絵本作家インタビュー

vol.142 絵本作家 多田ヒロシさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、漫画家で絵本作家の多田ヒロシさんにご登場いただきます。『おんなじおんなじ』や『ねずみさんのながいパン』など、一度は手にしたことがあるのでは? 漫画家らしいユーモアあふれる作風と軽妙なことば遊びが人気の多田さん。ロングセラーの制作秘話から、御子息で絵本作家のタダサトシさんとのエピソードまで、たっぷりと伺ってきました。
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絵本作家・多田ヒロシさん

多田 ヒロシ(ただ ひろし)

1937年、東京生まれ。武蔵野美術大学デザイン科卒業。絵本作家、漫画家。絵本作品に、ロングセラーの『おんなじおんなじ』など「ぶうとぴょんのえほんシリーズ」や、『ねずみさんのながいパン』『わにがわになる』『わんわんなくのはだあれ』(以上こぐま社)のほか、『りんごがドスーン』(文研出版)、『だれかしら』(文化出版局)など多数。日本漫画家協会、漫画集団、漫画家の絵本の会所属。

ことば遊びの絵本『わにがわになる』、人気作『ねずみさんのながいパン』

ことば遊びの本はね、始まりは子どもから教わったというか。僕が、ダジャレみたいな面白いことを言うと、3、4歳になると分かるんだよね。ある家の軒先でカナリヤが鳴いたんですよ。そこで「カナリヤかなりやるな」って言ったら、息子がゲラゲラ笑う。そうしたら今度は、棚に飾ってあったコアラの人形が落っこったのを見て、「コアラがコアれた」って自分で言ったのね。ことば遊びの本は、そんなことが始まりでした。

それで(こぐま社創業者の)佐藤英和さんに「『わにがわになる』というタイトルがあるんだけど」とだけ言ったら、面白がって本になることになった。それから中身を考えたんですよ。載ったものの3倍くらい言葉をつくって、絵になるとかならないとか、子どもに分かるかどうかで決めていった。

ことば遊びが好きになったもともとを言えば、落語。高校1年くらいの時から寄席に通っていたから。週刊朝日に描いている山藤章二が、中高大学と同級生で、彼とよく行った。(古今亭)志ん生とかを生でみんな聴いている。「瓜売りが瓜売りに来て瓜売り残し 売り売り帰る瓜売りの声」とか「山王の桜に猿が三下がり相の手と手と手手と手と手と」とか。いつの間にか覚えちゃった。面白いと思って、ことわざの本とかそういう本を読み漁りましたね。

『ねずみさんのながいパン』は、こぐま社の編集の人からヒントになる題材をもらったのが始まりなんです。当時個食や家族団らんの喪失が社会問題になっていて、テレビの特集番組のビデオを渡されて「みんなで一緒に食べるとおいしいね、という本をつくってください」って言われたんですよ。私が「食べる」ことを大事にしていたというのもあります。ま、ビデオとはまったく違うものになりましたが(笑)

それぞれの動物が、好きなものを家族と食べているんですよね。子どもが好きな動物を入れてあります。「キリンもゾウもいない動物園なんてつまらない」なんて話もありましたよね。最後のネズミさんの食卓のシーンでは、よく子どもから「歩いている子の席もある」と言われますね。気付く子は気付く。手前の子はトイレから帰ってきたところ(笑)

『ねずみさんのおかいもの』は、やはり僕が買い物が好きだというので、編集さんから話があったんです。でも、ものすごく難しかった。最初の本で大勢の家族にしちゃったんで。赤ん坊のところは、なかなかうまく描けず、これだけで何回描いたことか。それで次の本ができなくなっちゃってるんですよ。今、困っているところ。

これは小さいしかけが少しあって、太っちょのネズミが食べ物の店の時だけ前に出て来るというのを、孫が面白がっていましたね。あと、まだ誰にも言われてないけれど、実はメロンの形の果物屋さんに隠し文字で「メロン」と描いてあるの。孫がメロンが好きで好きで、メロン中毒だったことがあってね。もう飽きちゃいましたが。食べさせすぎたのかもしれない(笑)

わにがわになる

▲「はちとはちがはちあわせ」「ばったとばった ばったりあった」など面白いことば遊びと、ユーモラスな絵に思わずニヤリ『わにがわになる』(こぐま社)

ねずみさんのながいパン

▲ねずみさん、長いパンを持ってどこへ行くのかな? いろいろな動物の形をした家では、それぞれ動物の家族が大好物を食べています。では、ねずみさんは……?『ねずみさんのながいパン』(こぐま社)

ねずみさんのおかいもの

▲ねずみのきょうだいが、お母さんに頼まれてお買い物に出かけます。いろんなお店でたくさんのお買い物。そんな子ねずみたちを家で待っているのは……『ねずみさんのおかいもの』(こぐま社)

毎日褒めるばっかりだった子育て

こんちゅうことばあそびかるた

▲「アゲハチョウに プレゼントを あげまちょう」など、昆虫名前を使った思わず吹き出してしまうことばと、ユーモラスな絵がたくさん!『こんちゅうことばあそびかるた』(こぐま社)絵はタダサトシさん。

昔は飲みに行くとなると、夕方6時頃出て行ってあくる朝帰ってくるということもありました。でも、息子のサトシ(絵本作家のタダサトシさん)が幼稚園の頃は、朝は必ず園まで送りに行ってましたね。当時は四谷に住んでいて、新宿御苑が近くにあって、よく連れて行きましたね。息子が虫好きだったということもありますし、やっぱり広い場所がありましたからね。絵本もよく読みました。寝る前というか、こっちは飲みに出かける前ですけれど(笑)

僕自身はそれほど虫好きじゃない。息子は、自然に虫好きになったんですよね。絵も、僕が「虫描け」って言ったわけじゃないからね。自分でどんどんどんどん描いていった。1日に何枚も描いていたからね。「この子は天才だよ」って、毎日褒めるばっかり(笑)

僕が仕事をしているのを、ベビーサークルから見ていました。それで、しゃべれるようになったら「ペペってね」って言うんですよ。描きたいって意味なんです。僕が色を塗っている時の感じが、「ペペっ」って感じらしくて。だからスケッチブックと絵の具と筆を渡して。描いたのをアルバムに貼って残してあります。

それにしても、息子が絵本を描くとは思ってなかったですね。最初は怖がっていたんですよね。息子が5歳の頃から、仕事は自宅近くのアトリエでしていたので、仕事をしているところはあまり見ていないんですよね。でもうまく進まないと家でも機嫌が悪くなるのが分かるらしくて。中学生くらいになって、作家って大変そうなんだなと思っていたようですね。

最初にデビュー作の『カブトくん』を描いた時、サトシはこぐま社の場所も知らなかった。だから一緒について行ったんです。僕は、ドアのところで帰ったんだけれど(笑) その時冗談で「コピーとって、3冊くらい出せればいいんじゃないの?」って言ってたの。そのくらい覚悟していったほうがいいよって。それがね、あんなにちゃんと出来上がったから、本人もびっくりしちゃって。

『こんちゅうことばあそびかるた』は、息子と一緒につくりました。僕が言葉を先につくって、ラフを息子に描いてもらって、それを一緒に見て「言葉の中の一番出したいものを描かないとダメだから」などといくらか助言を与えて、あとは任せました。例えば、最初はノミが全然小さくてね。ただそれをどう解決するかは任せたんですが、最終的には虫眼鏡で拡大した絵になった。よく描けていると思うけれどね。自分の息子ながら(笑)

こうなりたい、やりたい、行ってみたい。絵本は夢をふくらませる力

絵本の魅力は、まずは手元にあって繰り返し読めるところ。それと親が読んであげることで子どもとの対話ができますよね。そういう親子関係の温かいところにつながるところも、本の重要なところじゃないかな。誰もそう思うでしょうけれどね。

親に読んでもらったとか、あの時の本は面白かったとか、僕もそうなんだけれど、幼稚園くらいから覚えていますもんね。あとは、『星の王子さま』の巻頭に「みんな、大人もかつては子どもだったのに、ほとんどの人は、そのことを覚えていない」という文章が入っているけれど、子どもの時のことを、絵本を通じて覚えているというか。幼児性みたいなものは、いくら年をとってもあっていいんじゃないかなって思いますけれどね。

絵本を見て初めて知ることもあるし、発見もあるし、教科書とは違う面白さがあるでしょうね。そこから自分で考える力が出てくるんじゃないですか? 僕もこうなりたい、やりたい、行ってみたいとか、そういう夢があふれるというか。本に描いてある以上に夢がふくらむ、そういうことじゃないかな? 絵本の力って。

絵本はね、子どもがほしいと思うものを買ってあげるのがいい。買うのはお母さんなんだけれど、選ぶのは子ども。お母さんが与える本もあるでしょうけれど、子どもにちょっと従わないといけないんじゃないかなと思う。見て欲しければね。『おんなじおんなじ』も、最初は「背景は白地だし、それでこの値段でなんだか損したみたい」って言った親がいましたけれど、子どもは飽きないでいつまでも見ているから。

今後については、「ねずみさんの続編を」と、言われてますけれどね。まだちょっと考え中。ま、期待しておいてください。


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