絵本作家インタビュー

vol.120 絵本作家 小林ゆき子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、ちょっと怖くて幻想的な『ハロウィンのランプ』『ぴーかーぶー!』が人気の絵本作家・小林ゆき子さんです。はじめて子どもたちの前で読み聞かせをしたことによって新たに得たこと、そして絵本を通して子どもたちに伝えたい思いなどを伺いました。
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絵本作家・小林ゆき子さん

小林 ゆき子(こばやし ゆきこ)

デザイン学校を卒業後、会社員を経て絵本作家・イラストレーターに。主な作品に『ブラザーサンタ』『ハロウィンのランプ』(岩崎書店)『ポーリーちゃんのポケット』『おしゃれなねこさん』(教育画劇)『ぴーかーぶー!』(作・新井洋行、くもん出版)『しろくまくんのパンケーキ』『はるですよ』(フレーベル館)、『まいてきっておいしい!ひなまつり』『おってきってたのしい!たなばたまつり』(福音館書店)などがある。
Yukiko Kobayashi's Diary http://yukikokobayashi.blog.fc2.com/

子どもたちを前にはじめての読み聞かせ体験!

昨年の秋に、『ぴーかーぶー!』作者の新井洋行さんと二人展を開いた時、ハロウィンイベントとして、30人の子どもたちの前で読み聞かせをしました。はじめての体験でとても緊張して、子どもたちの方を全然見られなかったので、その時の子どもたちの表情は後で写真で見せてもらいました。

この時は『ハロウィンのランプ』を読みました。二人展ではこの絵本の原画を展示していたし、はじめて読んだわけではない子たちがほとんどだったはずなのに、おばけの場面ではみんな驚いた顔をするんですよね。

絵本は何回読んでも楽しんでもらえるんだなと思いました。ページをめくる前に、「次、こうなるんだよねー」とつっこみを受うけることもありましたけど(笑)

それまでは、絵本を作る上で絵を描き終えた時にいちばん達成感があったのですが、読み聞かせの反応を直接感じて、「絵本は子どもたちに読まれて、やっと完成した、世に出たってことになるんだな」と実感しました。

実際に読んで楽しんでくれている反応を、その場で感じることができたのは、すごく大きく貴重な体験でした。また、機会があれば読み聞かせを積極的にしたいなと思います。

多彩な世界観だけど、登場人物にある共通点が……

おしゃれなねこさん

▲おしゃれが大好きなねこさんが登場『おしゃれなねこさん』(教育画劇)

ポーリーちゃんのポケット

▲大きなポケットのついたあたたかいコートを着てお出かけ『ポーリーちゃんのポケット』(教育画劇)

小学生の女の子から気に入っているとよく言われる絵本が、『おしゃれなねこさん』です。この作品は、おしゃれで細かい女の子の世界がつまっている、自分の趣味に思いっきり走った作品です(笑)。

小学生の頃、1枚の絵の中に女の子の部屋があって、アクセサリーが置いてある様子が細かく描かれているような絵を見るのが本当に大好きでした。そんな自分が好きだった世界を思いっきり描いてみたいと思ったんです。

ねこさんのドレスがたくさん並んでいるクローゼットのページも、本当は4ページぐらい描きたいところを、ぐっとおさえて見開き2ページにおさました。女の子が好きなドレスが並んでいる、すごく大事な場面です。

そしてねこさんの部屋の奥にミシン部屋があるのですが、次に作る予定のドレスの型紙が貼ってあったりするんですよ。男性の編集者には、「ここまで細かく描かなくてよくない?」と言われてしまうような部分ですが、「女の子はここまで見るんですよ!」と言って、私と同じように細かいところまでかわいい部分を見るのが好きな子がいるに違いないと思い、細かく描きました。小さなお子さんにも楽しんでもらえると思います。

大人の方には、『ポーリーちゃんのポケット』のような、シンプルで静かなお話が好きと言われることも多いですね。

『ハロウィンのランプ』や『ぴーかーぶー!』のような、ダークなモンスターが出てくるアトラクションのような作品とはかなり違うし、『おしゃれなねこさん』のようなポップな女の子の世界とも違って、よく様々な作風があると驚かれることがありますが、どれも自分の中では、均等に整列されている好きな世界なんです。好きな世界が本当に多くて、いろいろな方面から描かせてもらえるのは本当に楽しいなと思います。

世界観が違っても、私の絵本に共通する点は、登場するキャラクターが基本的に「しっかりした子がいない」ということでしょうか。自己中心的な子、言うこと聞かない子、天然な子……キャラクターの一貫性はあるのかもしれません。作者の自分に通じる抜けたところがある気がします(笑)

私はとにかく絵の描き込みに時間がかかるので大変なのですが、絵を描くことが趣味なので、仕事が趣味になっているというか、楽しんで絵本を作っています。

主人公になった気持ちで楽しみながら読んでみる

小林ゆき子

読み聞かせをする時は、絵本のシーンのその場に居合わせている気持ちで読むといいのではないかと思います。例えば『ハロウィンのランプ』だったら、お母さんは主人公のジーナになった気分で楽しんで読むと、子どもも楽しんでくれると思います。読み聞かせをしてあげようと思うより、自分もいっしょに楽しんでいるという気分でいると、子どもにもすんなり伝わるかなと思います。

私の友だちから、「うちの子、本当に電車の本が好きで好きで、そればかり読んでいて……」という話をよく聞きます。でもその好きと思う気持ちって、とても大事だと思うんです。自分も体験しましたが、小さい時好きだった絵本をいつの間にか読まなくなって、興味が分散されていく……、そういうのも成長過程としてあるんじゃないかな。だから、好きなものばかり夢中になっていてもいいと思うし、逆にそれだけ好きなものがあるのはうらやましいことだなと思います。

お母さんとしては、お子さんにできるだけ色んな世界を見せてあげたいと思うのもわかります。そんな時は、お母さんだけに絵本を読んでもらうだけではなく、読み聞かせの会などに参加して、全然知らなかった絵本を読んでもらうのもいい機会だと思います。

以前、読み聞かせの反応を見たくて、ある幼稚園の読み聞かせ会を見に行ったことがありました。同じ絵本でも、食いつく子もいるし、まったく興味を持たない子もいる。報われないと思うことがあるかもしれないけど、好きなことを広げるために、ぜひその機会だけは与え続けたほうがいいと思います。

小さなきっかけがその子にどう影響を与えるかわからない。世界を広げるためにも、お子さんにはたくさん絵本を読んであげて、新たな興味を見つけるきっかけを作ってあげて欲しいと思いますね。


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