから。「ぴよちゃん」シリーズは1、2作が結構好評で、次も出しましょうと言われたとき、実は結構悩んでしまったんですよ。でもその頃たまたま家族旅行で那須の牧場に出かけて、そこでぼーっとしてたら、いろいろとアイデアが湧いてきました。牧場に行ったのは昼間だったんですが、「牧場って夜になったらどうなるんだろう?」なんて考えて、そこからいろいろな想像がふくらんでいって……それでできあがった絵本が、『ぴよちゃんのおやすみなさい』なんですよ。
今ちょうど、子どもたちが寝るときのお話をつくっているんです。『おやすみなさいのおと』というタイトルで、昔から好きだった絵本『おやすみなさいフランシス』が原点になっているんですが、僕の絵本ではあらいぐまの兄弟が登場します。
舞台はおやすみの時間の、あらいぐまの兄弟の寝室です。兄弟はベッドに入っても、窓の外から聞こえてくるいろいろな音が気になって眠れません。音が聞こえるたび窓の外を確認しているうちに、順々に眠りについていくのですが、末っ子のあらいぐまはお兄さんたちがみんな寝てしまっても、まだ眠れません。最後に残った末っ子に聞こえてきた音とは……?というお話。雪の季節のお話なので、2月頃に出版する予定です。
お母さんを見失ってしまったときとか、外の音が気になってなかなか眠れないときとか、子どもって日々、いろんな不安を抱えて生きてると思うんです。だからこれからも、そんな不安や悩みを持っている子どもたちに「大丈夫だよ」って言ってあげられるような、子どもの心を元気づける絵本をつくっていきたいですね。子どもの痛みがわかるなんていうとちょっとかっこよすぎるけれど、子どもの悩みや不安はわかるんですよ。僕も同じような思いを抱えてましたから。でも「僕も同じようなことで悩んだけど、誰でも持ってる悩みなんだから、心配することないよ」とそのまま言ったって、おじさんの泣き言になってしまうかなと。だから、絵本の中のかわいい動物を通じて、「大丈夫だよ」と伝えていきたいと思っています。
……いりやまさとしさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)