絵本作家インタビュー

vol.154 絵本作家 降矢ななさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『めっきらもっきらどおんどん』や「おれたち、ともだち!」シリーズなどの人気作でおなじみ、スロヴァキア在住の絵本作家・降矢ななさんにご登場いただきます。一時帰国の際にお時間をいただき、デビュー作の貴重な思い出や、スロヴァキア留学のきっかけ、『ともだちや』のキツネの奇抜な格好についてなど、たっぷり伺ってきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・降矢ななさん

降矢 なな(ふりや なな)

1961年、東京都生まれ。ブラチスラヴァ美術大学にてドゥシャン・カーライ教授に師事。石版画を学ぶ。主な作品に『めっきらもっきらどおんどん』『きょだいなきょだいな』(いずれも文・長谷川摂子)、『まゆとおに』ほか「やまんばのむすめ まゆのおはなし」シリーズ(文・富安陽子)、『ちょろりんのすてきなセーター』(以上、福音館書店)、『ともだちや』ほか「おれたち、ともだち!」シリーズ(偕成社)、『いそっぷのおはなし』(再話・木坂涼、グランまま社)などがある。スロヴァキア共和国在住。

『ともだちや』のキツネの奇抜なファッションには理由があった!

内田麟太郎さんのテキストは、「ここではスケートボードに乗っている」「遊んでるのは野球である」といったト書きが入ることもときどきあるんですけど、基本的には細かい指定はなくて、画家任せなんですね。『ともだちや』の動物たちが服を着ているかどうかも「好きにしてください」とのことだったので、私なりにいろいろ考えた末、あんなスタイルになりました。

ヘルメットにゴーグル、腰には浮き輪、餅花飾りにのぼり、ちょうちん……キツネの格好はすごく奇抜に見えるかもしれませんが、これにはちゃんと理由があるんです。キツネは1時間100円で「ともだちや」をやりますが、すごくやりたくてやってるわけじゃない。友だちがほしいけどどうやってつくったらいいかわからなくて、苦肉の策でやるわけなんです。あのキツネは本来、いい子ですごくシャイ。そんな子が清水の舞台から飛び降りるような気持ちで「ともだちや」をやるのだから、思い切った格好にしないとだめだなと思いました。

それに、行く先でどんな友だちに出会うかもわからないでしょう。水の中を泳ぐ動物でも対応できるように浮き輪をつけて、バシバシたたかれても大丈夫なようにヘルメットをかぶって……何があっても対処できるようにと考えたら、あんな格好になったというわけです。

でもそのときは、『ともだちや』がその後シリーズ化するなんて知らなくて…… 2作目、3作目と続くたびに、「キツネが次にどんな格好をするのか楽しみです」という読者カードが届いて、もうびっくり。えー!どうしよう!?と動揺しながらも、読者の期待に応えようと描きました(苦笑)

『ともだちおまじない』は、内田さんがつくった川柳風のテキストに絵をつけた絵本です。シリーズ8作目で、すでに内田さんと編集者と私の中で『ともだちや』の世界観のイメージがなんとなく共有できていたんですね。なのでそれをもとに、今まで絵本の中には描けなかったけれどその裏に広がっていた世界を、たっぷり描きました。これだけ一冊見ていても楽しいけれど、「おれたち、ともだち!」シリーズが好きな方には、よりいっそうの発見があるので、ぜひ手元に置いていただきたい一冊ですね。

ともだちや

▲1時間100円の「ともだちや」を始めることにした、寂しがりやのキツネ。オオカミが「トランプの相手をしろ」と声をかけてきますが……。大人気「おれたち、ともだち!」シリーズの1作目『ともだちや』(文・内田麟太郎、偕成社)

ともだちおまじない

▲けんかして ばかはおれだと いしころに……。「おれたち、ともだち!」シリーズの仲間たちが勢ぞろい。五七五のリズムに乗って、素敵な友だちおまじないをたっぷり収録!(『ともだちおまじない』(文・内田麟太郎、偕成社)

子どもは必ず見つけてくれる 絵本の中に潜んだ“遊び”

子どもの頃、母に絵本を読んでもらった記憶はあるんですが、誰もいないときに一人きりで絵本を見ていたときのことも、とてもよく覚えています。たとえば『だるまちゃんとかみなりちゃん』とかを隅々までじーっと見て、「ここにもツノが!」なんて見つけたり……私にとってはあのひとときも、すごく大切な時間でした。

子どもって、お話も聞いているんですけど、絵もとてもよく見ているので、絵本の中に潜んだ“遊び”の部分を絶対見逃さないんですよ。それがいくら細かい、ほんのちょっとしたものでも、見つけてくれるんです。だから私も絵本をつくるときは、どこかにそういう“遊び”を入れて、子どもたちを喜ばせたいなと思っています。

たとえば、『きょだいなきょだいな』のキツネ。巨大なピアノや石鹸と大きさを比較できるようにと思って描いたんですが、100人の子どもたちのページにも描きました。「あ、キツネがこんなところにいるよ!」と見つけてくれるだろうなと思って。「おれたち、ともだち!」シリーズの『ありがとうともだち』では、オオカミが釣ったたくさんの小ダコを、その後のページでも絵の中に散らばせました。

こんな風に描いたら絶対おもしろくなるぞ!という何かを思いついたときは、自分自身、絵を描くのがすごくおもしろくなるんです。きっとそういうのって、読者にも伝わってるんじゃないかな。

きょだいな きょだいな

▲あったとさ あったとさ。巨大なピアノに石けん、扇風機……。100人の子どもが思いきり遊びます!『きょだいな きょだいな』(文・長谷川摂子、福音館書店)

ありがとうともだち

▲ともだちのキツネが泊まりにきて、オオカミは大はりきり。キツネを喜ばせたい一心で、カジキマグロを釣る約束で海に出かけますが……。ユーモラスなやりとりに大笑いしながら、最後にほろりとさせられます。『ありがとうともだち』(文・内田麟太郎、偕成社)

絵本を楽しむうちに、自然と想像力が身につく

絵本はアニメーションと違って、自分でめくらなければ先に進まないし、中の絵も動きませんよね。ページをめくるのと同時に、1枚の絵を自分の頭の中で動かしながら、次のページにつなげていかなきゃいけないんです。そうやって絵本を楽しむうちに、さまざまな動きを想像する力が自然と育つんじゃないかと私は思っています。

私はアニメーションも好きなんですけれども、アニメーションは動いたときに一番おもしろくなるようにつくってあるので、1枚だけの静止画像になるとなんだか物足りないんですよね。でも絵本は、どのページも1枚の絵として見られることを想定して描いてあるので、アニメーションの静止画像と比べるとずっと見応えがあります。1枚の絵をじっと見て、そこから別の発見をしたり、想像をふくらませたり…… 美術館で絵画を見るような感覚で楽しむこともできます。1冊で何枚もの絵を気軽に楽しめるなんて、いい媒体ですよね。

最近の私の活動はと言いますと、「3.11後の世界から私たちの未来を考える」というテーマで、国内外の仲間たちに呼びかけて作品を募った展覧会「手から手へ展」を今、福島の伊達市梁川美術館で開催しています。

震災のあと、子どもたちが理不尽な状況に置かれていることに愕然として、子どもたちの未来のために、私は一体何ができるだろう……そんな思いからこの展覧会の企画を起ち上げました。2012年3月、イタリアのボローニャを皮切りにスタートしたヨーロッパ巡回展では、参加者56名でしたが、今開催されている日本巡回展は、総勢7ヵ国110人の作家が作品を展示しています。まさかここまで大きな展覧会になるとは、自分でも思ってもいませんでした。福島のあと、札幌の北海道立文学館に巡回して終了となります。それぞれの思いの詰まった作品、たくさんの方に見ていただければと思います。

「手から手へ展」を立ち上げ動かしていくことは、大勢の人たちと力を合わせて、何かを成し遂げていくことです。新しい経験は、私にたくさんのことを与えてくれました。と同時に、その経験の中で、あらためで感じているのは、私がするべきことは、やっぱり絵を描くこと、絵本をつくることなのかな……ということ。自然や今私が暮らしているスロヴァキアの生活をテーマに、これからも子どもたちの未来のために、私なりのメッセージを込めた絵本をつくっていくつもりです。

かまきりとしましまあおむし

▲降矢ななさんが絵を担当した新作絵本『かまきりとしましまあおむし』(文・澤口たまみ、農山漁村文化協会)。澤口たまみさんの自然観察会にも参加されたという降矢さんが描いた、リアルでありながら絶妙にかわいらしい虫たちは必見です!

ナミチカのきのこがり

▲おじいちゃんと初めてのきのこがりに出かけたナミチカ。食べられるキノコを探しながら行くうちに、丸く輪になっている赤いキノコが見つかって……。スロヴァキア在住の降矢さんならではの自作絵本『ナミチカのきのこがり』(童心社)


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