絵本作家インタビュー

vol.108 絵本作家 村上八千世さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『うんぴ・うんにょ・うんち・うんご』をはじめとする「うんこのえほん」シリーズでおなじみの絵本作家・村上八千世さんです。トイレ環境のプランニングや全国での講演会など、便育教育のスペシャリストとして活動されている村上さんに、「うんこの大切さ」についてたっぷりとお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・村上八千世さん

村上 八千世(むらかみ やちよ)

大阪府生まれ。早稲田大学大学院修士課程修了(発達心理学)。アクトウェア研究所代表。トイレなど排泄環境をはじめ、子どもの保育・教育環境に対する提案を、建築・設備などのハードと保育・教育プログラムなどソフトの両面から行っている。また「排泄」「子ども」をキーワードに研究活動を続けている。主な絵本に『うんぴ・うんにょ・うんち・うんご』『うんこダスマン』『ぶりっぺ・すかっぺ』(絵・せべまさゆき、ほるぷ出版)などがある。アクトウェア研究所 http://actwarelab.com/

学校のトイレ事情に危機感を覚えたのがきっかけ

がっこうでトイレにいけるかな?

▲学校に入る前に読んでおきたい一冊『がっこうでトイレにいけるかな?』(絵・せべまさゆき、ほるぷ出版)原寸大の和式便器ポスター付き!

私はもともとトイレ空間を提案する専門家として、主に観光地などのパブリックトイレの設計のコンサルティングを仕事としていたんですね。

そんな中、ある仕事で小学校のトイレを調査することになったんです。実際に全国各地の小学校のトイレに出向いて調べたんですが、驚いたのは、汚いトイレが多いこと。掃除を全然していないトイレもあって、そのせいで子どもたちが学校でトイレに行かないという問題も起きていたんです。こんな汚いトイレは大人だって使いたくないなと思うような、ひどい状態でした。

ただ、子どもたちの声に耳を傾けるうちに、きれいなトイレなら行くかというと、そういうわけでもない、ということもわかってきたんですね。トイレに行かない理由を尋ねると「学校では恥ずかしいから」。「なんで学校だと恥ずかしいの?」と聞くと「みんなにうんこしただろうって言われるし……」とのこと。そこから、トイレというハード面だけを変えても解決できない問題があると知ったんです。

この状況を改善するためには、「うんこは恥ずかしいことじゃないんだよ」と話して聞かせる機会が必要だと思いました。それで、有志の人たちとともに、うんこの大切さを話す出前教室を始めたんです。

でも、「恥ずかしい」と言うこどもたちにただ「恥ずかしくないよ」と言うだけでは、効果的とは思えませんよね。それで、もっとうんこのことをわかりやすく話してその大切さを伝えれば、恥ずかしいという気持ちもなくなるんじゃないかと考えたんです。そうして生まれたのが、「うんぴ」「うんにょ」「うんご」などのネーミングと、絵本『うんぴ・うんにょ・うんち・うんご』です。

うんこを定義づけした絵本『うんぴ・うんにょ・うんち・うんご』

うんぴ・うんにょ・うんち・うんご

▲これを読めば気持ちよくトイレに行ける!『うんぴ・うんにょ・うんち・うんご』(絵・せべまさゆき、ほるぷ出版)

うんこに名前をつけようと思ったそもそものきっかけは、子どもたちの言葉遊びでした。子どもたちが「うんこの五段階活用」と言って、「うんも」「うんど」などと呼んでいたのがヒントになっているんです。

「うんこ」や「うんち」だとストレートすぎて言いにくいけれど、「うんど」や「うんも」なら言いやすいんだな、それならうんこを特徴別に定義づけて、それぞれにネーミングをつけたらおもしろいんじゃないか―― そんな思いから、「うんぴ」「うんにょ」「うんご」といったネーミングが生まれました。

出前教室では、「どろどろの『うんぴ』が出るのは、冷たいものばかり食べ過ぎたときだよ」「カチカチポロポロの『うんご』が出るのは、野菜不足のときだよ」などと子どもたちに話して、うんこによって体の健康状態がわかるんだということを伝えていきました。その様子が取材されて新聞記事になり、その記事を見た出版社から、絵本にしませんかとお話をいただいたんです。そうして2000年に『うんぴ・うんにょ・うんち・うんご』が出版されました。

子どもたちの反応はというと、出前教室では大きな紙にそれぞれのうんこを描いたものを見せるんですけど、小学校低学年までの子はそれを見ただけでもう大爆笑。でも小学校高学年になると、恥ずかしがるんですよね。だから、うんこを恥ずかしいものだと思うようになる前に、うんこの大切さについてもっと話す機会を持つべきだなと思っています。

うんこはひとつのコミュニケーションツール

絵本作家・村上八千世さん

かのフロイトは、うんこを「子どもから愛する人へのプレゼント」とたとえているんですが、本当に的を得た表現だなと思います。

赤ちゃんって、自分では何もすることができなくて、お世話してもらうばかりの存在なんですけど、唯一自分から差し出すことのできるものが、うんこなんですね。そして、それをどんな風に受け取ってもらえるかで、愛されているかどうかを確かめるんです。言ってみれば、うんこはコミュニケーションツールのひとつというわけです。

親の愛情をもっと自分に向けたいと思う子が、うんこを武器に親の注意をひきつけるということは、よくあることなんですよ。たとえば、おむつ返りもそうですよね。一度はおむつのとれた子が、またおむつをしないとだめになるとか、うんこのときだけわざわざおむつに履き替えるとか……そんなとき子どもは、親の愛情を求めているんです。

こんな事例もありました。親子3人が同じ居間にいるんですが、お母さんはパソコンに向かっていて、お父さんは新聞を読んでいるんですね。子どもは一人で遊んでるんですが、かまってほしくてお父さんに声をかけます。でもお父さんは「うん?」なんて感じで、新聞を見ながら生返事。全然かまってくれないんですね。するとその子は、積み木を投げたりして音を立てて気を引こうとするんですが、それでもだめ。お母さんも「あとでね」…… そんなことが続いたあと、最終手段として子どもが言ったのが、「うんこ出ちゃった」だったんです。

「うんこ出ちゃった」と言えば、「大変!」と言ってお母さんもお父さんもすぐに寄ってくるというのが、わかっているんですね。でも、トイレに連れて行ったら「出ないもん」なんてニコニコしていた―― 子どもって、謀ってか謀らずか、そういうことをするんですよ。

このことからも、うんこが親子の信頼関係とすごく密接な関係があるということがわかると思います。


……村上八千世さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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