絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『うんぴ・うんにょ・うんち・うんご』をはじめとする「うんこのえほん」シリーズでおなじみの絵本作家・村上八千世さんです。トイレ環境のプランニングや全国での講演会など、便育教育のスペシャリストとして活動されている村上さんに、「うんこの大切さ」についてたっぷりとお話しいただきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら)
大阪府生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了(発達心理学)。アクトウェア研究所代表。トイレなど排泄環境をはじめ、子どもの保育・教育環境に対する提案を、建築・設備などのハードと保育・教育プログラムなどソフトの両面から行っている。また「排泄」「子ども」をキーワードに研究活動を続けている。主な絵本に『うんぴ・うんにょ・うんち・うんご』『うんこダスマン』『ぶりっぺ・すかっぺ』(絵・せべまさゆき、ほるぷ出版)などがある。アクトウェア研究所 http://actwarelab.com/
トイレトレーニングは、親としてはできるだけ早く終わらせたいですよね。
子どもにも、早くおむつを卒業して親に褒められたいという気持ちがあると思うんですが、その一方で、まだしばらくは親に甘えていたいという気持ちもあるんですね。排泄は、食事や着替えなどの生活習慣の中で、一番最後にできるようになること。それまでは何でも手厚く面倒を見てもらっていたのに、排泄まで自分でできるようになってしまったら、もう完全に自立してしまう…… それでいいの?という葛藤が子どもにはあるんですね。だからわざとぐずぐずしたりするんです。
そんな気持ちでいる子どもに対して、親が「さっさとおむつを卒業してちょうだい!」などと焦って接していると、子どもは不安になってしまいます。だから、トイレトレーニングを早く終わらせたいなら、むしろ逆におむつ交換をまめにしてあげて、思いっきりコミュニケーションを密にする方が、効果的なんじゃないかと思います。
▲村上八千世さんがコンサルティングに携わった埼玉県・浦和ひなどり保育園のトイレ(左から0~1歳児用、2歳児用、3~5歳児用)。それぞれの年齢の発達に合わせたオープントイレ(保育室とトイレの間に余計な仕切りを設けず、子どもが自由にリラックスしてアクセスできるようにしたトイレ)です
あと気になるのは、おむつの頃には「いいうんち出たねぇ」と褒めていたのに、トイレトレーニングが終わったとたん、親の態度が180度、変わってしまうこと。うんこは汚くてくさいもの、だからうんこの話なんて下品なのでやめなさい!……親がそんな風に考えていたら、子どもだってそうなりますよね。
小学校で「今日はうんこのお話をします」と言うと、「うんこうんこって何回も言わないで。気持ち悪くなるから」と耳をふさぐ子もいますし、「うんこなんて汚くてくさいもの、出なければいいのに」って言う子もいて、驚かされます。
子どもにうんこの話なんてして、大人になっても人前で「うんこ」とか言うようになったらどうするんですか、なんてご意見もたまにあるんですけど、そんな心配はいらないんですよ。むしろ子どもの頃にうんこのことを言い合える親子の方が、信頼関係も深まるので、子どもがいつまでも「うんこ」なんて言って親の気をひくようなことはなくなると思います。
『うんぴ・うんにょ・うんち・うんご』で、「野菜不足だと黒くて硬い『うんご』が出るんだよ、だから野菜をしっかり食べてね」と話したら、「うんごが出たので野菜を食べたら、次の日バナナうんちが出ました」という感想を書いてくれた子がいたんです。これってすごいことですよね。自分のうんこを見て食生活に関心を持って、アクションを起こしているわけですから。
それなら今度は、毎日の生活とうんこのかかわりをもっとわかりやすく伝えられたら…… そんな思いから生まれたのが、『うんこダスマン』です。「あさごはんいただきのじゅつ」「からだのびのびのじゅつ」「うんこタイムのじゅつ」など、元気にうんこをするために必要な生活習慣を5つの術にまとめました。
▲『うんこダスマン』と、CD付きの絵本『うんこダスマンたいそう』。いずれも絵・せべまさゆき、ほるぷ出版。一番右の画像は、最近できあがったというダスマンの着ぐるみ。今後講演会などで大活躍の予定だそうです!
『うんこダスマンたいそう』というCD付きの絵本もあるんですよ。歌と絵に合わせて体を動かすことで、おなかの中のうんこをイメージして、楽しく気持ちよくうんこができるようになる体操の絵本です。
子どもたちって本当に素直だなと思うんですけど、この「ダスマンたいそう」をすると、体操を終えたとたん、みんなすごく喜んでトイレに行くんです。それで、うれしそうに「うんこ出たー!」って。「ほんとに!? すごーい!!」って、こっちが驚くくらいです。
先日、お医者さんの集まる会合に参加したときに話題に上ったんですけど、便秘の対策で一番有効なのは、野菜の繊維よりも運動なんだそうです。「ダスマンたいそう」をちょっとやっただけで出るんですから、普段はよっぽど運動が足りてないってことだと思うんですよね。みなさんも、親子で「ダスマンたいそう」をすることで、楽しく生活改善して、快便につなげてほしいなと思います。
▲新作『ぶりっぺ・すかっぺ』(絵・せべまさゆき、ほるぷ出版)。テーマは“おなら”です
排泄物を忌み嫌うのは、人間だけなんですよ。動物はにおいで自己PRして、異性を惹きつけたりしますよね。犬がおしっこで縄張りを主張するのもそうです。人間は自分から出た排泄物を目にも触れないようにする傾向がありますが、なにも恥ずかしがる必要はないと思うし、むしろ排泄物は体からのメッセージだと捉えて、もっと関心を持つべきだと思うんです。
私が「うんこのえほん」シリーズで一貫して伝えてきたのは、もっと排泄物に注意深くなろうよ、自分の体のことにもっと関心を持とうよ、ということです。大人も子どもも、体のことに無関心すぎると思うんです。だから絵本をきっかけに、もっと体のことを知ってほしいなと思っています。
新作『ぶりっぺ・すかっぺ』では、おならをテーマにしました。おならの音やにおいには意味があって、それを知っていれば自分の健康状態がわかるんですね。巻末には、今日食べたもので明日のおならの予報ができる「あしたのおならよほう」という付録をつけました。これを使えば、うんこよりも手軽に健康状態がチェックできます。
最近、子どもに「自分のうんちを見る?」と聞くと、「見ない」と言う子がすごく多いんですよ。「見るもんじゃないと思ってた」とか「汚いしくさいから絶対見ない」と言う子もいれば、「立ったらもう流れてるから見ない」なんて子も……いい便器をお使いなんですね、なんて(笑) 大人も同じで、「なんとなく見ない」「見る習慣がない」という答えが返ってきます。
でも、うんこを見るようにすると、自分の健康状態に関心が向くんですよね。おならだってそうです。音やにおいに注意を向けることは、健康対策につながるんです。だから、親子でもっとオープンに排泄の話をしてみてください。うんこやおならについて話すことで、親子の絆が深まるはずです。そのために「うんこのえほん」シリーズを活用してもらえたらうれしいです。