絵本作家インタビュー

vol.149 絵本作家 北川チハルさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、子どもの世界をイキイキと描き、人々の笑顔や元気を引き出すやさしくほっこりとした作風で人気の、北川チハルさんにご登場いただきます。お話づくりが大好きだった幼少時代のお話や、保育士から絵本作家への転身エピソード、作品に込められた思いなどをお聞きしました。(【後編】はこちら→

絵本作家・北川チハルさん

北川 チハル(きたがわ ちはる)

愛知県生まれ。保育士を経て絵本と童話の世界へ。『チコのまあにいちゃん』(岩崎書店)で第32回児童文芸新人賞。作品に『まねまねひるね』(岩崎書店)『いちねんせいのいたーだきます!』(ポプラ社)『2さい‐6さい あいうえおしましょ!』(学習研究社)『まどのおてがみ』(文研出版)など。おはなしライブや親子の絵本タイムを応援する活動にも取り組んでいる。2人の娘の母。
北川チハル Web Site http://blog.goo.ne.jp/k-chiharu_2006

字も知らない頃から現在まで、ずっと続けている“ことばによる表現”

文字を知らない幼い頃から、頭の中で物語をつくっては、人に聞いてもらうことが好きで、ひらがなが書けるようになると、自分で紙を綴じて絵本をつくり、友だちや近所の方にプレゼントをしていました。両親ともに忙しかったため、私自身は読み聞かせをしてもらった記憶はないんです。でも、保育園の先生が読んでくださる絵本タイムがとても楽しみで……それから本を読むことが大好きになりました。

小学校では、友だちと交換日記みたいに、自由にそれぞれお話をつくって回す「お話ノート」で遊んだり、クラスや家でも新聞をつくって連載童話を載せたりしていました。高学年になって文芸部に入り、やなせたかし先生が編集されていた『詩とメルヘン』をまねて冊子をつくったり、また、クラスや家でも新聞をつくって連載童話を載せたりしていました。中学校では、ポエムを書いたり、また、友だち同士で一冊の「お話ノート」を回し合い、リレー形式で物語を書いていました。そして、高校の美術で絵本制作をしたことがきっかけとなって家でも絵本をつくったり……とにかく“物語をつくること”はずっと続けていました。

小さい頃から、子どもや赤ちゃんが大好きで、将来の夢は、「お母さん・保育士・絵本作家になること!!」まずは保育士をめざして、高校卒業後は保育の学校に進みました。

絵本作家をめざすきっかけとなった「ある日の出来事」

北川チハルさん

保育園には生活の一部として、自然に絵本が存在しています。憧れの保育士の仕事は、それはもう楽しくて楽しくて(笑)、受け持ちのクラスで毎日のように読み聞かせをしました。 あるとき、園児さんが「これ読んで」と手島圭三郎先生の絵本を持ってきたことがあったんです。「じゃあ今日はこれを読もうね」と始めたら、胸にグッと迫るシーンに出会って言葉に詰まってしまいました。「読まなきゃ」と慌てましたが、クラスの子全員が絵本と私をじーっと静かに見ながら待ってくれて……そのときの「一緒に物語を共有している」という感覚……絵本に感動したことに加え、「子どもたちとその世界を共有した」ことにも感動した、忘れられない体験です。

結婚を機に3年間勤めた保育園を退職、関西での新生活がスタートしました。女の子に恵まれて、夢のもうひとつだったお母さんになれたものの、娘は昼間もほとんど眠らず、とにかく抱っこをしていないと泣き続ける赤ちゃんでした。馴染みのない土地で、昼間は娘と2人きり。娘が泣くと私も泣く……そんな生活が4ヵ月ほど続き、ある日、もう抱っこに疲れて、泣くのも構わず娘を下に寝かせ、私も隣に寝転んで天井を見上げ、ぼんやりしていました。

そのとき、ふいに「そうだ、私、絵本好きだったな」と思いつき、松谷みよ子先生の『いないいないばあ』を引っ張りだし、赤ちゃんに聞かせるためでなく、自分のために、泣きながら声を出して読み始めました。「やっぱり絵本って、絵も言葉も優しくていいなぁ」と、違う涙がこみ上げてきて……そしてふと娘を見たら、泣き止んでいて、私をじっと見ていたんです。

そのときに、「この子は、『うまく子育てができない』という私の不安を感じ取って泣いていたんだ、私が大好きな絵本で、ふわっと気持ちよく楽しくなったことで、娘は今、安心して泣き止んだんだ」……そう思い至りました。それから子どもと絵本を読む時間を設けるようになり、読み聞かせをする中で、「自宅で子育てを続けながら、子どもに関わる仕事がしたい」という思いが募り、絵本をつくる道へ進もうと心に決めました。

“絵本作家になる”夢を叶えた『まほうつかいのポポちゃん』

小さい頃から遊んでいた絵本づくりそのままに、私は原稿用紙は使わず、頭の中でストーリーを描くタイプ。家事の合間などに浮かぶストーリーを、まとまった時間が取れたときにパソコンに入力する、そんな方法でお話を書きためていきました。

同人誌や通信講座などで学ばせていただいて、童話のコンクールで賞をいただいたこともありましたが、絵本の初出版までには8年かかりました。賞の表彰式でお会いした編集者さんに『まほうつかいのポポちゃん』の原稿をお預けしたことがきっかけです。長かったけど楽しい8年! その間ずっとポポちゃんが私の頭の中でいっぱい遊んでくれたので、おかげさまで3冊のシリーズになりました。

パーティーがはじまるよ
まほうのケーキをつくりましょ
もうすぐってどのくらい?

▲へんてこなおしゃれをしたりケーキを作ったり……森のなかまたちと元気にすごす、まほうつかいのポポちゃんのリズミカルな絵本『パーティーがはじまるよ』『まほうのケーキをつくりましょ』『もうすぐってどのくらい?』(岩崎書店)。絵は、ひだきょうこさん


……北川チハルさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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