絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、「ばけばけ町」シリーズを始め、独特のユニークな作風で人気の絵本作家・たごもりのりこさんです。子どものころから絵本好きだったというたごもりさん。図書館司書や骨董屋、さらにはちんどん屋の経験もあるというユニークな経歴が生み出した絵本の魅力について伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
図書館司書や骨董品店での勤務を経て、絵本作家・イラストレーターに。主な作品に、『ばけばけ町へおひっこし』『ばけばけ町のべろろんまつり』『ばけばけ町でどろんちゅう』『ごっほんえっへん』(岩崎書店)、『おったまげたと ごさくどん』(文・サトシン、鈴木出版)、『狂言えほん そらうで』(文・もとしたいづみ、講談社)、そのほか「なにわのでっちこまめどん」シリーズ(文・村上しいこ、佼成出版社)などがある。
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▲おばけの町に引っ越したけんちゃん一家の、のんきで楽しい「おばけワールド」が楽しい『ばけばけ町へおひっこし』(岩崎書店)
幼少の頃から、絵本は常に身近にあるような環境で過ごしていたと思います。幼稚園の頃から、自宅に絵本が毎月1冊ずつ届けられる福音館「こどものとも」も購読していましたし、レオ・レオニの『スイミー』(好学社)や『あおくんときいろちゃん』(至光社)、ユリー・シュルヴィッツの『よあけ』(福音館書店)といった外国の絵本も、よく寝る前に母親に読み聞かせをしてもらっていました。これらの絵本は、今でも読み続けられていますよね。
もともと子どもの頃から図書館に行くことが好きだったので、将来は図書館で働きたいと思っていて、実際に図書館司書として勤務していたことがありました。たまたま児童書コーナー担当だったので、色んな絵本を読む機会に恵まれて、職員しか入れない閉架書庫にも入れて、昔の「こどものとも」のバックナンバーを読んだり、古い大正時代の絵本を読むことができました。
その後は、骨董品店(西荻窪の「ベビヰドヲル」)で働きました。そこは大正・昭和の骨董品を扱っているお店で、市松人形や昔の子どものおもちゃなどがあり、時には保育絵本「キンダーブック」の大変古いものが入荷することもありました。
自分自身、もともと古い児童文化の世界が好きでしたが、図書館や骨董品店で働いたことで、絵本の世界に改めて強く興味を持つきっかけになりました。この頃の経験は絵本作家になってからも影響を与えていると感じますね。
そんななか、『もののけ工作絵巻』という30ページの作品も手がけたのですが、当時の担当者に、「それを持って、他の出版社に売り込みに行きなさい」と言われまして……。それで、言われたとおり、まずは50音順に出版社をまわろう!と思いリストアップして(笑)、50音順でも早い会社名の岩崎書店に持ち込みに行きました。
そこで「何か1冊描いてみませんか」と言ってもらい、それから2ヵ月ぐらいでラフを持って行って、その後絵本として世に出たのが、『ばけばけ町へおひっこし』(岩崎書店)だったのです。この絵本デビュー作は、その後シリーズ化させていただき、現在3作出ています。怖いオバケの絵本というものではなく、明るいオバケの絵本です。
▲夏のある日、ばけばけ町は年に一度のばけばけまつり。けんちゃんはゆかたに着がえてお祭りへ!『ばけばけ町のべろろんまつり』(岩崎書店)
オバケや妖怪はもともと好きでしたが、かつて働いていた骨董品店でも、妖怪ものを好んで集めているお客さんもいらっしゃいました。そんなこともあって、シリーズ2作目の『ばけばけ町のべろろんまつり』(岩崎書店)に出てくる出店にも、骨董屋で扱っていたような妖怪のブロマイドを売る店が登場しています。
そして、おまつりのちらしを配るちんどん屋も出てきますが、私もじつは骨董屋で働きながら、ちんどん屋をしていたことがあり、派手な格好をして、ゴロス太鼓を叩いたり、旗振りをしながら、同じようにちらしを配っていました。あの恰好で電車で移動とかしていたんですよ! 当時の親方は亡くなってしまったのですが、戦後の下町を幼少期からちんどん屋として生きてきた方で、おかみさんはサーカス団の出身だったりと、昔の話がたくさん聞けました。この時に体験したことは、すごく面白かったですね。
私の絵本は、レトロなんだけど新しい、みたいなニュアンスのことを言われることがあります。自分では特に意識したことはありませんが、レトロさは骨董屋で働いた経験による影響が大きいと思います。だけど、絵本を読んでくれるのは現代の子たち。あえてレトロさを求められてはいないと思っています。
現在は物の進化のスピードがものすごく早いじゃないですか。電化製品などのデザインの移り変わりもすごく早い。だけど絵本は、これから電子書籍になるなどの変化はあるかもしれないけども、小さな子どもがお母さんといっしょに絵本のページをめくって読んでいく、というのは変わらない世界だと思うんです。
そんな絵本の中で、あえて少し古めかしいモチーフのものを描いていくということは、読んでくれた子どもたちが今知らなくても、例えば大人になって読み直しても違和感がないような、長い時間に耐えられるものになるのではないかと思っています。
私が働いていた図書館でも「おはなし会」が開催されていて、子どもに絵本を読む機会がありました。私はあまり読み聞かせは上手ではなかったのですが、先輩や同僚が選ぶ絵本の中には、大人の私でも興味を惹かれるものがありました。
その一冊が、『ねんどの神さま』(作:那須正幹 絵:武田美穂/ポプラ社)でした。主人公の男の子は、戦争を憎んで図工の時間に「ねんどの神さま」を作るのですが、大人になって彼はなんと兵器会社の社長になってしまいます。やがてねんどの神さまは彼の行為をいさめにきたものの、結末はねんどの神さまを破壊してしまう……、というあらすじです。なんだか神さまよりもお化けよりも、なにより人間が一番怖いんじゃないかというようなお話でした。
『ねんどの神さま』は絶版になってしまった絵本ですが、図書館にはあると思いますので、ぜひ読んでみていただけたらと思います。私にとっては絵本でこのような世界が表現できるのか!と、とてつもなく驚き、大人になってから別の視点で改めて絵本に興味を持ち直したきっかけになりました。
……たごもりのりこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)