絵本作家インタビュー

vol.107 絵本作家 林木林さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ありさんとぞうさんのおさんぽ』などの絵本で注目を集める詩人で絵本作家の林木林さんです。『どうぶつぴったんことば』や『おすしですし!』など、楽しい言葉遊び絵本でも人気の林さん。言葉遊びの魅力や絵本に込めた思い、新作の制作エピソードなど、たっぷりとお話しいただきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・林木林さん

林 木林(はやし きりん)

山口県生まれ。「暮しの中に詩を」をコンセプトに、詩や絵本、言葉遊び作品の創作や自作詩のテレビ、ラジオ、CM等での朗読など、幅広く活動。主な絵本に『ありさんとぞうさんのおさんぽ』(絵・ふくだとしお+あきこ、鈴木出版)、『どうぶつぴったんことば』(絵・西村敏雄、くもん出版)、『おすしですし!』(絵・田中六大、あかね書房)、『なつやさいのなつやすみ』(絵・柿田ゆかり、ひかりのくに)などがある。
詩人・絵本作家・言葉遊び作家 林木林のホームページ http://www.hayashikirin.com/

バナナの三本姉妹が主役! 新作『バナナンばあば』

新作の『バナナンばあば』は、バナナのおばあちゃんたちが主役のお話です。

バナナって、茶色い“しみ”ができるじゃないですか。そこから、おばあちゃんのキャラクターにしたらおもしろそうだなと連想して、何本かつながっているからバナナの三本姉妹にしようということで、お話がふくらんでいったんです。絵本ってどちらかというと、かわいらしいキャラクターが多いので、“しみ”があるバナナが主役っていうのは、なかなかめずらしいんじゃないかと思います(笑)

巻末には、バナナの“しみ”についてのちょっとした説明も入れました。あの“しみ”はシュガースポットと呼ばれるものです。シュガースポットが出てきた頃が一番甘くて、食べ頃なんですよ。

バナナンばあば
どうぶつぴったんことば
こけこっこー

▲林木林さん×西村敏雄さんのコンビで生まれた絵本『バナナンばあば』(佼成出版社)、『どうぶつぴったんことば』(くもん出版)、『こけこっこー』(鈴木出版)

西村敏雄さんと組むのは、『どうぶつぴったんことば』『こけこっこー』に続いて3作目となりました。今回も、西村さんの描くキャラクターがなんとも絶妙で……とぼけすぎず、控えめすぎず、どことなく上品さもあるんですよ。色合いやシルエットなども、とても“おばあちゃんバナナ”らしく描いてくださって、さすが西村さん!と思いましたね。おかげで、ちょっといじわるなところもあるけれど、憎めないキャラクターに仕上がりました。

バナナのおばあちゃんたちは、頭がつながっている間はなかなか意見が合わずにけんかしたりするんですね。でもいざ離れてみると、自由気ままに一人でいることもできるのに、やっぱり一緒にいたいと思うようになるんです。そんな、離れて気づくお互いの大切さみたいなものも、感じてもらえたらいいなと思っています。

詩情あふれる絵本をつくっていきたい

おおきなけやき

▲韓国でも翻訳出版されている、大人もじーんとくる一冊『おおきなけやき』(鈴木出版)。絵は広野多珂子さん。中国でも翻訳出版される予定だそうです

詩が浮かぶのは、散歩中だったり、ぼーっとしているときだったり、自然の中で葉っぱを眺めているときだったりと、いろいろなんですけど、大抵は一人でいるときですね。一人でいると、心がすーっと落ち着いてくるんです。まるで、ばしゃばしゃと波立っていた水面が穏やかになって、さーっと澱が沈んで、水がどんどん透き通っていくみたいな感じで……そういう状態のときに、詩がふっと出てきます。

心の片隅に残っていた感動を、しばらく経ってから絵本にしたこともあります。以前、故郷の山口県で山歩きをしていたとき、大きな木が倒れているのを見たんですね。その倒れた木から、ほかの小さな植物たちの命が芽生えている様子を見たとき、胸を打たれて……あれこそ命の姿だ、という思いが心の中にずっと残っていたんです。それを絵本にしたのが『おおきなけやき』です。主役は倒れた木なんですが、どんなときでも希望はあるということを伝えたくて書きました。

私はこれまで、わいわい遊べる言葉遊びの絵本から、『おおきなけやき』のようなじっくりと読ませるタイプのお話まで、いろんな作品を書いてきましたし、これからもいろんな作品を生み出していけたらと思っています。ただ、どんな作品を書くときにも共通しているのは、詩を感じていただけるような絵本をつくりたいということです。

詩に触れると、心が癒やされたり、潤ったり、豊かになったりしますよね。生きる上でのヒントになることもあると思いますし、言葉遊びの詩であれば、そこから笑いが生まれて、楽しくなったり、幸せになったりもするでしょう。自分の詩がそんな風に、誰かの素敵な時間につながっていけばいいなと思いながら、絵本を書いています。

親子一緒に言葉で遊ぶ 輝かしいひととき

ありさんとぞうさんのおさんぽ

▲大きなぞうさんと小さなありさんの、ほのぼの楽しいお散歩を描いた『ありさんとぞうさんのおさんぽ』(鈴木出版)。絵はふくだとしお+あきこさん

私は小さい頃から言葉遊びが大好きでした。言葉遊びって、エコなんですよね。言葉さえあれば、何も道具はいりませんし、いつでもどこでもできるじゃないですか。しりとり、だじゃれ、早口言葉、回文、あいうえお作文、替え歌など、いろんな言葉遊びがあるので、いつまででも遊べますしね。

お母さんと小さな子がしりとりをしながら手をつないで歩いている……そんな光景を見かけて、とても幸せな気分になったことがあります。言葉で遊ぶって、こんなにキラキラとした幸せな時間なんだなって、しみじみ思ったんです。「道がわからなくなっちゃった!」と慌てるお母さんの横で、「まいごの まいごの おかあさん~♪」と替え歌を歌っている子を見かけたときは、おかしくて笑っちゃいました。ピンチも笑いに変えてしまう力が、言葉にはあるんでしょうね。

言葉ってそんな風に、人を幸せにできるものなんだと思います。だからみなさんにもぜひ、絵本の中からヒントを得て、普段の生活の中でも言葉遊びを楽しんでいただきたいですね。お父さんお母さんも恥ずかしがらずに、子どもの心を思い出して、一緒にだじゃれとかで笑い転げてみてください。きっとそんな楽しい時間が、親子の絆につながっていくんだと思います。


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