絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、絵本『うさぎくんとはるちゃん』『だいすきのしるし』などで、子どものあたたかく豊かな表情を描き続けている岡田千晶さんの登場です。ご自身でも3人の子育てを経験し、絵本に登場する小さな女の子は、「娘さんたちに似ている」と言われることも多いとか。ご自身の子どもの頃のお話や、子育て中の読み聞かせ体験などをお聞きしました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
大阪府生まれ。セツ・モードセミナー卒。絵本作家・イラストレーター。ボローニャ国際絵本原画展2010ほかの入選、入賞歴がある。絵本作品に『うさぎくんとはるちゃん』『だいすきのしるし』(岩崎書店)、『ぽっつんとととは あめの おと』(PHP出版)、『ちいさいわたし』(くもん出版)、『もうすぐもうすぐ』(教育画劇)、『あそびたいものよっといで』(すずき出版)、童話の挿絵に『ラッキーセブン』(ポプラ社)、『ムカシのちょっといい未来─ユウレイ通り商店街1』『ダンス・ダンス!─ユウレイ通り商店街2』(福音館書店)など多数。
ホームページ:http://okada-chiaki.com/
小さい頃は、あまりお友だちと遊ぶのが得意ではなかったので、よく近所にあったちょっとした山とか、畑とか田んぼ、あぜ道なんかにひとりで遊びに行っていました。春になるとタンポポやスミレを探したり、小さな虫を座ってじっと見たりしていましたね。今でも春の匂いみたいなものを感じると、そういう野原みたいな所に行きたくなります。
当時は絵本をたくさん買ってくれるような感じではありませんでしたが、親が小学校の入学祝いに、「世界こども名作全集」を、毎月1冊ずつ家に届くように契約してくれて、それが届くのを楽しみにしていました。話もおもしろかったけど、絵を見るのも楽しみでした。
小学生になってからは、バスで移動図書館がくるので、よく借りて読んでいました。小1の時に、好きな絵本を1冊まるごと写した記憶があります。あと、幼稚園や小学生の頃は『アタックNo.1』が流行っていて、ああいう四角い目の女の子の絵を、私もまわりの友だちもマネして描いていました。
だけど、小学3年生の頃、ある友だちが描いた絵を見せてもらった時に、「すばらしい!」と衝撃を受けて……その絵はみんなが描いているようなマンガの絵じゃなくて、オルガンを弾いている妹のうしろ姿を、一生懸命えんぴつでスケッチしたものだったんです。オルガンのイスに足をちょっとからめて、その足がイスにキュッと押されている感じが描かれているのを見て、とにかく子ども心にすごいなと思いました。
その絵を見たことで、その後自分の絵にどう影響を受けたとかはわかりませんが、その友だちの絵を見た時の気持ちはすごく覚えています。今もどこかでそういう絵を描きたいという思いが残っているように思います。
はるちゃんの家に預けられることになったうさぎくん。それぞれの交流を描いた心あたたまる物語『うさぎくんとはるちゃん』(岩崎書店)
私は大阪出身なんですけど、高校を卒業して就職した先が、大阪の小さな新聞広告のデザインをする会社でした。そこでカットを描かせてもらっているうちに、次第に他からもカットの依頼がくるようになって、会社を辞めてひとりでイラストの仕事をするようになりました。
そのうちに、もっと絵の勉強したいなと思うようになり、セツ・モードセミナーというデザイン学校で勉強するために上京しました。デザインの仕事は20歳前からやっていましたが、絵本のデビュー作は2010年に発売になった『うさぎくんとはるちゃん』なので、絵本作家になったのは最近です。
出版のきっかけは、あるギャラリーで、絵と絵本のラフ(あらすじを描いた下書きみたいなもの)を展示する機会があり、それを見た編集者の方に「これに文章を付けたものを持ってきてください」と声をかけられたことから。だけど、あらすじと絵はできていたんですけど、文章を書くことが苦手で、言葉にすることがなかなかできなくて、家でずっと悩んでいました。
それを見た夫(画家のおかだこうさん)が、見かねて(笑) 文章にしてくれて、共作で出版しました。夫も文章を書く人ではないので、絵本の文を書くのははじめてのことだったんですけど、私が「この絵はこういうことなんだよ」などと説明して、夫がそれを聞いて言葉にしてくれました。普段から絵を描く時も、「こういう表現をしたいんだけど、どうしたらいいと思う?」と夫に相談することがよくあります。
この話は、うちにうさぎがいるんですけど、このコがペットとしてうちにいるんじゃなくって、家の中を普通に立って歩いてくれたら楽しいだろうなと思ったことからできた話です。
子どもの頃から動物は好きなんですけど、できればペットとして飼うんじゃなくて、庭の隅で勝手に生活していてほしいと思っていました。たとえば動物とも人みたいにばったり会って、話したりできたらいいなとずっと思っていたので、まずうさぎが、うちの階段からゆっくり下りてくる姿を描いてみたのです。
その絵からいろいろイメージしていって、なぜこのコはここにいるのかな? そうしたら、どうなるのかな? という風にして話を考えていきました。
イラストレーターとしてずっとやっていこうと思ってはいたけど、3人の子どもの子育てで、思うように仕事ができなかった時がありました。3人いるので子育て期間が長く、最近やっといちばん下の息子が高校生になったことで、だんだん自分の時間を持てるようになりました。
最初は絵本を出すことを考えたことはなかったのですが、長い子育ての間に子どもの絵を描くことが多くなって、それが自然と絵本に結びついていきました。
子育て経験を経てと言うか、そんなちゃんとした親では決してなく(笑) なんとか育ててきた感じなので、経験で話を書けたりはしません。それに育児日記もつけていなかったし、どんな風に子どもが成長してきたかとかは、記憶でしか残っていないのですが、ただずっと子どもを抱っこしていた手触り感みたいなものが、今も自分に残っているので、そういったことが、絵に出たらいいなと思っています。
今思えば、小さい頃の姿をスケッチしていればよかったなとか、保育園の先生との連絡ノートのやりとりをしていたのを取っておけばよかったなと思うんですけど、何回か引っ越しをしていくうちに、なくなってしまって。その時は、絵本の仕事をするとは思っていなかったので、意識して残していなかったんですよね。
だけど、上のふたりは娘なんですけど、絵本に出てくる女の子は、娘たちをモデルにしているわけではないけど、似ていると言われます。二番目の娘が大学生なんですけど、友だちに「どこそこの本屋さんでチヨ(娘さんの名まえ)見たよ」とメールをもらったりするそうです。長女も「そっくりと言われる」と言っています。
絵を描いている時は、意識はしていないんですけどね。知らないうちに似てしまっているようです。
……岡田千晶さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)