絵本作家インタビュー

vol.143 絵本作家 *すまいるママ*さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、フェルトや布、色とりどりのビーズを使って描かれた絵本『ぽんぽこしっぽんた』「チクチクさん」シリーズが人気の絵本作家*すまいるママ*さんです。3児のパパで、自然遊びを一緒に楽しみ、お子さんから絵本のアイデアをもらうことも多いそうです。絵本に込めた思いや、読み聞かせ体験談をお聞きしました。(【後編】はこちら→

絵本作家・*すまいるママ*さん

*すまいるママ*

1974年生まれ。岐阜出身。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。サンエックス株式会社を経て、2004年よりステッチアーティストとして活動。主な作品に『はなになりたい』(ヴィレッジブックス)『ぽんぽこしっぽんた』「チクチクさん」シリーズ(以上、PHP研究所)『ぞうさんがびっくり』(教育画劇)『おさんぽさんぽ』(フレーベル館)などがある。
*すまいるママ*オフィシャルWebサイト:http://www.smilemama.net

子どもが大好きな、お母さんの笑顔が名前の由来

ながれぼしきらり

▲小さな流れ星きらり。ある大雨の日、島に取り残された動物たちがきらりに「助けて」とお願いするのですが……。『ながれぼしきらり』(ヴィレッジブックス)

もともとは、アートイベントで妻と2人でポストカードや手づくり絵本などを売っていた店の名前が、「*すまいるママ*」だったんです。その時はまだ子どもがいなかったんですけど、子どもが生まれてから妻が育児に専念するようになり、僕ひとりで絵本作家として活動するようになってからも、「*すまいるママ*」と言う名前を使い続けています。

もともとこの名前を付けた理由は、世界中の子どもがいちばん好きなものは何だろうと考えた時、それはやっぱりお母さんの笑顔だろうなと思ったから。「女性(ママ)じゃないんだ……」と、はじめて僕の写真を見た方は、びっくりされると思うんですけど(笑) 育児エッセイを書く時は、ややこしいので「*すまいるパパ*」名義で書くこともあります。まあ、どっちにしろ、ややこしいんですけどね(笑)

「*すまいるママ*」をはじめて10周年になりますが、活動をスタートさせた当初から、今のようにフェルトを使った作品をつくり続けています。以前は、手書きやパソコンでイラストを描いていた時期もあるんですが、パソコンで手軽にイラストが描けるような時代になった時に、みんなと同じようなイラストしか描けないようじゃダメだな、じゃあどうしたらいいかな、と考えるようになりました。

そんな時、子ども服に付いているようなアップリケをイメージした、レトロなんだけどおしゃれでやさしい感じがいいな、と思いつきました。それを背景と一緒に、イラストとして見せることができたら、きっと楽しい世界観になるだろうなと思ったことがはじまりです。

だけど、それまでフェルトを触ったことも、手芸屋さんにも行ったことがなかったんですよ。フェルトを普通のハサミで切ろうとして上手く切れずに、手芸屋さんでフェルトが切りやすいハサミはどんなのかを教えてもらったぐらい、知識も何もありませんでした。まさに試行錯誤の繰り返しでしたね。ホントに肩もこるし慣れないことだったので大変でした。

でも、そうやって最初に完成させたポストカードは、今まで自分がつくったものとは全然違う雰囲気で、「あ、この世界だったら広がっていくな」とすぐわかりました。大変だけど何種類もつくってみようと続けていくうちに、サイズも大きいものがつくれるようになっていきました。

そして、この世界観を絵本にしたら、子どもが実際に触りたくなるような絵本ができるだろうなと思い、手づくり絵本をアートイベントで売っていたところ、「絵本を出しませんか?」と編集の方に声を掛けていただき、『ながれぼしきらり』という作品で、絵本作家としてデビューしました。

小さい時からこんな生き物がいたら楽しいだろうな、あんな乗り物があったらいいな、と空想をして楽しむような子どもだったので、それこそ描きたい話はいっぱいありました。そういう思いを物語にしていったので、お話はスラスラ書けました。今でもそういう思いを絵本にしているという感じがあります。

だけど絵は、絵の具は使わず、フェルトや布、ビーズなどの素材だけでつくると決めていていたので、いっさい手を抜かず、時間をかけてこだわってつくりました。結局、完成するのに1年かかりました。苦労したぶん、デビュー作は、やっぱり思い入れがありますね。

子どもたちから絵本のアイデアをもらっています

うちの子どもは今、上が小学生の女の子、下は幼稚園の男の子2人の3人兄弟です。最近いちばん大切にしている時間は、子どもと一緒に自然と触れ合う時間ですね。花を育てたり、野菜の収穫をしたりしています。でも野菜の収穫をしていると、子どもがいちばん喜ぶのって、偶然見つける生き物なんですよ。

夏はカエルを見つけたりね。冬にみかん狩りに行って、みかんの木にカマキリの卵がいっぱい産みつけられているのを3人でじっと見ている姿を「かわいいな」と思いながら眺めています。自分が小さい頃見ていたものを、大人になってから自分の子どもと一緒に見られるということがすごく楽しいですね。

子どもが生き物を見つけて、目を輝かしながら、自然とコミュニケーションをとっている姿を見ると、自分の小さい頃に会っているなという気持ちになって、自分も童心に返って遊べます。昔から動物や花が好きで、生き物を育てることが好きでしたから。

生き物って、どんな物でも、どこかで誰かに役に立っていることが多いんですよ。例えばミツバチも人を刺すことがあるから嫌われたりするけど、はちみつを運んでくれるし、花も光や水から生きる力を得て、キレイな姿で私たちを笑顔にしてくれている。自然や生き物は、誰かを笑顔にする力を持っている。このことは絵本で伝えたいテーマにもなっています。

絵本のアイデアは、全部子どもたちからもらっていると思います。子どもがいない頃、手探りで描いていた頃と取り組む時の気持ちが全然違います。お風呂も毎日一緒に入っているし、寝かしつけもほぼ毎晩しています。寝かしつけの時に、絵本を何冊か読んであげるんですけど、電気消した後は、「なにかお話をして」と言うんですよ。そこで自分で考えた話をしてあげるんですけど、そこから絵本になったというのが最近すごく多いですね。

最近では、『ぽんぽこしっぽんた』もそうです。しっぽんたはしっぽしか化けられない、未熟者のたぬきが主人公の話で、なんとなく話し始めていくうちに、完成しました。現在1冊目が出たばかりですか、続きの話を子どもたちには聞かせていて、じつはもう何十話もできています。早く続編を披露したいですね。

ぽんぽこしっぽんた

▲ぶんぶくちゃがまの末裔、しっぽしか化けられないしっぽんたが大活躍。『ぽんぽこしっぽんた』(PHP研究所)

『ぽんぽこしっぽんた』の原画

▲『ぽんぽこしっぽんた』の原画。フェルトの見事な立体感がわかるのは原画ならでは! 原画展も大人気だそうです。

親子で会話がはずむような、わくわくする絵本を出していきたい

ぞうさんがびっくり!

▲かわいい動物たちと、楽しい擬音語がたくさん登場の言葉遊び絵本。親子で楽しめます。『ぞうさんがびっくり!』(教育画劇)

子どもがわくわくするような、親子で会話がはずむような、絵本を出していきたいと思っています。絵本を読み終わった後、それを見ながら親子で何かつくりたいとか、言葉遊びを楽しみたいとか思ってもらえたら嬉しいです。

『ぞうさんがびっくり!』は赤ちゃん絵本ですが、日本語の中には、“びっくり”のように、小さい“っ”と、最後に“り”が付く、擬音語が多いんですよ。例えば“どっきり”“はっきり”“すっぽり”“うっとり”など、響きが入っていきやすいのだろうと思うんですよね。そしてこれらは、子どもたちがよく使う言葉なので、それを絵本にしたいなとずっと思っていて、生まれた絵本です。

例えば、りすがどんぐりをほっぺたに詰め込んで“ぷっくり”とか、それを読んだ後に真似したり、ほかにも似たような言葉があると気づいて、言葉遊びにつながるといいなと思い、「ほかにも似たような言葉を探してみようね」ということを、メッセージとして入れています。

赤ちゃん絵本に限らず、どのお話にもリズミカルな文章を心がけていて、子どもが口ずさみやすいフレーズを必ず入れるようにしています。親子で一緒に絵本を楽しみながら、言葉遊びを楽しんで欲しいですね。


……*すまいるママ*さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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