絵本作家インタビュー

vol.114 絵本作家 中谷靖彦さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ビッグパーン!』や『おくのほそ道』などでおなじみの絵本作家・中谷靖彦さんです。絵本や紙芝居などさまざまな作品の中で、生き生きとしたキャラクターを描いている中谷さん。一体どのようにしてキャラクターを生み出しているのでしょうか? 人気作の制作エピソードも合わせて伺いました。
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絵本作家・中谷靖彦さん

中谷 靖彦(なかや やすひこ)

1968年、富山県生まれ。大学卒業後、富山地方鉄道株式会社勤務を経て、桑沢デザイン研究所卒業。オランダ・ユトレヒトなどでイラストを学び、帰国後フリーのイラストレーターとして仕事を始める。第25回講談社絵本新人賞を受賞し、翌年『ミーちゃんですョ!』(講談社)で絵本作家デビュー。主な作品に『ビッグパーン!』(農文協)、『おくのほそ道』(文・松尾芭蕉、編・齋藤孝、ほるぷ出版)などがある。
http://hikopico-days.jimdo.com/

キャラクターが自然に動き出すまで待つ

僕が絵本をつくる上で大切にしているのは、キャラクターがどう動いてくれるか、です。だからほかの作家さんのお話に絵をつける場合は、お話を何度も何度も読み込んで、このキャラクターならここでこんな動きをするんじゃないか、こんな表情をするんじゃないかと、読み取るところから始めます。そして、いろんなパターンのキャラクターを描きながら、どれがこのお話の中でもっとも活躍してくれるかを検討していくんです。

そのお話に一番ぴったりくるキャラクターが見つかると、キャラクターは自然に動き出します。僕はただそれを写し取っていくだけ。キャラクターが自然に動き出すまで待つことが、いいキャラクターを生み出すコツだと思っています。

おさるのパティシエ

▲熱いケーキ職人、おさるくんが大活躍! おもしろくておいしそうなケーキやおかしがたくさん登場する絵本『おさるのパティシエ』(小学館)。文はサトシンさん

『おさるのパティシエ』でも、主人公のおさるさんが決まるまでには、いろんなパターンのおさるさんを描きました。おさるさんの、職人として持っている情熱と、ウキャキャキャ!といういたずらっ子の部分とがバランスよく入っているところが、このお話のおもしろいところだと思うので、そのあたりをどう描いていくかは、結構悩みましたね。

結果的に、最初の数ページはちょっとおとなしめなんですが、ボウルに入れた材料を思い切って手でこね始めるあたりからギアが入ってきて、どんどんはっちゃけていく感じになりました。キャラクターが定まってくるとおさるさんが自然に動いてくれるので、僕自身もギアが入って、描いていてとても楽しかったです。

ふわっと匂い立つような絵本がつくりたい

おばけぼうやのみずじごく うたうためぐり

▲個性的なおばけがたくさん登場! お話と歌が一緒に楽しめる言葉遊び絵本『おばけぼうやのみずじごく うたうためぐり』(くもん出版)。文は川北亮司さん

僕は子どもの頃、絵本を読んだ記憶はほとんどないし、思い出に残っている絵本も一冊もないんですね。絵本のコンクールに応募しようと思ったときでさえ絵本を読まなかったので、何が絵本かもわからず手探りで進んできたようなものです。でも絵本作家になってからは、いろんな絵本を読むようになって、今ではすっかり絵本好きな大人になりました。

たくさんの絵本を読んでいく中で気づいたのは、自分がおもしろいなとか、好きだなとか思う絵本は、ふわっと匂い立つような感じがするということ。やさしい匂いだったり、あったかい匂いだったり、ちょっと独特な癖のある匂いだったりと、いろんな種類があるんですが、いいなと思う絵本には、なんとなく感覚的に匂いを感じるんです。そしてそういう絵本は、すごく印象に残るんですよね。

僕自身も、そんな風にふわっと匂い立つような絵本がつくれたらと思っています。具体的にはやっぱり、子どもたちが楽しんでくれる絵本、「何これ~?」って思わず笑っちゃうような絵本をつくっていきたいですね。教育的な絵本ももちろんあっていいと思うんですが、絵本には知識を得るだけじゃなくて、人の心をやわらかくしたり、あったかくしたりといった効果もあって、それがその人にとって大きな肥やしになるんじゃないかと思うんです。僕の絵本も、誰かにとってそういう存在になってくれたらうれしいです。

せっかく昔、鉄道会社に勤めていた経験があるので、電車の絵本もいつかつくりたいですね。ほかにも、双子とか化石とか、自分の中にいくつか気になるキーワードがあるので、今後はそういったものを題材に絵本をつくっていきたいなと思っています。

ときには自分では選ばないような絵本も手にとってみよう

わたしたち うんこ友だち?

▲友だちと「うんこ」の話、できるかな?『わたしたち うんこ友だち?』(今人舎)。文は高橋秀雄さん

僕は親子で絵本を楽しむ時間というのを経験していないので、想像でしかないんですが、それはとても素敵な時間なんだと思うんですね。

0歳、1歳、2歳……と、子どもが成長していく中で、さまざまな絵本に出会いますよね。そのときどきで子どもも親も、いろんなことを感じると思うんです。そしてそれは、何かをつかんだり、成長したりするチャンスだと思うんですよ。子どもと一緒にそういう時間が持てるっていうのは、すごくいいことなので、その時間をぜひ大切にしてほしいなと思います。

子どもにどんな絵本を読んであげたらいいか迷ってしまう方もいらっしゃるようですが、まずは自分が好きな絵本を読んであげるっていうのがいいですよね。好きな絵本なら、楽しく読み聞かせできますから。あとは、ときには自分では絶対に読まないだろうなと思う絵本をあえて選んで、子どもと一緒に読んでみるのもおすすめです。図書館の本棚を前に、目をつぶって適当にそこらへんにあるものを選んでみたりするんです。

自分の意思をまったく入れずに選んでみると、思わぬ掘り出しものに出会えることもあります。自分の好みでばかり選んでいると、どうしても偏ってしまいがちですよね。でも、絵本はこういうもの、といった枠を取っ払って、いろんな絵本との出会い方を楽しんでいると、世界がもっともっと広がるんじゃないかと思います。


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