絵本作家インタビュー

vol.140 クレヨン画家・絵本作家 加藤休ミさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『きょうのごはん』などが人気の絵本作家・加藤休ミさんにご登場いただきます。クレヨンだけで、おいしそうなごはんやリアルな魚を描き続けている加藤さん。クレヨンへのこだわりから、イキのよい魚がたっぷりと描かれた最新作『おさかないちば』などの制作エピソード、力を入れているワークショップの活動まで、たっぷり伺ってきました。(【後編】はこちら→

絵本作家・加藤休ミさん

加藤 休ミ(かとう やすみ)

1976年、北海道生まれ。クレヨン画家、絵本作家。書籍や雑誌の挿画を手がける傍ら、展覧会で作品を発表。2010年、ピンポイント絵本コンペ優秀賞。初の自作絵本『ともだちやま』(ビリケン出版)を刊行。絵本作品に、『キムチの絵本』(編・チョン・デソン、農山漁村文化協会)、『ももたろう』(作・山下明生、あかね書房 )、『きょうのごはん』(偕成社)、『りきしのほし』(イースト・プレス)。最新刊は、『おさかないちば』(講談社)。
加藤休ミブログ http://katoyasumi.exblog.jp/

釧路の子ども時代

子どもの頃読んだ絵本で大好きだったのが、『とうもろこしおばあさん』です。アメリカ先住民の民話で、それを秋野亥左牟(いさむ)さんが描かれていました。絵に迫力があって話の無残なところが強調されて、強烈な印象が残ってるんです。母が「こどものとも」を定期購読していたんですが、実はこれしか記憶に残っていないんです(笑) でもこの一冊は本当に何回も読みました。

絵は、スポーツよりは好きだったというくらい。それより覚えているのは、「釣りごっこ」という遊びです。長い草の葉をちぎって茎だけにして、それを竿のように窓から垂らして、釣れることを想像するという(笑) 何も釣れないですけれどね。竿をつくるところまでが好きだったのかなぁ。今日は太いぞとか、長いぞとか。その頃から魚が好きだったのかも!

地元の釧路は港町で、当時はサンマ漁が盛んだったんでよく食卓に上がりましたし、父が内緒で川でシャケを釣ってきたこともありました。そういう意味では、魚は身近だったかもしれないですね。釧路の漁は決まり物が多くて、シャケ、サンマ、イワシ、サバ……がほとんどですかね。

この前、釧路で展覧会をやった時に思ったんですけれど、大人でも、地元で揚がる魚以外は意外と知らないんですよ。また、釧路は本シシャモが獲れることでも有名で、展覧会でも、せっかくだから地元のものをと、1メートルはあるシシャモの絵を描きました。すごいおいしく描けました! 釧路出身というだけで皆さんに優しくしていただいて、評判もよかったです。

クレヨンの塗り方、伸ばし方、直し方が好き

『りきしのほし』のかちかち山

▲展覧会場のビリケンギャラリーに飾られた、ほぼ等身大の『りきしのほし』のかちかち山。「こういう大きいものを描く時も、クレヨンを立てて塗ります。それでも4、5本しか使わないで描けるんですよ」

絵に出合ったのは、東京に出てきた後です。上京したのは「とにかく何かやりたい」と思ったから。役者をやってみましたけれど、1年くらいで挫折。そんな時、いたずら描きをしていたら、ある会社の人が私の絵を面白がってくれて、イラストレーターという仕事を教えてくれたんです。それでファイルをつくって、出版社に持っていくようになりました。20歳くらいだったと思います。

それが、雑誌で見かけて「いいなぁ」と思うイラストレーターの人に、どんどん会えるんですよ! 役者をやっている時には、会いたい役者の人には全然会えなかったのに、イラストレーターになったら何となくいい縁がある。これは続けていいのかな、と思うようになりました。

始めたのが20歳頃で、ちゃんと連載が来たのが26歳。その間、何やってたんでしょうね?(笑) 絵は描いていましたけれど、仕事になるようなものではなく。どうして続けられたんでしょうね? 何かで表現をしたいという気持ちが、あったのかな。目立ちたかったのかも!(笑)

クレヨンだけで描き始めたのもこの頃です。最初は筆ペンだったんですが、色をつける必要があって、安くて身近にあったクレヨンを買ったんです。ただ画材の説明で「筆ペンとクレヨン」と2つも説明するのがイヤで、クレヨンだけでやってみたら、できたんですよね。もし田舎に帰っても、クレヨンならどこでも売っているから、続けられるなっていうのもありました。

まずクレヨンで塗って、クレパス、つまりオイルパステルで二度塗りする描き方をしています。定着させるためには上からニスをべったり。このニスがいいんです。クレパスって混ざるんですよ。それがいい特徴で油絵みたいに描けるんですけれど、混ざってほしくない時には、ニスを塗ってから色を重ねて深みを出したり、ニスごと削ってミゾにクレヨンを入れ込んで魚のうろこの立体感を出したりしています。こういう方法は自分で描きながら見つけていきました。

1回だけ水彩で描いてみたことがあるんです。バーッと塗れて早いんですけれど、思ったところに思ったものが乗らない。クレヨンだと思い通りにいくんですよね。間違ってもクレヨンだとこうやって消せるのにな、指でこうすると伸びるのになって。クレヨンの塗り方とか伸ばし方とか、直し方が好きだったんですよね。やっぱりほかの画材じゃダメだって、すぐやめたのを覚えています。

とにかく、何でもかんでもクレヨンでやってみたかったんです。Tシャツをつくったこともあります。クレヨンで描いて、洗ってもいいようにクリーニング用のボンドを上に塗ったんです。3回目の洗濯でボロボロになって、売り物になりませんでしたが(笑) クレヨンで何でもできる人になりたいって、いろいろ試行錯誤しました。仕事が安定したのは30代になってから。技術的にある程度自信がついたのも30歳頃ですね。

クレヨンをマスターしてついた自信と、デビュー作

ともだちやま

▲今日は何して遊ぼうかな。そうだ、山で遊ぼう。滑り降りたり、ぶら下がったり。ぐにゃぐにゃの山にギザギザの山。山、山、山。山は僕の友だち『ともだちやま』(ビリケン出版)

クレヨンをマスターしたことで、「絵を描いていきたい!」と強く思うようになりました。描く方法を自分で編み出したので、自信を持って「クレヨンだったら何でもできます」と言えます。魚はこうすればできます、食べ物はおいしく描けます、描けるか描けないか、表現する方法をはっきり言えます。できないことが分かってくると、自分の自信につながってくるんですかね? それで絵を描いても大丈夫なんだなって思えるようになりました。

とにかく絵を描きたくて、イラストレーションのコンペも、絵本のコンペも、絵が描けるものなら応募していました。イラストの方は一切入らなかったのに、『ともだちやま』は、第11回ピンポイント絵本コンペの優秀賞に入ったんですよ。これが自作絵本のデビュー作になります。

小学生の時にドライブをしていて、広葉樹が多そうなほわほわした山が見えていて、そこに入ったら気持ちいいだろうなって思っていたんです。スキー場のある山って、ゲレンデの部分だけ削れていますよね。それがゲレンデの春の景色だとは子どもの頃は分からず、えぐれているのだけが見えるわけですよ。それで、あの大きさで滑り台をしたら面白いだろうなって、それを思い出してつくったんです。

絵本として出版された際には、全部描き直しました。絵本のつくり方から分からないし、編集の方とやり取りするのも初めてでした。最初は、雲ともっと遊ぶものでしたけれど、「山だけ」にというリクエストで直しました。

『ともだちやま』が賞に入って、絵本を出すことになって、ほかのいろんな仕事も、ちょっとずつ具体的になってきました。2010年はすごかったですね。賞に入ったのが3月、その間雑誌の仕事で魚を100匹描いて、10月にはその魚で展覧会をして、好きな力士の浴衣デザインをできたのもこの年でした。すごかったですね。


……加藤休ミさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


ページトップへ