絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『しいちゃんふうちゃん ほしのよる』や『にんぎょうげきだん』などの作品でおなじみの絵本作家・こみねゆらさんです。こみねさんの描く繊細で可憐な女の子に、忘れかけていた乙女心をくすぐられた方も多いのでは? 最新作『ミシンのうた』の制作エピソードや絵本の魅力について、たっぷりと伺いました。今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1956年、熊本県生まれ。絵本作家、イラストレーター、人形作家。東京芸術大学、同大学院修了。1985年、フランス政府給費留学生として渡仏、エコール・デ・ボザールで学ぶ。『さくら子のたんじょう日』(文・宮川ひろ、童心社)と『ともだちできたよ』(文・内田麟太郎、文研出版)で日本絵本賞受賞。そのほかの作品に『しいちゃんふうちゃんほしのよる』(佼成出版社)、『にんぎょうげきだん』(白泉社)などがある。
ゆららおもちゃ箱 http://blog.livedoor.jp/yuralila-omb/
▲こみねゆらさんのつくられたお人形たち。身長3cmもないほどの小さなお人形も!
絵を描くこともお人形遊びも、子どもの頃から好きでした。お姫さまみたいなお人形を描くのが大好きで、ずっと描いていましたね。母が当時の絵をとっておいてくれたので、たくさん残っているんですけど、結構今の絵と近い感じがあるんですよ。
以前、アンデルセンの本の絵を頼まれていくつも描いていた時期があったんですが、子どもの頃に描いた絵の中にも『人魚姫』や『親指姫』、『空とぶじゅうたん』などのアンデルセンのシリーズがあったんです。描いたときのことは全然覚えていなかったので、なんだ、好きだったんだ!とすごく驚きました。
本も大好きでした。『雪の女王』と『幸福の王子』が大のお気に入りで、何度も何度も読んでいましたね。
中学生の頃は漫画家になりたいと思っていたんですけど、大学進学を考えたときに美大に行きたいと思うようになって、美術を始めて…… でも、一番好きなのは児童文学だったので、自然とそちらの道に進んでいきました。
お人形づくりに没頭しだしたのは、樹脂粘土と出合ってから。昔は紙粘土しかなかったので、なかなか小さなお人形はつくれなかったんですね。でも樹脂粘土はすごく丈夫で繊細で、どんな小さなものでもつくれることがわかって、それからすごくいっぱいつくるようになりました。自分のためのお人形を1000個つくるのが夢です。
芸大の大学院まで進んで、1985年からはフランス政府の給費生としてパリに留学しました。ヨーロッパには、高校のときから行こうと決めていたんです。すごく単純なんですけど、NHKで「レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯」を見て、行かなくちゃ!って思って。
フランスでは美大生は美術館がタダなので、好きなだけ絵を見ることができました。私はタペストリーが大好きなので、昔のタペストリーがたくさん展示されているクリュニー中世美術館にはよく行きましたね。引き出しを開けると古い布片なんかが並んでいて、ほかに誰もお客さんのいない静かな空間の中、その引き出しをそっと開けて、ゆっくり眺めたりして……自分の家のような感覚で通い詰めてたんです。贅沢な時間でしたね。
パリには8年間いたんですけど、その間に見たもの、触れたもの、経験したことなどは、今も自然と私の絵の中に出てきてるんじゃないかなと思います。
絵本作家としてのデビューは、パリにいたときのことです。絵本のブックフェアに行ったら、ある出版社のブースで、愛情を込めてつくられた素敵な絵本が並んでいるのを見つけて…… この出版社から本を出したい!と思って、渡仏前に「MOE」に投稿していた作品を見てもらったんです。そうしたら、一緒に本をつくりましょう、とすぐに言っていただけて。1992年、『Les deux soeurs(ふたりの姉妹)』という本で作家デビューとなりました。文はコーザ・ベレリさんです。コーザ・ベレリさんとはほかにも3冊、本を出しました。
▲人形たちが、自分たちよりさらに小さな人形を操って人形劇を上演します。お人形が大好きなこみねゆらさんならではの一冊『にんぎょうげきだん』(白泉社)
パリで暮らしている間、「MOE」でイラストエッセイを連載させてもらっていたこともあって、日本に戻ってからもわりとすんなり絵本の仕事をさせてもらうことができました。
でも、絵本づくりはすごく難しいですね。お話とか絵とかいろんな要素があるし、読む人の受け取り方次第な部分もあるし……考えなければいけないことがたくさんあるので、形にしていくのは本当に大変です。
普段から何か思いついたらすぐメモをとるようにしているんですけど、たとえば「ちょっと性格の悪いうさぎ。でもそんなに悪い人じゃない」とか「箱の中に雨が降って、傘をさしてる子がいる」なんて書いたメモを、大きなノートにはがせる糊でペタペタと貼っておくんです。お話を書かなくちゃってときは、その中から選ぶんですね。これとこれを組み合わせるといいかも!なんて感じで、メモを移動させたりしながら考えていきます。
お話を考えている間はまだ、頭の中だけでイメージがふくらんでいる状態なので、すごく楽しいんです。でも実際に描き始めてみると、いろいろと問題点が出てきて、こんなこともできない、これだとおかしいと、壁にぶつかってしまって…… なんだかできないことを確認しているような作業が続くんですけど、その中で、こうすればいいかも!というのがちょっとでも見えてくると、やっぱりすごくうれしいですね。
描きたい作品のイメージはたくさんあっても、ちゃんと最後まで行き着くのは本当に難しくて、考えるうちのほんの少ししか形にできないんですけど、これからもみなさんに楽しんでいただけるような絵本をつくっていきたいと思っています。
……こみねゆらさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)