絵本作家インタビュー

vol.113 絵本作家 田中六大さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『だいくのたこ8さん』の絵などでおなじみの絵本作家・田中六大さんです。漫画家としての顔も持つ田中さんの絵は、ときに繊細、ときに大胆。そしてその素顔は、とても優しげな雰囲気の子育てパパ! そんな田中さんに、絵本作家になるまでの道のりや絵本への思い、子育てにまつわるあれこれを伺ってきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・田中六大さん

田中 六大(たなか ろくだい)

1980年、東京都生まれ。多摩美術大学院美術研究科絵画専攻版画コース修了。漫画家、イラストレーター、絵本作家。作品に『だいくのたこ8さん』(文・内田麟太郎、くもん出版)、『ねこやのみいちゃん』(文・竹下文子、アリス館)、『へいきへいきのへのかっぱ!』(文・苅田澄子、教育画劇)、『しょうがっこうへいこう』(文・斉藤洋、講談社)、『おすしですし!』(文・林木林、あかね書房)などがある。
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両親からの影響で、自然と絵を描くように

クッキー缶の街めぐり

▲フランス語版も出版されている、田中六大さんの漫画『クッキー缶の街めぐり』(青林工藝舎)

母が美大を出て、絵を描いたり絵画教室をやっていたりしたので、僕も小さい頃から自然と絵を描いていました。絵本もいろいろ読んでもらいましたよ。僕がよく覚えているのは、嵐山光三郎さんと安西水丸さんの『ピッキーとポッキー』。マルセル・マルソーの『かえってきたビップ』も好きで、よく読んでもらっていたようです。漫画好きな父の影響で、漫画もよく読んでましたし、小学生の頃からノートに漫画を描いたりもしていました。

そんな感じで思いっきり文化系路線だったんですけど、少しは意外性がほしいなと思って、部活は美術部などではなく、陸上部に入ってたんです。長距離を走ってました。高校時代には、生物学を勉強したいと思って理系への進学を考えたこともあったんですけど、数学のテストで4点をとってしまって、あきらめることに……(遠い目) やっぱり好きな道に進もうってことで、高3から美術の予備校に通って、美大に進学しました。

大学での専攻は版画で、リトグラフや木版などをやっていました。漫画も描いて投稿していて、大学院を卒業するくらいの頃に漫画雑誌「アックス」で新人賞をいただいたんです。それを機に出版された『クッキー缶の街めぐり』という漫画は、自分でもびっくりしますが、フランスでも翻訳されて出版されているんですよ。

漫画も絵本も好きだったので、将来的には、たむらしげるさんや佐々木マキさんのように、漫画も絵本も両方描くような作家になれたらいいなと、漠然と思っていました。

『だいくのたこ8さん』で絵本作家デビュー

だいくのたこ8さん

▲田中六大さんの絵本作家デビュー作の童話『だいくのたこ8さん』(くもん出版)。文は内田麟太郎さん

子どもの本の仕事をするようになったのは、竹下文子さんの児童書『ひらけ! なんきんまめ』(小峰書店)がきっかけでした。竹下さんが挿絵を頼んでくれたんです。そして、『ひらけ! なんきんまめ』を見た編集者さんから声をかけてもらって、内田麟太郎さんが文章を書かれた『だいくのたこ8さん』で絵本作家デビューすることになりました。

『ひらけ! なんきんまめ』では、結構ちまちまと細かい絵を描いたんですが、『だいくのたこ8さん』はどーんとダイナミックに描いてほしいとリクエストがあったので、どういう風に描くか方向性を決めるまではちょっと苦労しました。絵のタッチとか構図とか、どういうのがこの絵本に一番合うかといろいろ考えて、木版画にしてみたり、筆で描いたりと、さまざまなパターンのサンプル画を描きました。

お話そのものがそもそもおもしろかったので、描くのも楽しかったですね。それまではわりと細かい絵ばかり描いていたんですけど、こういう大胆な絵もわりと向いているのかなと思いました。

たこ8さんの顔は、実は僕の弟に似てるんですよ。あの太い眉とか。似せて描いたつもりはないんですけど、気づいたら似てたんですよね。大工さんの雰囲気は、以前、大工さんのもとでフローリングなどの補修のアルバイトをしていたことがあったので、その頃に出会った大工さんたちのことも思い出しながら描きました。

さまざまな作家さんと組むことで、絵の幅が広がる

僕はまだ、自分で作・絵を手がけた絵本は出していないんですが、その分いろんな作家さんと組んで絵本をつくらせてもらっています。

『へいきへいきのへのかっぱ!』は、ヒーローとヒロインと悪役が登場する勧善懲悪のお話だったので、キャラクター像は迷わずパッと浮かびました。主人公の登場シーンとか、動きを表す効果線とか、意識的に漫画っぽく描いてみたんですよ。元気の出る楽しい絵本に仕上がったのではないかと思います。

『おすしですし!』は、10冊分くらいの内容が凝縮された絵本だったので、描くのも大変でしたね。お寿司はもともと好きだったんですけど、魚のことはそれほど知らなかったので、描くときは図鑑などでしっかり調べてから、きちんと特徴を捉えて描くようにしました。前よりも魚に詳しくなったので、次いつ魚の絵本の話が来ても大丈夫です!(笑)

へいきへいきのへのかっぱ!
おすしですし!
しょうがっこうへ いこう

▲困っている人の味方“へのかっぱ”が大活躍!『へいきへいきのへのかっぱ!』(文・苅田澄子、教育画劇)。10冊分のおもしろさ! 林木林さんの言葉遊び絵本『おすしですし!』(あかね書房)。新1年生向けの、遊んで学べる小学校ハウツー本『しょうがっこうへいこう』(文・斉藤洋、講談社)

いろんな作家さんと組んでいると、こういう絵にしてほしいというイメージが結構しっかりある方もいれば、何でも好きなようにやっていいという方もいるので、そのたびに迷ったり考え込んだりするんですけど、それでもやっぱり、いろんな方と組んで絵本をつくるのはおもしろいですね。自分にはないもの、自分では思いつかないようなものを描くことになるので、毎回とても新鮮なんです。作家さんの文章に刺激を受けて、絵の幅が広がっているような気がしています。


……田中六大さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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