絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、「ちびころおにぎり」シリーズなどが人気の絵本作家・おおいじゅんこさんにご登場いただきます。優しい色合いの可愛いキャラクターと、心温まる物語を描き続けているおおいさん。子育てしていたからこそできた、絵本づくりとは?! デビュー作や人気作、最新作の制作秘話のほか、2児の母としての一面までを、たっぷりと伺いました。
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1968年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東京芸術大学大学院デザイン科修了。1997年、星の都絵本大賞受賞。自作の絵本に『たまごケーキやけたかな?』(ハッピーオウル社)、『のんびりつむりん あめのひいいな』「ちびころおにぎり」シリーズ(以上教育画劇)、『ぺんちゃんのかきごおり』(アリス館)、『みどりさんのパンやさん』(PHP研究所)など。最新刊は『クッキーひめ』(アリス館)、『チャーシューママ』(教育画劇)。
絵本作家 おおいじゅんこのホームページ http://www7b.biglobe.ne.jp/~junkoooi/
『ちびころおにぎり なかみはなあに?』が生まれたきっかけは、4コママンガみたいな小さいおにぎりの絵でした。おにぎり劇場?、ジャカジャカジャカ♪って(笑) それを教育画劇の編集者さんが、「これがいいです」と言ってくださって。
お話は二転三転しました。いろいろつくった中で、おにぎりだから中身は何だろうねという話にしようと、まずなりました。子どもの友だちがうちに遊びに来てお腹が空いたからおにぎりでも食べようかってことがよくあったんです。そんな時子どもって意外と、塩だけで海苔も具もなしという塩むすびを食べたがるんですよね。それで「中身はなくてもおいしいね」という話にしようと決めたんです。
それが会社で揉まれているうちに、「中身がないわけにはいかない」ってなって(笑) でも母がよく「何もないけど、おかかならあるわよ」とつくってくれたことを覚えていたので、最後はおかかというのを導き出せました。思いがけずなったラストなんですよ。
読者はがきには「うちの子は塩むすびが好きです」と書いてくださる方も、「カツオを入れてもらって、海でザパーンというシーンに来ると、息子がニカーッと笑うんです」というお手紙をくださった方もいて、どっちが良かったのかな?(笑)
ちびころちゃんは、可愛い、可愛いと、あちこちで言っていただいて。思いがけず活躍してくれて、シリーズ3作目の『ちびころおにぎり でかころおにぎり おじいちゃんちへいく』が昨年末に出ました。新しいでかころのモデルは、夫のおにぎりです。うちの夫があんなにヘタなおにぎりをつくるとは思わなかったんですよ。まぁ、無骨で!(笑)
おじいちゃんち、おばあちゃんちでやりましょう、という話にはなっていたところに、でかころも登場させたいという気持ちがかぶり……結局主役を持ってかれた(笑) 夫の名誉のために言うと、すごく料理をするし、家事全般何でもできる男なんですけれど、おにぎりはうまくなかったんです(笑)
▲小さなおにぎり、ちびころ。あれ?ぼくの中身がないよ? 友だちみんなで探しに行こう!『ちびころおにぎり なかみはなあに?』(教育画劇)
▲お母さんに初めてのおつかいを頼まれた、おにぎりのちびころ。スーパーの中はいろんな食べ物がありますが、ちゃんとりんごとのり、見つけられるかな?『ちびころおにぎり はじめての おかいもの』(教育画劇)
▲一番小さいおにぎり、ちびころと、パパさんが握った大きなおにぎり、でかころ。おじいちゃんから梅干しができたと手紙をもらい、一緒におうちへ遊びに行くことに!『ちびころおにぎり でかころおにぎり おじいちゃんちへいく』(教育画劇)
▲クッキーの国のクッキーひめ。コックさんが必要なものは何でも焼いてくれます。ウマにゾウ、数え切れないくらいの服。でも何だかつまらない。そこでひめが思いついたのは!? 『クッキーひめ』(アリス館)
▲チャーシューママは優しいお母さん。とんこ、ふとし、にくおの子どもたちのため、大きな身体ではりきります! 子どもの何気ない一言をきっかけにある決意をしますが……『チャーシューママ』(教育画劇)
絵本のアイデアは、机に座って「う~」と考えていてもダメなので、散歩に出ます。あと一番確率的に多いのは、布団に横になって寝るか寝ないかという時です。「ああっ!」と思いついて、大急ぎで起き出して書いて、一安心して寝て。起きてみると、わけ分かんなかったりするんですけれど(笑)
絵本づくりで一番苦労するのは、ラフをつくっている時です。私は絵の勉強をしてきたので、絵を描くのに関してはほとんど悩まないです。ラフの段階で絵ヅラは浮かんでいるし、きっとこうなるなという予想もつくんですけれど、お話に関してはいつまでも素人で。いつもいつも悩みながらがんばってやっています。
例えば『クッキーひめ』の最後は、4回くらい書き直しました。お城が立派になっていろんな部屋ができていくページは、きっと楽しいなと思ったんです。この絵が描きたくてここまで大風呂敷広げたけれど、どうやって終わらせようって(笑) どんどんつくって、ああ幸せ♪というバブリーな感じとか、クッキーひめがイケメン王子をつくってめでたしめでたしとか(笑) 今の結末にするまでには試行錯誤しました。逆に楽しいのは原画を描いている時です。絵を描くのが楽しくてやっている人間なので、私は。
『ちびころおにぎり でかころおにぎり おじいちゃんちへいく』と『クッキーひめ』と『チャーシューママ』は、奇しくも同時進行で、1ヶ月置きに出版されました。『チャーシューママ』描いて、乾くのを待つ間に『クッキーひめ』、それが乾くのを待つ間に「でかころ」、みたいな描き方をしていて、すごい楽しかったですね。同じようなことを描いていると飽きちゃうので、ちょうど良かった。でもヘトヘトでしたけれど!
『チャーシューママ』は、実は『ちびころおにぎり はじめてのおかいもの』の中のお肉屋さんに登場しているんです。うちの娘が、このページが一番好きだと言ったんですね。それで、このページの真ん中にいた豚顔のこの人たち、で絵本をつくりました。
私も子どもに似たようなことを言われたことがあるので、一念発起してダイエットに励んだママの気持ちは描ける!と。これはトントンと話が決まりました。全然悩まないで最後までスーッと決めて、スーッと描いて、編集者さんもスーッとOKをくれて、これは人生初くらい早かったですね。実体験だったからかな?(笑)
この本の中では、子どもたちが「ママー、ママー」と応援しているところが好きです。この「100%ママの味方!」みたいなところに熱く感じるところがあって。我が家は今、反抗期なので(笑) このくらいの時はこうだったなと思いながら描いていたところはあります。
▲ぺんちゃんは冷たくておいしいかき氷が大好き! 大きなかき氷をつくりたくて、どんどん大きな氷を欲しがります……。『ぺんちゃんのかきごおり』(アリス館)
小さい時は、ほぼ毎日読み聞かせをしていました。子どもたちも私自分も好きでしたので。夫も参加して、寝る前に読みました。娘は結構大きくなるまで読んでいましたね。「このページママ読んでね、このページ私ね」と2人で1冊の本を共有して、楽しい気持ちになって一日が終えるという。息子は小学校の低学年くらいまで。最後の方は、迷路ものが好きで、お話を読むというより、一緒に本で遊んでる感じ。幸せに寝る前の儀式のような。読み聞かせの代わりに、キャッチボールをした時期もありました(笑)
以前幼稚園の先生が「絵本の読み聞かせは、あまり演出せず淡々と」とおっしゃるのを聞いて、私はひたすらまじめに読んでいました。夫は気にせず、演出しまくりでしたね。私の絵本は、例えば「ちびころ」の最初の見返しや『クッキーひめ』の「プッパプッパプー」など、歌のように書いてあるところが、あちこちにあるんです。それは各ご家庭で、ママの読み方で、楽しく歌みたいにしてもらえればと思います。
私自身が絵本を選ぶ時は、好きな作家さんを掘り下げるタイプなので、この絵本が面白かったから、同じ方のほかの絵本、と新しい本に出会います。でも、お子さんが興味があるものが、やっぱり食い付きがいいですよね。男の子は、お話は聞いてくれないで図鑑などが好きという時期もあると思います。それでも、お母さんと一緒にページをめくった記憶って残ると思います。
私自身が絵が好きで見ているところがあるからかもしれませんけれど、自分が昔読んだ絵本でも、お話は覚えていないけれど、あの絵は覚えているというのが結構あります。目の記憶って大きいような気がするんです。一緒にめくるだけでもいいかなと思って、絵本を選ぶのもいいかもしれないですね。
先日ある書店で、「絵本とお話会」というのを初めてさせていただいて、下手っぴですけれど自分で読んだり、お客さんとしても読んでもらったりしたんですが、すごく楽しくて! 読んでもらうってすごく心地いいなと実感しました。それが自分のお母さんだったら。やっぱりいい時間なんだなと思います。
今3冊連続で出版したところなので、今はいろいろラフを描いて準備中です。『ぺんちゃんのかきごおり』の次を描いたり、「ちびころ」も次のお話ができていたりするんですけれど、まだ出版されるかどうかは未定です。今ちょっといいかなと思って描いているのは、忍者のお話とか、食べ物ネタでも描いています。『チャーシューママ』みたいに面白いお話もいいのかなぁと。試行錯誤中ですね(笑)
でも可愛い、絵がキレイというだけの絵本にはしたくないんです。絵本は子どもにとって、とても力のあるものですから、子どもの気持ちに応えられるものって何だろう、と思いながら次のお話もつくっていきたいと思っています。