絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、愛嬌ある妖怪が登場する「妖怪横丁」シリーズが人気の絵本作家・広瀬克也さんです。イラストレーターやグラフィックデザイナーとしても活躍されているなか、絵本作家としてデビューされるまでのいきさつや、子育てエピソード、手掛けているワークショップなどのお話などを伺いました。(【後編】はこちら→)
1955年、東京都生まれ。イラストレーター、グラフィックデザイナーとしても活躍。デザイン事務所に勤務しながら応募した「クレヨンハウス絵本大賞」で優秀賞を受賞。受賞作『おとうさんびっくり』(絵本館)で絵本作家デビュー。絵本作品に『さがしものはネコ』(架空社)、『みつけたよ!』『まぁだだよ!』(主婦の友社)、『妖怪横丁』『妖怪遊園地』『妖怪温泉』『妖怪食堂』(絵本館)、『ばけれんぼ』(PHP研究所)など。
▲仕事帰りのお父さんが宇宙人と仲良くなっちゃった!? 心あたたまるSF絵本『おとうさんびっくり』(絵本館)
ずっとイラストレーターやグラフィックデザイナーとして活動していて、はじめて絵本を出版したのは30歳を過ぎた頃です。20代半ばぐらいに五味太郎さん と知り合い、「広瀬、絵本作れよ」と声を掛けてもらったことがきっかけでした。
イラストレーターとして、絵本というひとつの分野としての表現方法があることはずっと意識していて、いつか絵本を作ってみたいと思っていたので、五味さんのそのひと押しではずみがついて、はじめて出版を意識した絵本作品を完成させたのは20代後半です。
でき上がった作品を、まず五味さんに見てもらったんです。そうしたら「いいんじゃないか?」と言ってくださって、「どこか(出版社を)紹介しようか」と言ってくれました。だけど、「いえ、自分で(出版社を)まわってみたいんです」と言ってしまったんです。今思うと、若気というより馬鹿げというか(笑) 若気の至りで、自分でまわってみたかったんですよね。
だけど、実際にまわってみたら、どこもだめで……。本当にみごとに全部だめでしたね。けれど、せっかくできた作品を押入れにしまったままにしておくのもどうかなと思って、その作品を「クレヨンハウス絵本大賞」に応募してみたんです。そうしたら優秀賞をいただいて、絵本館の編集長の有川さんに声を掛けてもらって出版することになりました。その時の作品がデビュー作の『おとうさんびっくり』です。
これはちょっとSFっぽい作品になっています。子ども向けにとか、かわいいだけの絵本は作りたくなかったんです。それは今も変わらないんですけどね。
ずっとナンセンス物の絵本が大好きで、例えば長新太さんや佐々木マキさんが好きなので、そういう世界観を意識しました。とくに長さんの、いったいどこではじまってどこで終わるの? みたいな。起承転結を無視して、まるごと1冊で訳の分からないおもしろさを作り上げている絵本に、すごく惹かれていました。
賞をいただいた後、クレヨンハウスで作品が展示されたんですけど、自分の作品を見ているお客さんのことを後ろからこっそり見ていたら、プッと笑っていて。それを見た時は、「あ、やったな」と、とてもうれしかったですね(笑)
▲僕はロケットの「サターン号」を呼び、土星にネコを探しに行くことに!『さがしものはネコ』(架空社)
▲おつかいを頼まれた男の子が迷い込んだ妖怪横丁! 愛嬌ある妖怪たちが続々登場する『妖怪横丁』(絵本館)
それから2作目『さがしものはねこ』が出版されるまで、だいぶ間が開いています。1作目を出した有川さんから「次、待ってるよ」と、ずっと言ってもらっていたんだけど、当時デザイン事務所に勤めていて、勤めながら絵本を作るというのは時間がとれないし、なかなか難しくて。
絵本を作るには集中しないとできないんだけど、勤めながらだとどうしても絵本に取り掛かれる時間が途切れ途切れになってしまう。それでなかなか作れなかったんですよ。僕にとって絵本を作るということは、それだけハードルが高かったんです。「でも、このままではしょうがないな」という気持ちでした。
そうしているうちに「月刊漫画ガロ」(現在休刊)にマンガ作品として発表した作品を絵本にということになり、架空社から出版されました。それが2冊目になります。かなりのスローペースです。その後もデザインの仕事が忙しかったこというのもあるんですけど、いずれいずれと思っているうちに、また間があいてしまいました。
そんな時、“妖怪”に出会いました。そこからですね、“絵本作家としての自分”が見つけられたのは。『日本の妖怪図鑑』(ミネルヴァ書房)という、全3巻で99の妖怪を紹介する本の挿絵を描いたんです。そしたら、有川さんから「創作絵本で、妖怪をやろうよ!」と言ってもらい、そこから『妖怪横丁』が誕生しました。もともと妖怪は子どもの頃から大好きでしたから、ラフの段階からすごく楽しかったです。ラフなのに描き込みすぎてしまったくらいです。色付けの段階でラフの勢いが収まってしまい、これじゃダメだと描き直したりしました(笑)
出てくる妖怪は怖いというより、愛嬌があるとよく言われます。あまりかわいくなりすぎないように、だけどグロテスクにならないように気をつけました。あの絵柄に行きつくまでに、こうじゃない、ああじゃないと試行錯誤して、最終的には単純化して描くのではなく、描き込むという方向に向かったんですよ。
そうすると、自分で言うのも変なんですけど、どんどん良くなっていったんです。この作品は描く時間も長くかかって、構想から完成まで4ヵ月かかりました。だけど最初から有川さんと「絶対妥協するのはやめよう」と話していたので、その分満足する作品ができました。
妖怪以外の登場人物も、まぬけでおっとりした男の子です。そしてその男の子のお父さんは、バケ忍者という妖怪です。ということは、あの男の子は人間なの? 妖怪なの? とか、お母さんはまだ手しか出てきていないけど、人間なの? とか色々聞かれるんですけど(笑) まだ出し惜しみしています。
最初は4冊も作れるとは思っていなかったのですが、まだこの先色々なことができそうだと思っています。現在は5作目を制作中なので、楽しみにしてください。
絵本を作る上で、1作目からずっと変わらず思っていることは、子どもに迎合したような絵本を作りたくないという思いです。「かわいい」だけの絵本ではなく、ちょっと変な所があるような、マニアックかもしれないけど、そういう絵本が作れたらなと思っています。
もともとが長さんや佐々木さんにあこがれて絵本の世界に入っているので、一風変わった翻弄というか、ちょっと外れたナンセンスとか、そういうのをずっと意識しています。
僕は子どもの頃から長さんの作品は見ているんです。幼稚園の頃から定期購読していた「チャイルドブック」に長さんの作品が掲載されていたし、小学生の時はSFシリーズや『星の牧場』(理論社)の挿絵とかもされているのを見て、「かっこいい!」と思っていたんです。イラストレーターとしても絵本作家としても、かっこよさを感じたんですよね。僕にとってかっこいい大人、あこがれでした。
……広瀬克也さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)